『鬼滅の刃』累計1億部突破なるか? 最新21巻は鬼殺隊と鬼、それぞれの“正義”描く
この言葉を聞いた炭治郎は怒り、無惨のことを「存在してはいけない生き物だ」と思うが、読者の心はわずかに揺らぐことだろう。たしかに、「狩られる側」にしてみたら、復讐の鬼と化し、怪しげな呼吸法を使い、異形の刀で自分たちの首を切りにくる鬼殺隊の剣士たちは、血に飢えた殺戮者――つまり「異常者」にしか見えないかもしれない。
それでは、ここで無惨がいっていることはすべて正しいのかといえば、そんなこともあるまい。なぜならばそもそも彼は大災などではないからだ。そう――鬼舞辻無惨という「最初の鬼」は、あくまでも殺意を持って人間を食らう悪の根源である(いうまでもなく、地震や台風には殺意も悪意もない)。そして、一方の鬼殺隊の剣士たちだが、ある意味では彼らも「人であること」を捨てた「人外の者」だといえなくもないのだが、かといって「人の心」まで失っているわけではない。少なくとも「異常者」ではないだろう。鬼狩りでありながら、人の心を捨て、鬼になってしまった黒死牟や獪岳を除いて……。
なお、この点――すなわち「正義と悪」や「正常と異常」の線引きについては、吾峠呼世晴は明確なビジョンを持ってクライマックスシーンを描いており(詳しくは最終巻となる23巻を読まれたい)、それがこの『鬼滅の刃』という作品を、近年よくある、“本当の悪”が誰なのかわからないまま終わる物語とは一線を画す傑作にした。
いずれにせよ、この21巻は、あらためて「狩る側」と「狩られる側」のそれぞれの“正義”を読者に突きつけたという意味で、極めて興味深い巻であるといえるだろう。
■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。@kazzshi69