ライブは生きる力をもらえる場所ーー『高梨さんはライブに夢中』は今こそ読みたい漫画だ
新型コロナウイルスの影響で行く予定だったライブがふたつ流れ、友人が出演する弾き語りライブもなくなってしまった。これ以上の感染を止めるため仕方のないことではあるが、コンビニで払い戻しをしてもらいながら、よほど悲しい顔をしていたのかレジのおばちゃんにまで「残念ですねえ」と慰めてもらった。行けないとなるとますます行きたくなってくるのが人間だ。むあんとしたライブ会場独特の熱気。暗転と歓声。耳をつんざく爆音と、体から吹き出す汗が恋しい。
いてもたってもいられないところに、漫画『高梨さんはライブに夢中』が「コミックDAYS」で全話無料公開(期間限定4月27日まで)されており、一気に読み耽ってしまった。著者は『日々ロック』で泥くさくロックと向き合うバンド青年を描いた榎屋克優。本書も『日々ロック』同様、まさに体感型音楽漫画である。
主人公の坪坂は、文具メーカーの営業として働く平凡なサラリーマン24歳。入社から半年経ったがいまいち会社になじめずにいる。そんな折、参加した結婚式の二次会のビンゴ大会で、UKバンドのライブチケットを手に入れた。気乗りはしないが、無駄にするのも悪いと足を運んだライブハウスの入り口で、同僚の高梨さんと遭遇する。
一人参戦で心細かった坪坂が「よかったら一緒に見ませんか?」と声をかけると、ボソッと「あんまり他人(ひと)と一緒に観るのが好きじゃないんで……」と足早に去っていってしまう。そうなのだ。めがねをかけて、黒髪を一つにまとめ、白いワイシャツに膝丈のスーツスカート。坪坂にとってもクールでとっつきにくいと思っていた女性ーー高梨さんは超ライブオタクだった。
ライブハウスの中で再会した彼女は、髪を下ろしバンド初来日ツアー時のTシャツに身を包み、首にはタオルが巻かれていた。ひとたび音楽が鳴ると、我を忘れて汗だくになる。第1話ではUKロックバンドの来日ライブが描かれているが、メタルバンドのライブも、ライブハウスでの弾き語りも、アイドルのライブでさえも彼女は頬に推しメンのシールを貼り、ペンライトを祈祷師のように振り回し楽しみ倒すのだ。そんな彼女の姿をみて惹かれるのは何も坪坂と筆者だけではないだろう。彼女に恋をした坪坂は、CDショップに通い、チケットサイトからのメールでめぼしいライブをチェックしては、また一緒にライブに行くための口実を作るようになる。
彼女がライブ初心者である坪坂に、ぼそっぼそっとダイブへの対処法や、野音ライブの醍醐味を教えていくのも楽しい。筆者も足を運ぶライブが偏っているため、なるほどメタルのライブはこんな感じなのか、あのポーズはコルナというのかと学んだ。
『日々ロック』との明確な違いは、主役がミュージシャンではなく観客というところだろう。何も、ライブを作っているのは舞台に上がるミュージシャンだけではない。そのことが伝わってくるライブシーンは、この作品の大きな魅力だ。楽しそうに音楽に体を揺らす観客たちを見ていると、こちらも体が熱くなってくる。読み終えて、結局ますますライブに行きたくなってしまった。