炭治郎たちは煉獄さんから何を受け取ったのか? 『鬼滅の刃』炎柱の熱く燃える生き様

 そのような生まれ持った才能に恵まれながら、鍛錬を怠らなかったのが煉獄さんという人。無限列車にて、肉体はもちろん精神的にも疲弊状態にあるなか上弦ノ参・猗窩座に致命傷を負わされ、早くに命を落としてしまった彼だが、その後の展開のなかで「煉獄さんがいてくれたら……」と思ったのは筆者だけではないはず。それも何度もだ。出番こそ多いとは言えなかったものの、彼の強さは鮮烈に刻まれた。“武闘派”としてより強さを求める猗窩座さえも、その強さを認めていたほどだ。猗窩座は煉獄さんのことを「至高の領域に近い」とも評した。その激しい戦闘描写もさることながら、身内ではなく、敵対する者に称賛の声をかけられるというのは強き者の証である。それを炭治郎たちは目の当たりにし、煉獄さんは彼らにその背中で語ったのだ。

『煉獄零巻』

 もちろん煉獄さんといえば、強き者の背中だけでなく、実際に言葉でも語っている。彼が遺した名言は数多くあるのだ。圧倒的な力を持ちながら、「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない」と彼は口にしている。やがて朽ちる人間を蔑んだ猗窩座に対し、「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ」と返した煉獄さんのこの言葉からは、彼の背後に控える若き炭治郎たちに向けての「だから、生きろ」というメッセージだとも思えた。この“人間愛”を謳ったセリフは私たちの胸にも刺さった。「心を燃やせ」ーー生きなければならないのだ、と。

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の入場者特典で配布されている『煉獄零巻』は、特別読み切りの描き下ろし作品として、煉獄さんが駆け出しの頃の、初任務に挑む様子が描かれている。煉獄家のことをより知るためにも必読の書だ。そして何より新米隊士でありながら、やがてその名を轟かせることになるであろう、その片鱗が見て取れる。彼の根底にあるのが人間愛であることも分かるはずだ。炭治郎たちは彼から何を受け取ったのだろうか? 煉獄さんはその生き様を示すことで、炭治郎の“折れない心”にさらに大きな火を着けた。それはまた私たちも同じなのではないだろうか。心を燃やさねばならない。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

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