『世界一受けたい授業』出演・ブレイディみかことは何者か? 名物書店員によるオススメ著作紹介

 保育士? 音楽ライター? 経済も語れる作家? 世代を越え読者の支持を集める『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を書いた、ブレイディみかことは?

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)の勢いが止まらない。第2回 Yahoo!ニュース 本屋大賞 ノンフィクション本大賞など、各文学賞受賞のニュースが続くが、幅広い読者の心を捉え今なお売れ続けている。子どもの眼を通して視るイギリス社会は、人種、経済格差、子どもの成長、家族問題と、日本に生きる私たちでも関心の高いテーマを、それぞれ様々な角度から描き出す。まさに多様性が語られる現代で、親子で読める教科書のような本なのだ。

 そんな今注目の作家ブレイディみかこの作品に魅せられた方々に、ぜひ次の作品を紹介したい。

『アナキズム・イン・ザ・UK――壊れた英国とパンク保育士奮闘記』(Pヴァイン)

 書店で働く私が初めてブレイディみかこの名を目にした一冊。1日に発行される新刊は200点ともいわれ、本を分類するためにもやはり著者の肩書きは重要だ。研究者であれば学術書、小説家であれば文芸書の棚に本が置かれるのは、当然納得してもらえるだろう。現役保育士のライターが放つ社会評論はまさにジャンルを越えたものだった。

 音楽にも造詣の深い著者により、当時のブレアー政権もバンドのメンバーに例えられる。その時代に生きる若者が生み出すロックミュージックの変遷とは、まさにイギリスの現代史だ。イギリスの路地から湧き立つすえた臭いを、偏西風にのせた乾いたユーモアで日本へ届ける作品。

『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)

 著者が働き始めたのは、イギリス国内で生活水準最悪の1パーセントに位置する底辺託児所。周辺では、膠着した階級社会に生きる労働者たちの嘆息や、貧しいながらも未来への希望を胸にする移民たちの目の輝きが、雑然と入り交じっていた。本書で著者は、「地べたにはポリティクスが転がっている」と述べているが、洋の東西を問わず緊縮した社会の最前線はまさに底辺にあるのだ。

 実生活に基づく記述ほど説得力のあるものはない。著者にしか書けないテーマとして、ブレイディみかこの最高傑作として推したい。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の姉妹本とも言え、併せて読むと登場人物たちの成長も楽しめる。

『女たちのテロル』(岩波書店)

 地べたから産まれた思想で、国家に挑んだ金子文子。女性参政権を求めて闘った過激派サフラジェット,エミリー・デイヴィソン。学校教師からスナイパーに転身した,イースター蜂起の革命家マーガレット・スキニダー。100年前に生き死んだ3人の女性たちの人生から、「女と社会」を色鮮やかに描き出したエッセイ。表紙のごとく、登場人物たちの己が生への情熱が百花乱舞し、血の匂いを交えた馥郁たる花の香りが鼻腔をつんざく一冊。

 自分の人生を書けば、人は誰でも小説を一冊は書けると言われている。著者のそれまでの作品からテーマがより離れ、それでも読ませる一冊の完成は、ブレイディみかこの新境地であり、単なる書き手ではなく作家として、その存在を世に示す作品。

 新たな作家誕生の時に立ち会える。読者として、書店で働く人間として、こんな瞬間を楽しめないわけがない。

■書籍情報
『アナキズム・イン・ザ・UK――壊れた英国とパンク保育士奮闘記』
著者:ブレイディみかこ
出版社:Pヴァイン
価格:1,980円(税込)
<発売中>
http://p-vine.jp/music/isbn-978-4-907276-06-5

『子どもたちの階級闘争 ブロークン・ブリテンの無料託児所から』
著者:ブレイディみかこ
出版社:みすず書房
価格:2,640円(税込)
<発売中>
https://www.msz.co.jp/book/detail/08603.html

『女たちのテロル』
著者:ブレイディみかこ
出版社:岩波書店
価格:1,980円(税込)
<発売中>
https://www.iwanami.co.jp/book/b452042.html

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