かりゆし58 前川真悟 × かまいたち 山内健司対談 「人に届いた時に初めて、僕らの仕事は全うされる」

かりゆし58前川×かまいたち山内対談

今M-1に出ても優勝できるぐらいのやつが審査員をしておかないといけない

――かまいたちは地上波、YouTube、ラジオと様々な媒体を通して見ない日はないというくらい大忙しですが、とてもフラットな状態で笑いと向き合っているように感じます。

山内:一つ、きっかけがあったんです。僕らはM-1に2017年、2018年と決勝まで行っていて、2018年はコンビで「今年負けたら、もう出るのはやめよう」と決めて出て、5位で負けた。だから俺は、2019年は出ないつもりでいたんです。ラストイヤーでしたけど、僕らはもうテレビの仕事がある。仕事のある先輩が若手の大会に邪魔しに来ている感じになるんちゃうか、と勝手に思っていた。でも濱家(隆一)は「いやいや、全然まだそんなレベルじゃない」というスタンスで、結局2019年に出て、ミルクボーイが優勝した年に準優勝だった。そこから仕事が劇的に増えたんです。出ていなかったら危なかった。つまり、俺の自己評価は2個ぐらい高すぎたんです。「もういいやろ」と思っていた2個下が実際の立ち位置だったんだなと分かって、そこからはかなり引き締めるようになりました。

 今、テレビにこの量出ていて単独ライブもするのは「だいぶしんどない?」とも言われるんですけど、ミュージシャンの方もそうかもしれないですけど、芸人にとってライブに出ているのはかなり重要なことなんです。テレビは、スタッフの人は笑うけど、視聴者が笑っているかどうかまでは分からない。舞台は、面白くなかったらお客さんが笑わない状況になっている。古いネタじゃなくて、今の自分らが作ったネタでちゃんと笑いが取れているか。それを確認する場所としてライブがめちゃくちゃ重要なので、今もずっと出続けています。新ネタを作らなくなると舐められると思っているんで。それと、たぶん無理なんでしょうけど、気持ちで言えば、今M-1に出ても優勝できるぐらいのやつが審査員をしておかないといけない。自分が出ていた時は、やっぱり現役でやっている人に審査されたいと思っていたので、そこはちょっと大事にしていますね。

――前川さんも、人前に立ち続けていないと、という感覚はありますか?

前川:ライブをしていないと無職だと思うんですよ、本当に。僕らの仕事は形のないものにお金をいただいている。同じ業界の人ばっかりと打ち合わせや挨拶をしていると、仕事をした気になる。でもそれは段取りができただけで、歌が人に届いた時に初めて、僕らの仕事は全うされると思うんですよね。

 今、人生で一番、俺がいつか欲しかったものが手元にあるなと思っていて。それは、毎日違う場面で歌を歌えていること。今日はどうやってこの場所にいる人たちと向き合って、「面白かった、楽しかった」と言えるところに一緒に行けるか。それを毎日考える。何十年もやっているアメリカのブルースの大先輩が「まだ緊張するのか」と聞かれて、「今日も自分に嘘をつかずにいられるか」と答えたらしいんですよ。自分が流したところやサボったところは、自分にはバレるから。今日これで生きられれば、今日の宿とご飯は食べられる。明日も嘘をつかずにやれれば、明日も宿と飯は食べられる。こうやって毎日つないでいくのが、本当の意味での表現者だったんじゃないかなと思い始めています。

――今回のアルバムには「ユーモア」という曲があります。自分にユーモアがあれば、という歌ですが、どういう気持ちでこの言葉と向き合ったんですか。

前川:あるクリスマスに息子から「父ちゃんはクリスマスを母ちゃん以外の女の人と過ごしたことあるの?」と聞かれて、「あるよ」と答えたんです。ラブソングって大まかに、「君が好きで、これから幸せになろう」か、「あの時の君が忘れられない」か、どっちかじゃないですか。あの曲で描きたかったのは、別れの寂しさよりも、「なんであの時、笑えなかったのかな」という気持ち。笑って「行かないでよ」と言っておけば、振られたにしても、最後に笑って見せられたからまあいいか、と思える。未練がましくないのに、なんだか切なくなってしまう。そういうものを描写したかったんですよね。密かに語り部が男と女で分かれていて、同じ空間にいるのか、同じ時間軸にいるのかもわからない2人が、少し手の届かないものに思いを馳せている。そういう曲にしたかったんです。

――お子さんと共作した「セミファイナル」も、秀逸な歌詞ですね。

前川:去年、息子が小学6年生の夏休みに、自由研究で「曲を作ってみようと思う」と言うから、「おお!」と思って。曲作りで難しいのはテーマを歌詞にするところなので、「なんか案あるの?」と聞いたら「実はね」と。うちの息子と奥さんは言葉遊びが好きで、夏にアスファルトの上であお向けになっているセミが最後にギャーンと鳴くのを、「セミファイナル」と呼んでいるらしいんです(笑)。ちょうど息子が野球を始めて、その夏の甲子園を見ていたら、こう言うんです。「父ちゃん、あのセミも球児も似てる気がする。人が見えないところで長い時間準備して、土の上に出ていく。夏の終わりにセミが鳴き、球児が泣いて、夏が終わる。この2つを対照させて『セミファイナル』っていう曲を作ろう」と。天才か、と思いました。

 ただ、父ちゃんがミュージシャンだからといってよくできたものを提出したら、スネ夫みたいになる(笑)。だから学校の友達も誰でもできるように、パソコンに無料で入っているGarageBandと内蔵マイクだけで済ませるルールにしました。歌詞も曲も固まって、あとは声を録るだけという段になって、息子が「さすがに両親のそばで歌うのは」と言うので、「じゃあ父ちゃんと母ちゃんはコーヒーを飲んでくるね」と家を出た。2時間ぐらいして戻ったら作業が進んでいなくて、「自分の歌声が気持ち悪くて嫌いだ」と言うんですよ(笑)。

――自分の声を受け入れる最初の壁ですね(笑)。

前川:分かる、と思いました。俺もそうですし、ミュージシャンの7、8割はそうかもしれない。でも、「みんながそうだからいい」では彼は納得できないから、こう言ったんです。「作品作りというのは、自己肯定の印鑑を一回押していかないといけない。最後に自分の声にも一回、決裁のハンコを押して、反省は後からする。その順番にしてみよう」と。出来は思ったより最高でしたし、音楽に向き合うとはなんだろうかを息子と一緒に考えられたので、いい機会だったなと思います。

――山内さんのお子さんは、お笑いは好きなんですか?

山内:うちの子はちょけて、ふざける方なんですけど、「芸人には絶対なるなよ」と言っています(笑)。「なれるわけないから」と、今のうちに釘を刺して。「なりたかったらいいけど、パパは本当にラッキーだっただけだから」と。お父さんが芸人だから芸人になっている、という変なフィルターで見られてしまうのもあるし、やるなら親のことは絶対に伏せてやった方がいい、という感じはあります。

前川:恵まれない環境の中でおかしみを探す、というユーモアの鍛え方があるじゃないですか。父ちゃんが有名だと、「こいつはひもじい思いも悔しい思いもしていない」と見られてしまう。芸人さんに対する勝手なイメージですけど。

山内:人間の感情として、見ている側は、自分より下だと思えるやつの方が笑いやすいですよね。「かわいそうやな」と思えるやつが頑張っている方が、笑いやすいところはどうしてもあると思いますね。

――最後に、山内さんから前川さんに聞いてみたいことはありますか?

山内:僕は猫を飼っていて、その猫が死んだ時に、かりゆしさんの「さよなら」がすごく自分の猫とかぶったんです。たぶん、人に対して書かれた曲だと思うんですけど、残された側は頑張って生きないとな、と思わせていただいたので、感謝しているというか。歌詞にある〈何かが起きそうな兆しもなく〉という感じで過ごしている日は、若手の時は特にありました。でも、その日を迎えられなかった人もいるんだなと思いながら過ごすと、「ちゃんと生きなきゃな」と思えた。素晴らしい歌詞だなと思います。

前川:うれしいです。あの曲はたぶん、初めて東京を舞台にして書いた曲なんです。沖縄の人間は先入観が強いから、「東京は大変。沖縄がいいよ」というつもりで東京に行く。俺も地元の先輩に「海も臭いしきついっすよ、東京は」と言ったら、その先輩がこう言ったんです。「沖縄の海は、誰かの思いや感情を黙って受け止める。東京の海は、思いだけじゃなく、生活の汚物まで全部黙って受け入れている。下手したら東京の海の方が優しいんじゃないか」と。そしたら東京の見え方がパッと変わって、この感情をどうにか書きたいと思ったんですよね。人と人の別れの歌にもなっているけど、俺が沖縄に馳せていた呪いに近いような慕情を断ち切る、という意味でも、自分にとっても大事な曲です。

 最近、ぼんちおさむさんと家族ぐるみで仲良くさせてもらっているんです。おさむ師匠はいまだに新しいネタを作るし、感性を落とさないために、飲み会も若手の方々としか行かない。おさむさんと一緒にいる時に、芸人さんに対して俺が抱いている羨ましさは何だろうと考えたんです。「笑ってはいけない」という企画があるじゃないですか。あれが「踊ってはいけない」や「歌ってはいけない」だったら、全員できると思うんですよ。でも「笑う」はそれを超えた、人間のもっと奥、原始的なところへのアプローチで。人が笑った時の喜びは、たぶん俺たちが感じるものとは質が違うんじゃないかなと。

山内:「自分が思った通りに人が笑ってくれた」という喜びはでっかいですね。ネタは「こうやったら笑う」と想定して作っていますけど、その通りになる時もあれば、ならない時もある。なった時に、自分の感覚が合っていたと分かるのはやっぱりうれしいです。

――山内さんはカラオケで歌っているわけですし、今度はお二人でカラオケに行っていただきたいですね(笑)。

前川:おお、なるほど。それなら流しに来てもらったら、ご飯を食べながらゆっくり歌えるんでぜひ(笑)。

山内:それはめっちゃ緊張しますけど、面白そうですね(笑)。

■リリース情報
『結縁音』
10月14日(水)リリース

初回限定盤(CD+Blu-ray)
価格:8,250円(税込)
品番:434-LDKXD

初回限定盤(CD+DVD)
価格:7,700円(税込)
品番:435-LDKDV

通常盤(CD)
価格:3,300円(税込)
品番:436-LDKCD

■かりゆし58
・ツアー情報
『かりゆし58 ホールツアー2026』
11月12日(木)北海道・共済ホール
11月18日(水)新潟・新潟市音楽文化会館
11月20日(金)石川・金沢市文化ホール
11月23日(月)宮城・日立システムズホール仙台 シアターホール
11月25日(水)広島・新日本造機ホール
11月26日(木)岡山・倉敷市芸文館
11月27日(金)香川・朝日段ボールホール国分寺
11月29日(日)福岡・SAWARAPIA 福岡県立ももち文化センター
12月4日(金)愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
12月6日(日)大阪・東京建物Brillia HALL 箕面
12月9日(水)静岡・沼津市民文化センター 小ホール
12月11日(金)高知・新来島高知重工ホール グリーンホール
12月12日(土)滋賀・ルッチプラザベルホール310
12月20日(日)沖縄・沖縄コンベンションセンター劇場棟
12月29日(火)東京・LINE CUBE SHIBUYA

・公演情報
かりゆし58 日本武道館公演
日程:2027年4月30日
会場:日本武道館
武道館特設サイト:https://kariyushi58.com/feature/budokan2026

・関連リンク
【かりゆし58 20周年特設サイト】
https://kariyushi58.com/feature/20th
【かりゆし58 公式HP】
https://kariyushi58.com/
【かりゆし58 公式X(旧Twitter)】
https://x.com/kariyushi58info
【かりゆし58 公式Instagram】
https://www.instagram.com/kariyushi58_official/

◾️かまいたち 山内健司
・関連リンク
【山内健司 公式X(旧Twitter)】
https://x.com/yamauchi0117
【山内健司 公式Instagram】
https://www.instagram.com/sneakerkenji0117
【かまいたち 公式Youtubeチャンネル かまいたちチャンネル】
https://www.youtube.com/channel/UCIR2mQ77wHrLMreV45nYhgw
【YouTubeやまうち界隈】
https://youtube.com/channel/UCy0yeth18BNy7PEbKYexevQ?si=wf0hzKNmqiI_-lpm

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる