Twitterでブレイク『私のジャンルに「神」がいます』はなぜ支持された? 同人活動が教えてくれる、創作の意味

 「おけけパワー中島」のパワーワードで話題をさらった、真田つづるの『同人女の感情』が、『私のジャンルに「神」がいます』とタイトルを変え書籍化された。本作は、「神」と呼ばれる実力を持つ書き手のいるジャンルで、同人活動を行う女性たちの悲喜こもごもをオムニバス形式で綴った作品だ。

 2次創作の世界に詳しい人ならうなずく瞬間がたくさんある作品だろう。しかし、本作は2次創作ジャンルのあるあるネタでは終わらず、広く創作活動における苦しみと喜びにつながる感情を描いている。同人ジャンルに集う人々は、どうして創作するのか、そして創作を続けるのか、創作がなぜ人に必要とされるかについて真摯な姿勢が詰め込まれている作品だ。

プロでないからこそ「なぜ作るか」に深く悩む

 創作活動は、大量にエネルギーを消費する。どんな分野でも何かをゼロから作るのは大変なことだ。

 2次創作の世界は、アマチュア作家によって支えられている。社会人として生活のために本業に従事するだけでも大変である。社会で生き抜くだけでも大量にエネルギーを消費するのに、さらに創作活動をしている情熱的な人々が集まるのが同人の世界だ。

 本作に登場する人物たちも一様にみな、好きな作品への情熱が高じて創作に乗り出した人々だ。しかし、始めの一歩を踏み出しても続けるためには、「なぜ自分は作るのか」を問い続けなくてはならない。その問いに自分の中で答えを出すこと自体にものすごくエネルギーを消費する。

 第4話「前人未到の0件ジャンル」の主人公は、自分がハマった作品の同人作品が全く見つからないことにショックを受け、友人に背中を押され自分で書くことを選ぶ。実力のなさに一度はあきらめるが、作品の原画展に感動したことをきっかけに文章表現にみがきをかけて、再び書き始める。第5話「初めての原稿地獄」で初の同人誌作りに挑戦する主人公は、全く仕上がらないことに焦りを感じ、「こんなに苦しんでまで書く意味ってあるのかな」と自問自答する。

 彼女たちはアマチュアだからこそ、「作る理由」について悩む。下手くそなのに書いてどうするのか。苦しんでまで書くことに何の意味があるのか。それらの悩みは、ある意味ではプロよりも深いかもしれない。プロには、「生活のため」という明確な「作る理由」があるからだ。

 筆者はブログ出身のライターだが、やはりブログを書く理由を何度も悩んだ。生活費の足しになるほどのアクセス数があるわけでもなく、将来ライターになることも想定していなかったし、面倒くさくなることもあった。今、原稿料をもらって文章を書く立場になって、「書く理由」で頭を悩ます機会は減り(次々と締切が迫ってくるので悩んでいる暇がない)、その分のエネルギーを書くこと自体に回せるようになった。

 プロは「お金」を口実に、作る理由について悩む膨大なエネルギーを創作自体に使えるのが利点なのだと気が付いたのだ。これは大きなメリットだと思う(もちろん、プロにはプロの悩みがあるが)。だが、一方で原始的な創作の喜びを忘れてしまうこともある。ブロガー時代の方が、純粋に書くことに向き合っていたのではないかと思う瞬間がある。

 本書を読むと、アマチュア作家のほうが「作る理由」について、プロよりも深く悩むこともあるのではないかと感じる。同人作家やブロガーが一人減ったところで社会全体に大きな影響があるわけではないし、それで生計を立てているわけでもない。それでも作るのはなぜなのか。

 インターネットが発達して、だれもが作ったものを発信できるようになった時代、ネット以前の時代には一部の人のものだったその悩みは、多くの人にとって切実なものになった。本作はその悩みにとても真摯に向きあっている。