『機械じかけのマリー』に惹きつけられる理由 与えられた役割に真摯に向き合う2人の姿

 「俺様キャラ」が私だけに見せる弱い姿があって欲しい……。

 そんな乙女の願いを叶えてくれるのが、あきもと明希さんの『機械じかけのマリー』(白泉社)だ。本作の導入は、以下のように始まる。

 偉い家の次期当主アーサーは「超」が付くほどの人間嫌い。幼い頃から 毒殺・暗殺・誘拐・監禁を幾度となく経験をし、極度の人間不信に陥り人格が破綻……(ついでに世間からも身を引いていった)。

 アーサーは人間が大嫌いで使用人も近くに近づけさせない。そんなアーサーは使用人のロイに言った。機械じかけのメイドが欲しい、と。しかしマンガ世界ではそこまで科学技術が発達していない。ロイは苦肉の策に出た。

 もうメイドは機械じかけってことで、生身の人間にやらせちゃおう!!!

物語の鍵となるのは……

『機械じかけのマリー(1)』

 さて、アーサーは典型的な「俺様キャラ」だが、彼の持つ背景は複雑だ。嘘をつく人間は許さない――。マリーはそんな彼の元、「ロボット」として働く。マリー、本当にそれでいいの? アーサーはマリーの嘘を許せるのか、それが物語の鍵になるだろう。

 主人公の少女より、少年の方がナイーブな側面を持っているマンガがある。

 高屋奈月『フルーツバスケット』、中条比紗也『花ざかりの君たちへ』、葉鳥ビスコ『桜蘭高校ホスト部』、藤原ヒロ『会長はメイド様』……。それは白泉社の少女マンガ作品に受け継がれているものだ。

 『機械じかけのマリー』もまた少年(青年)の方が触れがたい背景を持っていて、その流れを汲む。そこで惹かれるのは、マリーの「メイド・ロボット」しての気高さと、そのいたいけさだ。

 マリーは元格闘家で、生まれつき表情が乏しい。そんな彼女が読者に愛しいと感じさせるのは与えられた役割を、キチンと演じ切ることを第一にしていることだろう。またその努力は小さなものであればあるほど、いじらしさを覚えさせる。また、アーサーも与えられた役割――次期名家の当主として、十二分なほどに働きを見せている。

 現代社会において、「働く」(「ロボット」はチェコ語で「強制労働」の意味を持つ「ロボタ」を語源にしているという説がある)ということについても、またマンガを読み進めるたびに深い考察が得れそうだ。

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