安野モヨコ『働きマン』が伝えた企業戦士へのメッセージとは? 働く女性の20年間の変遷

 今や「女子力」という言葉は批判の対象にすらなっている。かつて女性の口から発せられた力強いメッセージは、「女性はこうあるべきだ」と押し付け、女性の主体性を妨げる要因となっていると、議論の槍玉に挙がる事も多い。

 発言元の安野モヨコは、そんな昨今の社会情勢もどこ吹く風だ。2008年に『働きマン』の休載を発表し、松方弘子と同様に倒れるまで働いた後、2013年に『鼻下長紳士回顧録』で現場復帰。主人公・コレットが働く娼館の内側を「虚構」、外側を「現実」とする独特の世界観を披露した。己のスタイルを決して崩さない、漫画界の高踏派・余裕派である。

 今年10月、『鼻下長紳士回顧録』のブロードウェイでのミュージカル化が決定する。『アナと雪の女王』の舞台を手掛けたアメリカの演出家が、この作品の世界観に惚れ込んだのだ。

 本気で仕事をした結果が、後からついてくる。『働きマン』が全ての企業戦士に伝えた応援句が、今こうして現実のものになった事を、感慨深く思う。

■井上郁 
言語学者、フリーライター。英文学・言語学・メディア記号論を専攻。マンガ・アニメ・ゲームを総合文化研究の俎上に載せ、記号論の観点から考察しています。

■書籍情報
『働きマン(1)』
安野モヨコ 著
価格:本体570円+税
出版社:講談社
公式サイト

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