好きな“コンテンツ”こそ人生の必需品 『トクサツガガガ』が描く、特撮オタクの生き様

母との確執から見る世代間の価値観の違い

 本作は基本的にコミカルにエピソードを綴るが、一つだけ例外がある。それは仲村の母に関するエピソードだ。仲村の母は可愛く女の子らしいものを好み、娘が特撮好きであることを許せず、仲村は特撮好きであることを隠し続けている。幼い頃に母から好きなものを否定され、大好きな雑誌を焚き火で焼かれたことがトラウマとなっている仲村にとって、母の存在は人生最大の壁である。

 シングルマザーだった仲村の母は、家計のために自分が我慢していたことを、娘のためにと可愛いものを買い与えようとするが、それが仲村本人にとっては苦痛でしかない。家族の愛情は時に呪いとなる。本作はこのねじれた母子関係に、「母も苦労していたんだから許そう」などという安易な決着を与えない。

 自分の苦しみを、娘を支配する理由にした母に、特撮の悪役を重ねる仲村は、「自分の苦しいことが、弱い人を見捨てていい理由にも、人を苦しめていい理由にもしてはいけない」という特撮ヒーローの言葉を思い出して自身に重ねる。

 この仲村母子の確執の背景には、世代による人生観の違いがある。現代よりも男尊女卑の激しかった時代に女手一つで子供を育てた母は、女が1人で生きていくことの大変さを身を以て知っている。事あるごとに「可愛くしろ、さもないと結婚できなくなる」と娘に言う母は、本当にそうしないと生きていくのが困難な時代を過ごしてきたのだ。しかし、主人公は1人で生きていける自信を持っている。現代も、男女平等が実現されたとは言い難く、作中で描かれるようにジェンダーバイアスも残るが、それでも成年男性が女児向けのアニメを好きだったり、独身女性が特撮にハマってそれなりに楽しく生きていける時代でもある。

 仲村の周囲のオタク仲間も30過ぎで独身だ。そういう年になってもオタク活動に精を出して、楽しく生きていける時代になったのだ。そんな時代には、良い結婚相手を捕まえるため女子力を高めるよりも(本作はそうした生き方も否定してはいない)、好きなものに没頭できることの方が人生において重要になっても良いのだ。

 現代社会で、生存に必要なものは結婚よりも、愛を注げるコンテンツかもしれない。『トクサツガガガ』は、そんな現代を象徴する作品ではないだろうか。

『トクサツガガガ』18巻

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
ビッグコミックス『トクサツガガガ』1〜18巻
(19巻が2020年5月29日に発売予定)
著者:丹羽庭
出版社:小学館
<発売中>
https://comics.shogakukan.co.jp/book-series?cd=42351

関連記事