水瀬いのりが挑戦の先で打ち立てた、語り継がれるべき“神話” 野外ワンマン『Summer Challenger』を振り返る

水瀬いのり、富士急野外ワンマンレポ

 「私は冬生まれということもあって、夏が苦手で、あんまりいい思い出がなくて」――。今年7月にリリースしたシングル『Summer Challenger』のインタビュー(※1)で、水瀬いのりはそう話していた。表題曲の制作にあたって彼女がプロデューサーを介して伝えたテーマは、「夏に挑戦する」「夏を克服する」。初の野外ワンマンライブ『Inori Minase OPEN AIR LIVE 2026 Summer Challenger』は、その言葉を夏の屋外で挑戦する場でもあった。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 会場の富士急ハイランド・コニファーフォレストは、彼女がかつて観客として訪れた場所でもある。まだライブ経験もなかった頃、SEKAI NO OWARIの野外公演を観に行き、音楽だけでなくさまざまな演出を“浴びた”という感覚のまま帰りのバスに乗ったという。野外ライブについては、「空の移ろいを見たり、風を浴びたりして、パフォーマーと観客が同じ気持ちになれる感覚が強い」とも語っていた。本記事では、2日間のうち、9月13日に行われたDAY2公演を振り返る。

 オープニング映像に続いて7名のバンド、通称・いのりバンドが登場し、「コイセヨオトメ」を演奏し始める。発破音とともにオレンジ色の衣装の水瀬がステージ中央にせり上がると、町民(ファンの呼称)たちから大きな声援とコールが上がった。勢いそのままに「Step Up!」ではサビのカウントを客席が合唱し、「MELODY FLAG」では会場中の手が左右に揺れる。ダンス曲を1曲目に置いたのは彼女自身の希望だったそうで、最初のMCでは「“チャレンジャーいのり”ということで」「みんな喜んでくれるし、びっくりしてくれるかなって」と笑顔を見せた。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 天候や気温の変化について「私たちがこの自然にきている側ですので」と話し、観客の体調を気遣ったあと、次の曲で客席に水をかけると予告。そうして始まったのが、ヤマモトショウが手がけたこのライブのテーマソング「Summer Challenger」だ。ライブを見据えて、制作段階でコールアンドレスポンスのパートを増やしてもらったという曲で、客席の声を受けながら、水瀬はホースを手にステージを左右へ歩き、前方へ水を放つ。跳ねるように踊る足取りは、曲が進むにつれて軽くなっていった。「Future Seeker」「heart bookmark」と続けると、最後は会場全体で「We are all right!」と声を合わせた。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 バンド紹介とともに各楽器のソロを聴かせると、「Calling Blue(overture)」から「Turquoise」へ。ブルーの衣装に着替えた水瀬は、トロッコで客席エリアを進み、客席内に用意された3つのサブステージのひとつに降り立った。日が傾き始め、スポットライトが彼女を照らす。「ハートノフレーバー」は、インタビューで、リゾート地でカクテルを横に置き、椅子に座って歌うような情景を思い浮かべながらレコーディングしたと話していた曲だ。ステージでは、シャボン玉銃を手にゆらりと体を揺らしながら歌う。周囲からも噴き出すシャボン玉が、夕方の光のなかを漂っていた。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 360度を観客に囲まれたサブステージで、彼女は嬉しそうに話した。普段のライブには1階席、2階席、スタンドといった区分があるけれど、ここではみんなが同じ地面に立っている。夜になるとペンライトの光が区画分けされた田んぼのように見えて、昼間はみんなの顔がよく見える、と。サブステージを「島」と呼び、観客に「島民であり、町民であり」と笑いかけたあと、次の島まで客席のあいだを自分の足で歩いていく。手を振り、「ありがとう」「行ってくるね」と何度も声をかけながら、ゆっくりと進んでいった。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 「17時台、18時台、19時台と、1時間ごとに世界観が変わって、『同じ会場なのかな?』というぐらい違う感覚を味わってもらいたい」。インタビューでセットリストについて尋ねた時、彼女はそう答えていた。中央のサブステージに着く頃には、日はだいぶ落ちていた。「夕暮れとともにお楽しみください」と始めた「夏夢」は、田口慎二のアコースティックギターと若森さちこのパーカッションだけを伴う野外用のアレンジ。続く「茜色ノスタルジア」で須磨和声のヴァイオリンとtatsuyaのキーボードが加わる頃には、空はさらに暗さを増し、スポットライトの光がくっきりと彼女を照らした。「水濡れ注意報」と再び伝えて「Melty night」へ。四方から噴き出す水に照明の色が乗り、「八月のスーベニア」に入る頃には、ペンライトの光が会場に浮かび上がっていた。トロッコでメインステージへ戻ると、黒いドレス風の衣装に替えて「星屑のコントレイル」「パレオトピア」と、ロックナンバーを畳みかけていく。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 そして、彼女はリハーサル期間のことを話し始めた。このロケーションに合う曲がありすぎて、「これは一回では終わらせられないな、またやりたいな」と早くも次を考えてしまうような日々だったという。ゲネプロでは「みんなにちゃんと届くかな」と不安になり、「自分がもっと頑張らないと、たくさんの人の心に届く歌は歌えないんじゃないか」と空回りもした。そのうえで、「自分の歌を自分がいちばん好きでいられるっていう気持ちを大切にしたい」と思いながら活動を続けてきたのだと語った。インタビューで11年目以降について尋ねた時にも、彼女は「自分の音楽のいちばんのファンでいてあげたい」と話していた。さらに、今回のライブが「野外(公演)の正しい形っていうわけではもちろんないと思うので、まだまだ模索しながら楽しいを集めていきたい」と言葉を紡いだ。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 「ハートフルなMCをしてしまったんですが、このあと、激しいです」。そう前置きしつつ、書かれている歌詞や伝えたいことは今話したことと同じだと添えて歌われたのが、「リフローレセンス」だった。「アイオライト」を手がけた志村真白が作詞作曲、「スクラップアート」の栁舘周平が編曲を手がけた楽曲で、スモークと明滅するライトのなか、水瀬はマイクスタンドの前に立って歌う。続く「Million Futures」では、タイトルのコールにそれまでより大きな声が返ってきた。歌い終えた彼女は「今、来日したアーティストの気分だったぜ」と笑い、町民たちに向かって「これもう町じゃないって!」とおどけたあと、「人ってすごい。人間すごい!」と繰り返した。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 本編最後のMCでは、言葉の途中で声が詰まりかけた。「泣きそうになると変な顔をしてしまう癖が昔からあるんです」と笑ってごまかしながら、「みんなと一緒だったから挑戦ができたと思っている」と伝えた。制作時に彼女が掲げていたのは、「今年の夏はみんなと一緒なら克服できるんじゃないか」という言葉だった。「僕らは今」では「一緒に歌おう!」の呼びかけに客席が合唱で応え、中央に集まったバンドメンバーとともに「神話を作るよ!」と力いっぱい歌い上げて本編を終えた。

 アンコールでは、グッズTシャツ姿でトロッコに乗り、「約束のアステリズム」「アルペジオ」を歌いながら場内を一周。DAY2公演の配信と2027年2月からの全国ツアーを発表し、「燈籠光柱」では夜空に花火が上がった。それでも続くアンコールの声に再び姿を見せた彼女は、「明日のことなんて考えず、回したくない?」と呼びかけ、この日だけのダブルアンコールとして「Ready Steady Go!」を歌った。客席では一斉にタオルが回った。

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

 「でも、まだ、“大敗北”という未来もありますからね。『やっぱり夏はダメだった』という(笑)」――。インタビューで、水瀬はそう言って笑っていた。同時に、「行動を起こしたという時点で、もうチャレンジは大成功」とも話していた。この日の彼女は、とても伸びやかに力強く歌い、ホースで客席に水を撒き、シャボン玉を飛ばし、客席のあいだを歩きながら「行ってくるね!」と手を振っていた。日が落ちてペンライトの光が会場を区切る頃には「人ってすごい」と繰り返し、最後は「明日のことなんて考えず」とタオルを回していた。「夏が苦手だ」と話していた水瀬いのりは、少なくともこの日のコニファーフォレストでは、夏を克服したように見えた。

※1:https://realsound.jp/2026/07/post-2466881.html

水瀬いのり(撮影=加藤アラタ[Kato Arata]/三浦一喜[Miura Kazuki])

水瀬いのり、自由の翼を手に新たな挑戦へ! 「自分がいちばんのファンでいてあげたい」――『Summer Challenger』を語る

水瀬いのりが13枚目のシングル『Summer Challenger』をリリース。音楽活動10周年を経て最初のリリースとなる同作に…

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