万引きGメンが語る、コロナ禍で変わる万引きの様相 「セルフレジでカゴ抜けするひとはだいたい知能犯」

万引き犯の“臭い”

伊東ゆう氏

ーーお店で万引きを捕まえたりすると、新しいスタッフに「ウチのお店にも万引きあるんだ」と驚かれます。私自身は店のスタッフ全員が防犯意識を持てば、ある程度の防犯が可能だとおもっているんですが、お店の防犯意識を向上させるために、教育という形で伊東さんが関わったりはしているんですか?

伊東:ここ十数年は海外も含めて全国で講演をしてきましたが、店舗内を防犯の面で見られる人、怪しい人にピンと来る人って店長か副店長とかそのクラスの人たちなんですよ。防犯はそういう人たちが中心となってやるしかない。アルバイトに啓発するのは挨拶と声掛けですね。『鬼滅の刃』をたくさん持って歩いている中学生を見て「大丈夫かな」って思うように情報共有できることが大切だと思います。

ーー私も過去に怪しい人などをマークしたことがありますけど、よく見てたのが靴でした。

伊東:保安員仲間でも靴を見て判断している人がいましたけど、靴のほかにもいろいろ“臭う”っていうのはありますよね。

ーー刑事ドラマによくあるやつですね。

伊東:逆に万引き犯も保安員の“臭い”を探っているわけです。我々も“保安臭”って呼んでいるんですけど。その臭いをなるべく出さないようにしてるんです。

ーー保安臭! どっちも“臭い”があるんですね。

伊東:向こうも一目で気付きますから。やってる最中に目が会ったらアウトなんですよ。保安臭でバレますから。向こうはハッとなって入れたものを全部出して出ていくんですよ。

ーーお店としては防犯になったと思いますけど、保安員としては捕まえないと意味がない?

伊東:そうですね。我々は万引きを捕まえないと信用されない。未遂ではなく捕まえないと評価されないのが、この業界の厳しいところですね。けれど一度捕まえたらスーパースターみたいに翌日から「伊東様~」みたいな感じになりますね。

命がけの保安員

ーー本には保安員が万引き犯の車に連れ込まれて連れていかれたという話がありましたが、保安員も命がけですね。

伊東:何回か死に際になったことがありましたね。

ーー何回も?!

伊東:20年やってれば1回か2回は死んでもおかしくないことになってると思いますよ。首に刃物でやられたこともあるし、目を突かれたことや指を折られたりとかね。

ーー万引き犯も必死なんですね。

伊東:これはほぼ100%なんですけど、暴れるのは保釈中や、執行猶予中のどっちかですね。あと社会的ステータスがある人たち。学校の先生とか。そういう人は暴れます。

ーー先生とか社会的に地位がある人の万引き、よく聞きますよね。だけど盗ったものがスナック菓子とか、つまらないもので。ちょっと特殊ですよね。

伊東:いろんな人がいますよね。1冊目の本にも書いたんですけど、その学校の先生の場合はカツ丼二つだったんです。奥さんが妊娠してイライラしてたからって。性欲がカツ丼になったかと。

ーー旦那のほうがマタニティブルー。

伊東:そう。寂しかったって。大暴れしたんで、闘いましたけどね。

ーー武闘派保安員ですね。

伊東:20年くらい前まではちょっと応戦しても大丈夫だったんですよ。一応空手の指導員をしているんで、手加減しながら。若い頃には、小さなグループと決闘したこともありました。

万引きをする人の実像

ーー万引きをする人のイメージは一般の人からすると、若い人で、やんちゃで、ゲーム感覚、遊び感覚というイメージで固定化されている気がするんですけど、この本を読むと、おじいちゃん、おばあちゃん、家族、子ども、ほぼすべての人間が世代を越えて万引きをしている状況なんですね。

伊東:年齢でいったら4歳から96歳くらいまで相手にしてきました。それぞれの世代には万引きの目的があって、小学生だとおやつとか、友だちが持ってるものが欲しくなっちゃったとかですけど、中学生になると、スマホだとか高額なグッズに欲が一段上がっちゃう。日常的な常習犯だとお菓子とかドリンク。高校生で換金目的がでてきますね。洋服とかブランド物とか。大学生はあんまりないんですけど、お酒とか食べ物が多いですね。あとアクセサリーとか。大人になると生活感が出てきて、酒や食品が中心になる。ちょっと買いにくい贅沢なモノを盗むのが共通ですね。

 ホームレスの人とかは生きるためにというのがあって、「本当に申し訳ない」と思いながらおにぎり一個とか。そういうのは罪は浅いんじゃないかなと個人的には思うんですよ。アメリカだとホームレスの人たちにも食事が出されたり、寝られるところが提供されているんですけど、日本は全部排除の方向なんでね。公園のベンチも寝られないように作られて、ベンチで寝ていた人は居場所が無くなって、ショッピングモールに行くけどそこでもまた排除されて。

ーー万引き犯でもそれぞれの背景を考えないといけない。

伊東:ネグレクト(育児放棄)された小さい子がフードコートでお弁当を勝手に食べちゃったりとか、そういうのがいちばんしんどいかな。親に捨てられた中学生の女の子とか。

ーー最後になりますが、万引きの被害で悩んでるお店にアドバイスはありますか。

伊東:現実から目をそむけないほうがいいと思います。万引きされる店は「やられちゃってるんだよね」で終わってることが多いんです。万引きの少ない店というのは愛社精神の強い店長とか、そういう人がやってるから品出しの状態とか、レイアウトが整頓されてて綺麗です。綺麗に並んでいれば、一つ盗ったら目立つけど、ぐちゃぐちゃなところは盗っても目立たない。魔が差しやすい店づくりになります。店長の質と万引きの被害はリンクしていると思いますね。査定に響くと思いますよ(笑)。

■書籍情報
『万引き 犯人像からみえる社会の陰』
著者:伊東ゆう
出版社:青弓社
定価:本体1,600円+税

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