『ストップ!! ひばりくん!』なぜ時代を超えて愛される? 江口寿史が投げかけたメッセージ

 そしてその江口のメッセージは、異性装者やゲイに限ったことではなく、すべての、「自分は変わり者なのかもしれない」という疑問を抱きながら、前を向いて生きることができずにいた読者に“何か”(あえて“勇気”などという言葉は使うまい)を与えたといっていい。また、それ以外の「普通の」読者たちにも、「マイノリティであることは悪いことではなく“個性”」という感覚を秘かに植えつけたものと思われる。それくらい、ひばりくんというキャラは、「差別」や「偏見」を吹き飛ばす魅力と強さ(明るさ)を持っており、その輝きはいまなおまったく衰えることはない。

 物語の中盤、「回転禁止の青春さ!の巻」で、軽音部(?)のバンドに誘われたひばりくんは、それを断ったあとでこう答える。「しばられるの やーだもん」。これなどは、ひばりくんというキャラクターをよく表した良いセリフだと思うが、その言葉を陰で聞いていた鳳ジュンというキャラがつぶやくように、「大空を自由に舞うひばりを そうかんたんにつかまえられる」はずはないのである。こんなにも自由な、そして時代を越えたヒロインの活躍が、最もメジャーな少年漫画誌に載っていたこと自体、いま考えてもなかなか痛快なことだったといっていいだろう。

 そう、ひばりくんは、いまも昔も「ストップ」する必要などまったくないのである。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『ストップ!! ひばりくん! コンプリート・エディション(1)』
江口寿史 著
定価:本体1400円+税
出版社:小学館
公式サイト

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