朝倉未来の強さの核は”客観視能力の高さ”にあり? 著書『強者の流儀』で分かるデータ分析能力の高さと実行力

   自分を客観視する。

 朝倉未来を朝倉未来たらしめているのが、まさにこの客観視能力であるといえる。思えば総合格闘技団体『THE OUTSIDER』で”路上の伝説”の異名を持ち、快進撃を続けているときからその肩書に、ある種の違和感を覚えていた。『THE OUTSIDER』はそのキャッチフレーズである「不良達ヨ覚醒セヨ」を見てもわかるとおり、出場する選手の多くがいわゆる不良や暴走族など、アウトローな存在で、もちろんその中には弁護士などまともな職業の選手も存在しているものの、リングの上も観客席も含めて、他の団体と一線を画する独特の雰囲気、熱量を醸し出して話題になっていた場である。

同じフォルダでデータを管理している

 そんなリングに豊橋の喧嘩自慢、しかもあの昭和の不良を彷彿とさせるヤンチャな顔つきの選手が上がるわけだから、当然最初は喧嘩ベースの荒っぽいファイトスタイルかと思っていた。しかしどうも様子がおかしい。打撃ベースのファイトスタイルで技術的にはもちろん荒削りではあったが、ハートの部分は常に冷静で、常に対戦相手のすべてを見据えているような、冷たい目をしている。コメントも必要以上にガナることも煽ることもなく、ただ自信には満ち溢れている。弟が陽キャラな分、ちょっと不気味で、でも気になる何かを持っている存在だった。

 その印象は当時の雑誌のインタビューを読んで、ますます確かなものになった。その後の今に至る活躍は今さらいうまでもないが、韓国のROAD FC参戦を経て総合格闘技団体のRIZINに参戦。メインイベンターとしてRIZINを支える存在の一人に。また昨年からはYouTuberとしての活動も開始。1年でチャンネル登録者数100万人を突破すると宣言し、2019年の5月に開設したYouTuberチャンネルは、2020年3月の時点で95万人を突破。今最も成功しているYouTuberの一人としても注目を集めている。

 今回そんな朝倉未来の初の著書は、格闘家、スポーツ選手の1冊目にありがちな自伝的な振り返りではなく、自身の考え、思考ロジックを紹介するという自己啓発的な一冊に仕上がっている。

 一通り読み終えて感じたのは、やはり冒頭でも言及した彼の客観視能力の高さである。近年格闘技以外のスポーツでも、分析の分野が格段に進歩していて、ビッグデータを元にさまざまな情報を提供できるアナリストの存在が大きいものとなっているが、いわば朝倉未来は超一流のアナリストなのである。朝倉未来がすごいのは、そのデータ収集を己の客観視能力によって、自分自身でやれてしまうことにある。日々の他人とのやり取りや目の前で起こった事象だけでなく、自分自身の思考や行動すら1つのサンプルケースとして自分の脳内データベースにストックできている。またそれらのデータをカテゴリごとにラベリングはしているものの、フォルダ分けをしていないように思える。これはプライベートのデータ、これは格闘技のデータ、これはYouTubeのデータと分けて保存していると、それぞれの領域に保存されているデータだけでそれぞれの分析をしてしまいがちで応用的にデータを活用できないが、全てのデータが同一フォルダにストックされているので、一見関係ないラベルが貼られているデータでも、親和性が高いと即座に引っ張りでして結びつけることができる、そんな頭の構造をしているように思える。だからこそ、朝倉未来はなにをやっても、それなりに成功する自信があると、自分で言い切れるのではないだろうか。

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