『とんかつDJアゲ太郎』テーマは文化の継承? ”伝統と革新”を体現するオールドスクールな魅力

■ジャンプラ初期を彩った「友情・努力・勝利」マンガ『とんかつDJアゲ太郎』

 イーピャオと小山ゆうじろうによる『とんかつDJアゲ太郎』は「ジャンプ+」に2014年から17年まで連載され、16年には「ジャンプ+」初のTVアニメ化作品となり、20年10月30日には実写映画が公開される。

『とんかつDJアゲ太郎(11)』

 「ジャンプ+」ローンチと同時に連載が始まり、『カラダ探し』などとともにジャンプラ最初期、日本のマンガアプリ黎明期を彩った作品である。なにしろ『終末のハーレム』や『ファイアパンチ』より早く始まっているのだ。

 とんかつ屋の3代目である少年・勝股揚太郎が、クラブに出前した御礼代わりにタダで入れてもらったことをきっかけに、ゼロからクラブカルチャーを体験し、DJとして成長していく姿を描く。

 「揚げる」と「アゲる」を引っかけた「とんかつとDJって同じなんじゃないか?」というフレーズ/コンセプトには出オチ感が漂い、小山の力の抜けた絵柄もあいまって未読の人にはギャグマンガと思われがちだ。

 しかし実は「友情・努力・勝利」を描いたオールドスクールなジャンプ作品に近い少年マンガなのだ。

■『アゲ太郎』の温故知新ぶり

 アゲ太郎はクラブカルチャー黎明期から活動する伝説のDJビッグマスターフライのプレイを目撃して以来、ビッグマスターフライの念(?)と交信するようになり、渋い選曲が好みのDJオイリーを師としてDJ活動を展開する。最新の流行楽曲を得意とするのではなく、digした古い曲でフロアを湧かせる方が得意だ。

 ここにまず伝統の継承、温故知新を重んじる『アゲ太郎』の骨格がある。

 マンガとしての設定に目を向けると、どうだろうか。

 同世代のトップDJ屋敷蔵人とのライバル関係、一目惚れしたヒロイン・苑子に近づきたいがなかなか積極的になれない揚太郎の奥手ぶり、ピンチになるとやってくる幼なじみのボンクラ仲間のアシスト、イー・ドンミョンや池之輔と対決(池之輔に関しては彼の方が一方的に敵意を持っていただけだが)したのちに親交を築いていく「昨日の敵は今日の友」展開、父子がぶつかり、子が父を乗り越えながらも結束を強めるという家族ドラマ、ど素人だったアゲ太郎が数々の経験を経てイギリスの名門レーベルからオファーを受けるに至る順調なインフレ展開……これまた70年代~80年代の少年マンガに範を取ったような配置が随所に見られる。

 『キャプテン翼』や『スラムダンク』がサッカーやバスケのルールとおもしろさをイチから描くことで日本全国の少年たちを導いたように、『アゲ太郎』はDJ、東京のクラブ文化入門として機能するようなつくりにもなっている。

 つまり「とんかつ×DJ」という新奇(珍奇?)な題材を扱い、マンガアプリという2014年当時はやはりまだまだ新奇だった媒体で連載が始まった作品であるにもかかわらず、作品内の設定でも、キャラクター造形や物語の展開としても、むしろクラシカルなものを重んじ、文化の継承をテーマのひとつにしていたのだ。

 正確に言えば、作中でアゲ太郎が新しいものと伝統、とんかつ屋とDJの間で悩み、「どちらも取る」ことを選ぶように、古き良きものを受け継ぎながら、新しいものも採り入れることを謳った作品である。

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