永田カビ『現実逃避してたらボロボロになった話』が描く、エッセイ漫画家の葛藤と決意

 永田のエッセイ漫画は、ドキュメンタリーに近い。ほとんどファンタジー化されていなかったのではないだろうか。もちろん人生を漫画にするには工夫が必要であるし、永田も読み物として作ったと漫画内で言っていたことがある。しかしそれでも、永田のエッセイはあまりにもノンフィクションすぎた。永田にとってエッセイ漫画はイコール自分自身であり、エッセイ漫画はたとえ売り物でも人生そのものだった。大胆で生々しくて赤裸々で、自傷行為のようにも思える。そしてその自傷行為は本人だけでなく周囲の人間にも大きな影響を与えた。だから彼女はエッセイ漫画をやめようと考えたのだろう。

 では、なぜまたエッセイ漫画を出すことになったのか。その葛藤を繊細で稀有な表現能力で描いている。吾妻を例にとれば、毎晩食い物を探して歩き回る部分ではなく、真冬の野宿がどのように苦しいものか、経験のない人にも伝わるよう微細に描かれたようなものだ。そういった文章や動画では伝わりきらない状況や気持ちを、あくまでポップな絵柄やタッチで描かれた漫画で、こんなに面白くもしっかり読者に届けられている。

 永田が描く心象風景の漫画化ほど、物事がストレートに伝わる表現方法はない。難しい言葉や文法を使わず、心に浮かぶ文章が素直に使われ、それを絵で表現し、文章が絵を補い、絵が文章を補う。その絶妙なバランスによって読者の想像力が追いつき、誰にでも受け止められやすくなる。永田にしか感じられなかったことが読者にも感じられる。精神・身体に関わらず自身の苦しさを表現できる人は少ない。言葉にできないために気づくことのできない痛みや苦しみがある。永田には、生きる上での苦しみや気づきや痛みを漫画として表現する力がある。永田の作品を読むことで読者も初めてそれらを知り、自分自身や他人を理解するきっかけになる。つまり、永田の気づきが私の気づきになる。だから、これからも永田にエッセイ漫画を描き続けてほしいと読者は願うのだ。

 最後には、エッセイでもフィクションでも描きたい題材を見つけ出し、今後もエッセイ漫画に取り組んでいくことを示唆している。実際、11月27日に発売されたグランドジャンプ増刊「グランドジャンプめちゃ」12月号には、特別読み切りとして新作フィクション漫画が掲載された。

 永田カビが生きて漫画を描くことで生まれてくる、かけがえのない気づきを私も生きて追いかけていきたい。

(文=菊池彩)

■書籍情報
『現実逃避してたらボロボロになった話』
著者:永田カビ
発売日:2019年11月5日
定価:925円(税抜き)

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