『新世紀エヴァンゲリオン』映画の後は漫画版を読むべき? それぞれの結末に込められた想い
振り返れば漫画版のシンジは、有名になった「逃げちゃダメだ」のセリフも吐かず、綾波の代わりにエヴァに乗って戦おうとする熱血少年だった。アスカに「気持ち悪い」と言わせた『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』のシンジをいったんリセットし、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の中に再生させては、『破』『Q』を経てどん底から立ち直らせた『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のシンジが、反復記号を受けて今一度、エヴァンゲリオンの世界を歩んだ姿と言えるかもしれない。
テレビアニメに戻るのではなく、漫画版に戻るべきだと言うのは、そんな理由からだ。漫画版の物語自体は、テレビアニメの大筋をそのままたどっていく。テレビ放送版の「終わる世界」「世界の中心で、アイを叫んだけもの」へとは向かわず、旧劇をなぞった描写へと進んでいく。そこでもアニメとの違いが生じている。ネルフの中、戦略自衛隊に囲まれたシンジを最初に救うのは、ミサトではなく銃を手にしたゲンドウなのだ。
テレビアニメや旧劇では、すれ違いの果てに自分の望みがかなわず朽ち果ていくゲンドウが、漫画版では主体的に自分の願いを語り、シンジと向き合い彼の父というよりは、碇ユイの夫という自分の心情について吐露する。そうしたゲンドウの立ち位置が、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』のゲンドウと重なると感じる人も、見た人の中にはいそうだ。
そんな父親との対峙を経て、自分を確立したシンジが漫画版で選びとる道も、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を強く意識させる。これが2013年に発表されたことで、新劇の結末が変わったのかもしれないと思ってしまうほどに。妄想でしかないが、少なくとも先行していた旧劇とは違う、希望を感じさせる結末を、共に描こうと思ったのではないかと感じ取れる。
庵野秀明総監督が選んだ道が、新劇場版のラストシーンであるのなら、企画当初から関わっていた、というよりDAICON FILMの時代からの僚友である2人は、共に同じようなベクトルで、エヴァンゲリオンという物語を混沌の渦から引っ張り上げ、光明の中を歩ませようとする物語を紡いだことになる。
その2つのエヴァンゲリオンも、やはり違ったものになっている。どちらを正解としたいかは見た人がそれぞれに判断すべきだが、せっかく『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を見終わって反復記号へとたどり着いたのなら、漫画版まで戻って読み、テレビアニメを見て旧劇を見て『序』『破』『Q』を見て、4月26日に出る漫画愛蔵版第7巻の結末を読んでから、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』を見て欲しい。繰り返して何度でも。
■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。