アニメ化果たした『池袋ウエストゲートパーク』 時代に左右されないヒーロー像を考察
石田衣良の「IWGP」シリーズには、特別な思い入れがある。なにしろ舞台が、若い頃によく遊んだ池袋だ。当時からオタクであったが、そういう人間でも、ちゃんと遊べるのが池袋のいいところ。名画座で映画を観て、古本屋を回り、安い飲み屋で仲間と一緒に高歌放吟する。青春の日々をおくった場所のひとつは、間違いなく池袋であった。だから1998年に「IWGP」シリーズの第1弾『池袋ウエストゲートパーク』が出たときは驚いた。
池袋西口公園・西一番街・ホテルメトロポリタン……。自分が知っている場所が、次々と登場するではないか。もちろん東京を舞台にした小説は、それまでにも無数にあったが、なぜかこのシリーズを読んでいると、物語の片隅に己が通行人Aとして存在しているような気がした。だから作品にのめり込んだのである。
しかも登場人物が魅力的だ。主人公は、工業高校を卒業した後、池袋西一番街にある母親の果物屋を手伝っているマコト。高校時代の友人に、池袋のストリートギャングを束ね、キングと呼ばれるタカシがいる。関係は良好だが、マコトはGボーイに加わることはない。誰に対しても態度を変えることなく、地元で独自の立場を貫いている。
シリーズの第1話となる「池袋ウエストゲートパーク」は、そんなタカシが絞殺未遂事件を繰り返すストラングラー(首絞め魔)を追うことになる。内容の詳細は省くが、ミステリーとしてよく出来ていた。以後、マコトのもとに、さまざまな事件が持ち込まれ、これを解決するうちに、知る人ぞ知る存在になっていく。現代的な若者でありながら、強い正義感を胸に抱き、感情のままに動くマコトの活躍が楽しいのだ。
また、マコトと人気を二分するタカシを始め、ヤクザ者のサル、情報屋のゼロワン、マコトの母親など、主人公を取り巻く人々も個性的。彼らとマコトのアンサンブルも、たまらない読みどころになっている。
それとは別に注目したのが、物語の時間軸だ。現在も続いているシリーズだが、開始からすでに20年以上の歳月が経っている。