『ユイカ』、諦めるために始めたはずの音楽で実らせた輝き 国際フォーラム公演『Sanvitalia』での“恩返し”

『ユイカ』国際フォーラム公演レポ

 初ライブに「好きだから。」リリース日の“誕生花”である『Agapanthus』をタイトルに冠した『ユイカ』は、自主企画ライブに『時計草』、2ndライブには『Sweet alyssum』、初のZeppツアーは『Tsukimisou』と、花の名前を自身のライブに冠してきた。そんな彼女が、自身最大規模のホールライブに託したのは『Sanvitalia』。可憐でありながらも、くっきりとした黄色い花びらが輝きを放つ花だ。

 台風25号の接近に伴い、大雨が東京に降り続いた9月21日。東京・国際フォーラム ホールAにて、『『ユイカ』LIVE「Sanvitalia」』が開催された。開演時間になると、チャイムの音が鳴り、ホールは校内の雑踏に包まれる。そこに白いロングスカートに身を包み、ギターを手にした『ユイカ』がステージに歩み出ると、自身のギターと歌声だけで、『ユイカ』の始まりの歌である「好きだから。」を歌い始めた。弾き語りで音楽シーンに登場した『ユイカ』自身を彷彿させるように、広いステージのなかで彼女ひとりだけにピンスポットが当たるなか、まっすぐに歌い進めていく。途中でMVが映し出されると、同時にバンドが加わり、曲が進むにつれて音はダイナミックに。笑顔でデビュー曲を歌い上げた。同じようにバックLEDに映し出されたMVとともに歌い上げた「そばにいて。」を続け、『ユイカ』というアーティストの始まりを思い出させた。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 2曲を大切に届けると、安心したように「こんばんは、『ユイカ』です!」と元気よく挨拶する。この日の公演について「これまでの『ユイカ』と、これからの『ユイカ』がどんな音楽をやっていきたいか、表現したいかをみんなと一緒に分かち合いたい」と説明した。ギターを置いてバンドサウンドに身をゆだね、「ひそかな願い。」、白いロングスカートを翻しながら歌唱した「わがまま。」、MVを映し出しながら「一途な女の子。」「序章。」と次々に歌い継いでいった。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 ここで『ユイカ』がステージから去る。入れ替わるように、動画投稿を始めたばかりの頃の映像とともに「歌は得意じゃない」「音楽の才能がある側の人間じゃない」という『ユイカ』自身のナレーションが静かに流れ出した。「でも、好きだった。そんな私に音楽を諦めて欲しくて音楽を始めた。諦める理由が欲しくて始めた音楽が、気づけば諦められない理由になっていった」――。飾らない言葉で、彼女にとって歌がどれほど切実なものであるかが語られていく。さらに過去のライブや20歳になって顔出しをしたことなど、これまでの道のりを振り返りながら、「今度は私があなたを照らしたい」とファンへの思いを噛みしめるように語る。そして、今回のライブタイトル『Sanvitalia』の花言葉が明かされた。それは「私を見つめて」だった。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 赤と黒の衣装に着替え、それまでのキュートな姿からシックに姿を変えた『ユイカ』がステージに再び登場。きりりと表情を整えると、「運命の人」を力強く歌い上げる。さらにアコースティックギターからエレキギターに持ち替えると、かき鳴らしながら「嘘」「私のまま」を歌い抜ける。それまでステージ後方にかけられていた紗幕が開くと、そこにはグランドピアノが。『ユイカ』は階段を上ってピアノの前に進み、鍵盤に指を沈めながら「桜想」を歌う。〈私はここで息をして、/私はここで歌を書いて、/貴方に届くようにと/この詩を歌っている。〉と切実な思いを紡ぐと、その歌声にストリングスが繊細な旋律で寄り添っていく。最初のブロックではLEDに投影されMVで歌詞が映し出されていたが、ここのブロックに入ってからは、歌詞が映し出されていない。だからこそ、観客は『ユイカ』の渾身の演奏に見入り、感情を湛えた歌声に聞き入っていた。さらに「イマジナリーフレンド」「残酷になりますように」と、ここにいない“貴方”に思いを馳せた楽曲を、ストリングスとともに幻想的に編み上げた。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 バンドとストリングスによるダイナミックなインタールードを挟み、黄色のシャツとチェックのパンツに着替えた『ユイカ』がステージに走ってやってくると、「おくすり」で再び場面展開。先ほどのブロックとは打って変わって、「恋泥棒。」や“SOS”のポーズを作った「さんかくゲーム」などを笑顔全開で届けていった。

 「こんなにMCしないライブびっくりした? 今からしゃべります」と笑ってMCに入るほどには、これまでほとんど言葉を挟まず、ひたすら楽曲だけで語ってきた。それだけ今回のライブではやりたいことが多かったのだという。ファンとのおしゃべりも大切にしている『ユイカ』が、それでもMCを短くして一曲でも多くの歌を鳴らしたいと思っていたのが、今回のライブだった。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 それでも時間を取って伝えたかったこと。それは「“いろんなものを選んでいく”というのが人生だなって、最近思ったんです。自分はこうしたいけど、誰かはこうしてほしいとか、いろんな選択肢があって、そのなかでみんなはいろんな気持ちを持って、その道を選んでるんだと思うんです」「自分の人生は一回しかないから、自分の道をちゃんと選んでほしい。その選んだ道が自分の思ってた道じゃなかったとしても、あとから振り返ったときに、“ちゃんとこの道を選んできてよかったな”って思えたり、選んできた道を愛おしく思えるように生きるのが大事。そんなあなたたちの背中を押すような歌を歌いたいと思います」。噛みしめるようにそう語って、「私が選んだもの」をまっすぐに歌い上げていく。この曲は『Tsukimisou』で『ユイカ』が、自身のことを正直に綴って世に出した楽曲。先ほどのムービーで、「自分の弱い部分も、見せてはいけないと取り繕っていた部分も、貴方になら許してもらえると思った。私はみんなに支えられて初めて、アーティストとして輝けることを知った」と話していた、そのきっかけになった一曲だ。この曲で〈私が選んだもので生きている〉〈私は、うたを歌うこと〉と歌ったあと、〈私は変わるから、/今ここで詩を歌ってる。〉と歌う「紺色に憧れて」、そして10代の〈誰かの何かになれる、/そんなやつになりたい。〉という心境を綴った「ラストティーン」と、『ユイカ』が歌を歌う理由や、ステージに立つ覚悟を込めた楽曲が続けられた。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 そして最後に見せるのは、最新の『ユイカ』だ。8月にリリースしたばかりのEP『翠色に贈る』の収録曲で駆け抜けていく。表題曲「翠色に贈る」ではファンの歌声をもらってようやく楽曲を完成させ、「ぜーんぶまちがえてね!」では撮影可能タイムとし、ファンとの思い出を作った。さらに6月にリリースした「青春は見えない」ではタオルを回すなど、一曲ごとにファンの楽しみ方も変え、ともにライブを作り上げていく。最後は新曲を披露。「これから『ユイカ』がどんな音楽をやっていきたいか、表現したいかをみんなと一緒に分かち合いたい」と話していた通りだ。1年前、自分の弱さを見せてもいいんだと心を広げ「私が選んだもの」を初披露した彼女は、1年後、東京国際フォーラムという場所で「『ユイカ』の恩返し」をしたかったのだという。そして、その時に受け止めてくれた“貴方”へ、〈こんな私を見つけてくれて有難うね〉など感謝の気持ちを込めた「何者でもなかった私だから」を軽やかに紡いだ。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 ホーン隊によるファンファーレで開幕を告げたアンコールは「17さいのうた。」から。タイトル通り17歳の時の『ユイカ』が〈拝啓 未来の私へ。/今そこで/どんな大人になって/生きていますか。〉と綴った楽曲だが、2026年、21歳の『ユイカ』は東京国際フォーラムという憧れのステージでミラーボールがステージとホール全体をキラキラと照らすなか、バンドだけでなくストリングス、ホーン隊とともに壮大な楽曲へと生まれ変わった同曲を歌っている。さらに、ワルツを思わせるゆったりとしたリズムの「生きましょうね」をくるくるとステージ上を舞いながら届け、「すないぱー。」では客席へ。ファンと近い距離で、その愛をまっすぐ伝えていった。

 Wアンコールで再びステージに登場すると、「みんなの愛がとってもうれしいですし、これからも私からも愛をたくさん返したい」と、飾らずに愛を伝える。約3時間にわたるライブの最後に『ユイカ』が選んだのは「好きだから。」。「この曲があったから、みんながいたから、私はここに立てている」と言ってから、『ユイカ』の始まりの曲を、バンド、ストリングス、ホーンがリッチに彩る。目の前にはホールを埋め尽くすファンの姿。歌い出しから胸がいっぱいの様子だった『ユイカ』は、歌い始めると堪えきれずに涙を流した。後半は会場に歌ってもらうも、その歌声の大きさにさらに感涙が溢れ出した。

『ユイカ』(撮影=高田梓)

 〈振り向いてほしくて/意識してほしくて〉と歌う「好きだから。」。片思いの切なくもかわらしい恋心を綴った歌であるが、「私を見つめて」という花言葉を持つ『Sanvitalia』をタイトルに冠したライブで聴くと、また違う意味を帯びて聞こえてくる。諦めるために始めたはずの音楽は、いつしか誰かに届いてほしいという願いに変わり、彼女の歌を受け取った多くのファンと出会った。そんなここまでのストーリーをあたたかく振り返る楽曲にも感じられた。

 『ユイカ』の恩返し――今までの『ユイカ』と、これからの『ユイカ』をテーマに作られた『Sanvitalia』。その言葉通り、今までの『ユイカ』とこれからの『ユイカ』をたっぷり堪能することができた3時間だった。

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