INI、“自らの音楽”を掴み取る豊かな探究心 重ねてきた5年の先で立つ新たなスタートライン――ユニット曲から徹底検証

INIのユニット曲を徹底検証

 2026年、デビュー5周年という大きな節目を迎えたINIが、今まさにアーティストとして新たなフェーズへと突入している。

 9月には初の東京ドーム単独公演を成功させ、11月には京セラドーム大阪での単独公演も控えるなど、その勢いはとどまるところを知らない。しかし、現在のINIを語る上で何より注目すべきは、単にライブの規模やセールスといった数字面の成長だけではない。5年間にわたって磨き続けてきた歌唱力、ダンススキル、ステージングといった表現力を土台に、自分たちの音楽的な美意識やビジョンを、作品として具現化するだけのクリエイティビティを獲得していることだ。

 その進化を象徴する1つが、ユニットプロジェクト「INI WORKSPACE」から生まれ、10月12日にリリースされた4曲である。

 デビューした2021年以来、実に4年ぶりとなる今回のコンテンツでは、メンバー自身が作詞・作曲を行うのみならず、ユニットによっては楽曲の発案や振付師の選定に至るまで、さまざまな形で制作に参加している。興味深いのは、各ユニットが自らの嗜好や得意とする表現を徹底的に追求した結果、実に多彩な音楽世界が生まれていることだ。そこに共通しているのは、「自分たちがかっこいいと思うサウンドスタイルや表現に、どこまでも正直であること」という姿勢だろう。

 大衆性やキャッチーさを意識することは、ポップミュージックにおいて決して間違いではない。しかし、それらを優先するあまり、アーティスト自身の美意識や衝動が後景に退いてしまうことも少なくない。今回の4作品から感じられるのは、そうした枠組みに安易に収まろうとしない、INIの強い創作意欲である。

「Give Me More」(尾崎匠海、後藤威尊、佐野雄大、松田迅)

 まず、尾崎匠海、後藤威尊、佐野雄大、松田迅による「Give Me More」。松田が単独で作詞を担当し、尾崎が作曲に参加、さらに後藤が振付師を提案するなど、音楽とパフォーマンスの両面にメンバーの意志が反映された作品だ。

[INI WORKSPACE] 'Give Me More - TAKUMI, TAKERU, YUDAI, JIN'

 エキゾチックな響きを持つ旋律と、切なさや儚さを湛えたメロディアスな歌唱が強い印象を残す一方、リズムやビートメイクには2ステップやダンスホールの要素も取り入れ、トラップを基調とした現代的なダンストラックとして構築されている。特に興味深いのは、こうした多層的なリズムアプローチと、どこかナイーブで叙情的なメロディが絶妙なバランスで共存している点だ。繊細なギターの旋律が楽曲に情緒的な陰影を与え、歌とラップを自在に行き来する多彩なボーカル表現が、その世界観をさらに立体化していく。

INI ソロアー写
尾崎匠海
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後藤威尊

 今回のドームツアーでの披露にあたって松田が手掛けた歌詞にも、楽曲の音楽的な二面性が鮮明に表れている。暗闇の中で自分の居場所を見失いながら、そこに差し込む光を求める心情。やがて、その光が特定の誰かの存在と重なり、相手を強く求める感情へと変化していく。孤独や不安、憧れ、そして独占欲までもが入り交じった、複雑な感情の揺らぎが描かれているのだ。

 だからこそ、トラップ由来の硬質なビートと、ダンスホールや2ステップの身体を揺らすリズムの上で奏でられる儚い歌声とギターの旋律が、強い欲望の裏側にある繊細な感情を浮かび上がらせる。ダンスミュージックとしての身体性と、ポップソングとしての情感。その両者を高い次元で共存させているところに、この楽曲の面白さがある。

INI ソロアー写
佐野雄大
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松田迅

 松田が紡ぐ言葉、尾崎が作曲に関わったメロディ、そして後藤が提案した振付師による身体表現。さらに歌唱表現では、尾崎の色香たっぷりで情感豊かな歌声がメロディの切なさを際立たせ、佐野のしなやかな声色がそこにより繊細なニュアンスを添える。一方、後藤と松田のタイプの違うリズミカルなフレージングは楽曲にエッジとアクセントをもたらし、4人それぞれの声の個性がサウンドとストーリーに多視点的な魅力を与えている。異なる役割から作品の完成形へとアプローチする制作体制も、ユニットならではだ。リズムの複雑さやサウンドの先鋭性を追求しながら、メロディの情緒を決して手放さない。そのバランス感覚には、INIが培ってきたポップミュージックへの理解と、彼ら自身の美意識が色濃く表れている。

「君がくれたもの」(木村柾哉、藤牧京介)

 一方、木村柾哉と藤牧京介による「君がくれたもの」は、今回の4作品の中でも、とりわけ純度の高い音楽表現が際立つ1曲だ。

[INI WORKSPACE] '君がくれたもの - MASAYA, KYOSUKE'

 何より素晴らしいのは、その圧倒的なまでのシンプルさである。ピアノ、ストリングス、ドラム、そして微炭酸のように繊細なデジタルサウンド。最小限に抑えられた音数の一つひとつが、丁寧に紡がれた歌詞と美しいメロディを支えるために存在している。過剰な装飾や劇的なサウンドプロダクションに頼ることなく、音楽そのものが持つ情緒を最大限に引き出しているのだ。

 2人が作詞・作曲を手掛け、木村自身がピアノ演奏も担当。ここで注目すべきは、表現のために何を加えるかではなく、何を削ぎ落とすかという選択である。

INI ソロアー写
木村柾哉

 歌詞では、孤独や不安を抱え、自分の進むべき道さえ見失っていた主人公が、大切な誰かの声によって過去を肯定し、未来へと踏み出す力を得ていく。印象的なのは、誰かとの出会いが未来だけでなく、過去の意味さえも変えてしまうという視点だ。傷ついた記憶や報われなかった時間も、今の自分へとつながる大切な道のりだったのだと気づく。その優しくも力強いメッセージは、5年間の活動を経てきたINI自身の歩みにも重なるように感じられる。もちろん、ファンであるMINIへの感謝を歌った楽曲として受け止めることもできるだろう。しかし、それだけに意味を限定しない普遍性が、この歌詞にはある。

 音数が少ないということは、それだけ歌声やメロディの表情が剥き出しになるということでもある。声の揺らぎ、息遣い、言葉の余韻。そうした細部にまで感情を宿すことができなければ、この繊細な音楽世界は成立しない。

INI ソロアー写
藤牧京介

 藤牧と木村の歌声は、まるで何の装飾も施されていないかのように純粋で、透明感に満ちている。しかし、その自然体の美しさを成立させているのは、確かな歌唱技術と表現力にほかならない。INI屈指のボーカリストとして歌唱表現を磨いてきた藤牧と、卓越したダンスの身体表現とともに、ボーカル面でも驚くほどの進化を積み重ねてきている木村。異なる強みを持つ2人が、あえてシンプルな音楽表現を選択したことには、大きな意味がある。

 何も足さずとも、歌とメロディだけで人の心を動かせる。それは、INIが5年間で獲得してきた表現力の、もう一つの到達点なのだろう。

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