進撃ロスには『地獄楽』がおすすめ! 忍者×ダークファンタジーの魅力
『チェンソーマン』作者である藤本タツキのアシスタント経験もある賀来ゆうじが、心と死を描くファンタジー作品として描きあげた『地獄楽』。本作の1番の特徴はやはり、バトルロイヤル作品として魅力あるアクションを描きながら、ダークファンタジーの王道をしっかりと押さえている点だろう。
「神秘の孤島から仙薬(不老不死になる薬)を持って帰還せよ」。このなんとも漫画好きの心をくすぐる指令が、本作の主題である。これを受け画眉丸は、1つの島に上陸するのだが、そこではこの世のものとは思えない光景が所狭しと広がっていた。最初は訳がわからないまま奮闘するも、徐々に島の核心に迫っていく画眉丸。この絶望に打ちひしがれながらも壁を突破し、世界像が次々と明らかになっていく様子は、『進撃の巨人』の影響も感じさせる。
また孤島には画眉丸と同じ死刑囚、佐切と同じ処刑人を務める首斬りの達人「浅ェ門」の面々が多く上陸する。目標に向かって戦闘を続ける死刑囚や浅ェ門、そして立ちはだかる強大な敵達が繰り広げるバトルは、いつ誰が死んでもおかしくないと感じさせるスリリングな展開と、ファンタジー要素も相まって圧倒的なスケールで描かれている。そしてその戦いの中核を担った「タオ」という力の存在も、『HUNTER×HUNTER』の「念」や『呪術廻戦』の「呪力」に通じるファンタジーの王道を外していない。
その中で“各々に生まれ持った系統があり、修行することで練度が上がる”などの要素は押さえながら、その修行法に淫靡かつ酷な修行を入れることで、作品の闇に深みを持たせる手法も見事。
もちろんバトルロイヤルの真骨頂である、“殺すことへの葛藤”や“過去に基づくそれぞれの信念”なども丁寧に描かれている。人間を殺すこと自体に抵抗を感じる佐切を筆頭に、殺さなければならない罪人に情が湧いてしまう浅ェ門の面々。妻の待つ場所へと帰ろうとする画眉丸を筆頭とした、くすんでいても信念を持った罪人達。こうした信念に基づき行動する敵同士であるはずの彼らが、いつしか島の闇に立ち向かうべく立場を越え共闘する場面などは、絶望と罪に塗れた中での人間ドラマを映し出す。罪人同士のバトルロイヤルから、いつしか未確認生物と戦うSFへと徐々に移行していく話の運びも、先を知りたくさせる漫画としての最重要事項をしっかりと押さえていた。
ダークファンタジー要素の強いバトルロイヤル作品に仕上げることで、作品としてより磨きがかかっている『地獄楽』。少々ブットんだ設定も多々あるも、本作は賀来ゆうじの高い画力と引き込まれるストーリーで、ラストまで一気に読める仕上がりになっている。連載終了と同時にアニメ化も発表され、今乗りに乗っている『地獄楽』。パンチのあるダークなバトルロイヤル作品に興味がある人は、一度手に取って欲しい。
■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。