愛こそは闘いーージョナサン・サフラン・フォア、11年ぶり長編小説『ヒア・アイ・アム』で見せた成熟

「近くにいることは簡単ですが、近くにいつづけることはほぼ不可能です。友人のことを考えてください。趣味のことを考えてください。アイデアでもいい。どれもわたしたちの近くにあります──あまりにも近くて自分の一部と思えたりもします──が、あるときから近くではなくなる。遠ざかります。長いあいだ近くにとどめておく方法はひとつしかありません。その場に押さえつけることです。格闘して倒し、放そうとしないことです。格闘しないものは手放すことになる。愛とは闘いがないことではありません。愛こそは闘いなのです」

 誰しも年齢を重ねるたびに、これまでいかに多くを手放してきたかと、過去の喪失に思いを馳せた経験があるだろう。時間の経過によって、多くの貴重な他者や情熱を失ってしまった私たち。だからこそ、残酷な現実を怖れ、さまざまな逃走を試みてきたJSFの小説が、ついに正面から「愛こそは闘い」であると宣言するに至った場面は感動的である。かつて「ありえないほど近い」と題された作品を書き、距離感が縮まることへの不安を隠さなかった著者が、いかに誰かと(あるいは何らかの目標と)「近くにいつづけること」ができるかを真剣に考えるまでに変化したのか。もはや自分は若者ではないと悟った書き手が、ついに成熟へ向かって歩き出す姿には、数多くの読者が胸を打たれるだろう。

■伊藤聡
海外文学批評、映画批評を中心に執筆。cakesにて映画評を連載中。著書『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)。

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