BL漫画出身のヤマシタトモコ、各方面で高い評価へ 『違国日記』が問う、“普通”というラベリング

 そんな槙生の哲学を象徴するように、漫画に槙生や朝以外にも、個性的なキャラクターが登場する。たとえば、槙生の友人で元恋人の笠町慎吾(かさまちしんご)や学生時代からの友人・醍醐奈々(だいごなな)。2人はどちらも明るい大人だが、内面には傷や弱さを抱えている。故に不器用な槙生を好き、朝と暮らす彼女を陰ながらサポートする存在だ。そして、朝の同級生で親友の楢(なら)えみり。彼女は親友思いで今どきの“ギャル”だが、恋愛に興味がない自分自身の気持ちに戸惑っている。一方、朝は素直で従順な性格である反面、少しだけ無神経なところがあり、そんなえみりに「女子が好きなの?」と聞いたり「槙生ちゃんみたい」(=変わっている)と言って相手を凍り付かせることも。また、部屋の片付けが極端に苦手な槙生に対しても「なんでこんなこともできないの?」と意図せず傷つけてしまう。“普通”という言葉に傷つく登場人物たちと、“普通”に固執する実里に育てられた朝。両者の分かり合えなさも、この漫画の1つの見所だ。

 「女」、「男」、「トランスジェンダー」、「子供」、「母親」、「教師」、「日本人」、「会社員」……私たちは様々なラベルを自分自身や他人に貼って生きているが、それらは一要素に過ぎない。ラベルを全て集めても、相手を理解したことにはならないだろう。家族だろうが、親友だろうが、恋人だろうが、自分とは違う人間である限り、経験やそれに伴う感情を分かち合うことはできない。その孤独を槙生は静かに受け止め、愛している。

 4巻で槙生が物語の役割について、“かくまってくれる友人”と表現している場面があるのだが、どこか生きづらさを抱える人にとっては『違国日記』こそが、嫌なことから自分をかくまい、違う世界に連れていってくれる友人となるはずだ。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■書籍情報
『違国日記』(フィールコミックス FCswing)既刊5巻発売
著者:ヤマシタトモコ
出版社:祥伝社
https://www.shodensha.co.jp/ikokunikki/

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