『BTSとARMY』著者イ・ジヘン インタビュー(前編)

BTSはなぜ人の心を本質的に揺さぶるのかーー『BTSとARMY』著者イ・ジヘンに訊く【前編】

 社会学者であり、自身もARMY(BTSのファン)であるイ・ジヘン氏が執筆した『BTSとARMY わたしたちは連帯する』が今年2月、日本で翻訳・出版された。昨年、Black Lives MatterでBTSとともに100万ドルの寄付をしたりと、社会奉仕的な活動にも意欲的なARMY。様々な人種、年齢、性別の人々が、ただBTSが好きということだけを拠りどころにして連帯し、社会に働きかけようとするのはなぜなのか。ARMYという存在を社会学的な見地から分析・考察したイ・ジヘン氏に、本書を執筆したきっかけを訊いた。(尹秀姫)

韓国の文化がなぜ各国で受容され、拡散されたのか

イ・ジヘン氏

ーーまずBTSを知ったきっかけとARMYになるに至った経緯を教えてください。

 2017年のことでしたが、AMA(アメリカン・ミュージック・アワード)でBTSが受賞しました。その時、客席にはたくさんのARMYがいて、「DNA」を歌うBTSに対して一糸乱れぬ声援を送っていました。それは韓国ではよく見かける場面でしたが、言語の違う人たちが一拍も遅れることなく韓国語でコールしている姿はとても不思議でした。それを見て、これはきっと1人で家で練習してできるものではないと、ある意味、組織だったものがなければあんなにも統率の取れたコールはできないと思ったんです。それがBTSとARMYに興味を持ったきっかけでした。

 その後、韓国の文化がなぜこれだけアメリカで受容され、拡散されたのか。BTSとARMYをつなぐ“ブリッジ”は何なのかについて考えていた時、いわゆる翻訳アカウントの存在を知りました。それらはBTSの曲の歌詞やインタビュー、彼らの日常を垣間見せてくれるSNSのメッセージに至るまで、大量のコンテンツのすべてを翻訳していました。今でこそ公式が英語をはじめとした各言語の字幕を用意してくれていますが、当時はまだそういった翻訳はすべてファンが自主的に行っていました。その勤勉さは驚くべきものですし、しかも彼らは責任感が強いんです。翻訳ひとつをとっても、文化的な理解がないと誤解されかねない物事について、とても慎重に訳していました。そういったファンの献身的な活動と文化的理解への慎重さに感動しましたし、またファンダムの中で起きる躍動についても非常に興味を覚えて、彼らを見守りたいと思ったのが始まりでした。

ーー先生がARMYになる前、ARMYの存在はご存知でしたか?

 私は2017年にAMAを観るまで、BTSのことを知りませんでした。なので当然、ARMYの存在も知りませんでした。これはよく誤解されることなのですが、2013年にBTSが韓国でデビューした当時、韓国人がみんな彼らのことを知っていたわけではないんです。韓国ではアイドルのファンはほとんどが10代で、私のように当時40代の人間が興味を持つ文化ではありませんでしたから。私自身、ARMYになる前は、アイドルというものは10代の若い子たちの専有文化だと思っていました。でも、面白いことに、90年代にデビューした韓国の元祖アイドルH.O.T(エイチオーティー)やSECHSKIES(ジェクスキス)のファンは、今では30代、40代になっているんですね。そのファンがBTSのおかげでまた“推す”楽しみを思い出しファンに戻ってきているんです。そのおかげもあってBTSは、特に韓国においては他に類を見ないほどファンの年齢層が幅広いですし、私もARMYになるまでこんなに多様な年齢層のファンがいるとは思いませんでした。

ーー幅広い年齢層もそうですし、男性ファンが多いのも特徴的ですよね。

 以前、ロイター通信でコンサートのチケット決済者のデータを発表したことがあるのですが、それによるとBTSの男性ファンは40%にのぼるという結果が出ました。性別、年齢、そして国籍に限りがなく、幅広いファンを持つBTSという存在は、韓国だけでなく世界的にも非常に珍しい事例なのではないかと思います。

ーー先生の書籍『BTSとARMY』ではファンダムについて社会学的観点から考察するという類のない本ですが、なぜARMYを社会学的に分析しようと思われたのでしょう?

 私は社会学者なので、今この社会がどのように変化しているかについてもともと興味がありました。先ほどお話しした通り、私もARMYになる前はファンダムというものに偏見があって、10代の女の子たちがハマるものだと思い込んでいたんです。でも自分がARMYになってみたら、ファンダムに対する社会の目があまりにも差別的だと感じたんです。韓国ではファンを「パスニ(アイドルオタク)」という蔑称で呼ぶんですよ。たしかにアイドルのファンダムには一部、よくない文化もあります。たとえば「私生(サセン・私生活まで追いかけるストーカー)」とか。でもそれはファンダム文化が未成熟だからだとは、一概には言えないと思いました。

 サッカーのファンにはフーリガンと呼ばれる人たちがいますが、フーリガンはサッカーファンの全体から見ればごく一部ですし、サッカーファンをひっくるめてフーリガンとは呼びませんよね。でも、韓国では一般的なアイドルファンを「パスニ」と呼ぶことには躊躇がないし、そのことで彼女たちを蔑視しているとすら思わない。そこには年の若い女性に対する無視、もしくは彼女たちの趣向に対する無視が社会の根底にある。つまり一種の女性嫌悪がアイドルのファンダムを見る視線に深く根ざしているんです。「若い女たちにいい音楽の何たるかがわかるはずがない」、「どうせイケメンだから好きなんだろう」といった視線は、ともすれば同じ女性たちにも作用しています。こういった社会的偏見について一度、明らかにする必要があると思っていました。

 ARMYにはあらゆる世代のファンがいるので、アイドル文化に対する誤解や社会的な偏見について検討するいい例になると思った、というのも理由のひとつです。