【椎木知仁 特別連載】第3回:危機感が爆発した夜に誕生した「フロムナウオン」という光 才能より大切な“すべて”

 2026年、My Hair is Badがメジャーデビュー10周年を迎えた。リアルサウンドでは、アニバーサリーイヤーを記念した特集企画の一環として、椎木知仁(Gt/Vo)による特別連載を全3回にわたって掲載する。最終回となる第3回のテーマは“ライブ観”について。毎回息をのむような即興パフォーマンスでフロアを圧倒する名曲「フロムナウオン」は、いかにして生まれたのか。周りの才能に打ちのめされた過去、地道なライブで培ったバンドの強靭な筋力、そして“すべての積み重ね”を抱えて濃度の高いステージに挑む、覚悟と美学を綴る。(9月10日寄稿/編集部)

「僕は誰よりもMy Hair is Badに興奮したい」18年ライブを続けた先に思うこと

 すべてのおかげであり、すべてのせいなのだ。

 2013年にインディーズデビューした。当時、地元新潟上越から若手がインディーズデビューするなんて聞いたことがなかった。本当に自分の人生に起こっていることとは思えず、僕は浮かれながら、困惑していた。この先起こりうるすべてのことに胸を躍らせ、同時に本当に僕らがインディーズで活動していけるのかと緊張しているような気持ちだった。

 今考えれば宣伝なのか新人のプロモーションなのかわからないが、インディーズ時代の社長は「椎木は天才」とよくSNSに書き込んでくれた。どう考えてもそんなわけはない能力や状況、楽曲だったが、僕はその言葉を速攻で真に受けて「ふふふふ… 確かに天才なのかもしれない…」と思い込んでいた。

 だが、いざCDを出してツアーをまわり出すと、周りには自分たちよりかっこいいライブをしているバンドや、お客さんを呼べるバンドがたくさんいた。そのバンドたちも地下のライブハウスを生業にした世間では知られていないバンドたちだったが、そんな地下にも才能だらけの猛者たちがうじゃうじゃいた。もしも僕が天才だとしたら、大天才、超大天才、スーパーウルトラ大大大大超天才…そんなやつらが日本中にいるように思えた。そういう人が人の想像を越えてたくさんの人に届く音楽を作って魅せていくんだろうなと思った。だが若かりし僕は何の根拠もなく「俺も、やべーモン作って魅せられっけどね」とかましまくっていた。話の流れとは別だが、その後メジャーに行き、色んなアーティストを観てきたが、周りを見渡せば才能なんてあって当たり前なのだ。生まれ持ったそのなにかの上に、生い立ちやバックボーン、ひたむきな努力や運が入り混じる、凄い世界だ。

 そんな中に飛び込んでいるとはつゆ知らず、当時は大してどころかまったくお客さんも呼べない状態で全国をまわり続けていた。「なんかいける気がする」という謎の気持ちだけはあるのに、変わらない状況に僕は早々に危機感をいだいた。

椎木知仁(撮影=小杉歩/ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026)

 四国でライブをしていた日だった。その危機感が急に爆発した。「あれ…このままこの場所に居続けるのはまずいのでは…」と僕ははっきりと不安になった。「さ、才能、な、い…?」という気持ちが胸の中で弾けた。それと同時に「いや!ゼッテー負けねー!才能って言っても種類あるダロ!オレニモナニカアル!ゼッタイ!」という負けず嫌い汁がドロドロと湧いてきた。音楽で振り向かれない、歌声で振り向かれない、そもそも歌が下手過ぎる。持ってる武器が少な過ぎる。そんな状況を今夜からマッハで打破するなにかが必要だった。もう即興でもいいから印象を残すしかないと思った。当時、僕らがやっていたシーン、轟音が響くライブハウスでは曲中にメロディが聞こえたとしても言葉が届くバンドはほとんどいなかった。だからこそ音楽じゃなくても言葉を渡すところに隙間がある気がした。毎日二日酔いで、ほとんどお客さんのいないライブハウスをまわる生活を変えるために僕は高校生の頃に作った「フロムナウオン」という曲で即興を始めた。

 そうしてひたすらにライブを続けた。年間180本近くやった年もあったが、事務所の先輩は過去に年間200本近くやっていたため、どれだけやっても印象は薄かった。自分たちも特別なことをしている気分にはならなかった。何本やっても緊張するし、喉も身体も痛いし、楽しいのかも正直わからなくなっていたが、とにかくやるべきことなんだと思って続けていた。今考えると筋トレだった。ひたすらに回数を重ねて、気がつくとライブバンドと呼ばれるまでの筋力がついていた。

山本大樹(撮影=小杉歩/ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026)

 登山の番組を観ていた時に、「先をみないでとにかく一歩、また一歩、そうすればじきにたどり着きますよ」という言葉を聞いたことがある。僕らのライブ活動はまさにそれだった。10人いる中の9人に無視されても1人に強く刺す。それしかできなかった。コツコツやるしかなかった。それにはとにかく本数が必要だった。いまとなっては途方のくれるような本数だが、体力のある20代の頃にあの活動をさせてくれたインディーズの社長には感謝しかない。一見要領が悪そうで、険しい道にみえるが、僕らにとっては一番確実で必要な道を歩かせてもらったと思う。

 そんな活動の中で「フロムナウオン」はやがて現場でしかみられないMy Hair is Badのライブの醍醐味というような立ち位置になった。正直言うと、どれだけ集中力を持ってやってもスベるときはどスべる。開き直っているわけではないが、それもそれでいいじゃないかと思っている。すべての歯車が噛み合わないと動かない。そんな賭けみたいな要素がライブの中にあってもいいんじゃないかと思う。僕が当日なにをいうかなんて僕もわからない。毎回ヒリヒリする。追い詰められる。僕はそれに興奮するし、気持ちいい。同じことを言ったとしても、それをその場で僕が選んでいる事実に強さがあるはずだ。遠い昔、何度か一言一句準備していったことがあったが、全く良くなかった。あの曲に関してそのやり方は全く美しくない。それは僕にとってもお客さんにとってもだ。「賭けだなんてプロあるまじき!」と言われても関係ないし、知らない。言わせてもらえば、歌でもラップでもない、楽曲からも歌からも逃げた素人がみつけた光なだけだ。プロだとかなんだとかいうそんな大層なものじゃない。あの曲は現場にしかない瞬間をみつける、スイッチなだけだ。

山田淳(撮影=小杉歩/ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026)

 そして気がつけばMy Hair is Badでライブをやり始めて、18年が経った。印象を残したい時代を越えて「正しい演奏をしたい!」「正しく歌を唄いたい!」とか思っていたここ数年間だった。今は音楽をやっている実感がある。そのおかげでついた力もある。が、その時代ももう終わった。今は盛り上がらなかろうが、引かれようが、キモがられようが、とにかくMy Hair is Badの濃度の濃いステージがやりたい。曲の中の主人公たちが音源よりも生き生きとできる瞬間を作りたい。そんなこのバンドにしかない純度を突き詰めれば、たとえ場所がライブハウスだろうが、ホールだろうが、アリーナだろうが、僕らは魅力的でいられると思う。勿論フェスにも本気で向き合ってるが「フェスのマイヘアはお試し版だったのか」と思われるような主催ライブにしたい。僕は誰よりもMy Hair is Badに興奮したい。

 2008年に初ライブをしたあの日からすべてが繋がっている。結果、きっと僕に音楽の才能はなかった。でも創造が止まらない。表現をしたい。もしかすればなにかしらの才能はあるのかもしれない。でもあっても、なくても、どちらでもいい。正直、勘違いでもなんでもいい。人のおかげ、努力のおかげ、積み重ねた時間のおかげ、向き合った時間のおかげ。全部繋がっていて、無駄も失敗も含めて、すべてのおかげであり、すべてのせいなのだ。

 そしてほんの一瞬でも、勘違いでも、「マイヘアまじ天才!」と思える時間があれば、みんなでステージの上でそれを爆発させられたら、手渡しできたら、叩きつけられたら、誰が天才だろうが、天才じゃなかろうが関係ないだろう。

 SNSや配信が発達してるこの時代にチケットを買って、時間を使って、わざわざ会いに来てくれる、その価値がどれほどのものかわかってるよ。ありがとう。貰ったらお返しをする。それだけだ。

 素晴らしいものより、忘れられないものにしたい。そうしていればきっと素晴らしいものになるだろう。もうブレーキを踏む必要はない。現場でお待ちしてます。

My Hair is Bad 椎木知仁

■リリース情報
My Hair is Bad
7th ALBUM『cats』
2026/9/9(水) 発売
購入:https://lnk.to/mhib_cats_ec

初回限定盤(紙ジャケット仕様):【CD+ Photobook】
品番:UPCH-29514 価格:¥5,500(税込)

通常盤:【CD only】
品番:UPCH-20727 価格:¥3,300(税込)

<CD収録内容>
01. 超やばい猫でごめんね
02. 青いソファの上で
03. パスタに涙
04. summer without flowers
05. ダイヤモンド
06. 飛んでけ!タイムマシン!
07. 蝶々に触れて
08. hell see.
09. 秋めき
10. ここで暮らしてるよ
11. Maybeうちら無敵ぢゃん
12. 愛着
13. 闘いは美しい

■ライブ情報
『My Hair is Bad「ノーブルホームランツアー」』アリーナ編
2027/4/17(土) 国立代々木競技場 第一体育館1日目
2027/4/18(日) 国立代々木競技場 第一体育館2日目
2027/5/1(土) マリンメッセ福岡A館
2027/5/8(土) 名古屋クロコくんホール(日本ガイシホール)1日目
2027/5/9(日) 名古屋クロコくんホール(日本ガイシホール)2日目
2027/5/15(土) 大阪城ホール1日目
2027/5/16(日) 大阪城ホール2日目
2027/5/29(土)横浜アリーナ
2027/5/30(日)横浜アリーナ
2027/7/3(土) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター

そのほかのライブ詳細はこちら:https://www.myhairisbad.com/live

■関連リンク
My Hair is Bad Official HP:https://www.myhairisbad.com/
My Hair is Bad Official X:https://x.com/MyHairisBad
My Hair is Bad Official Instagram:https://www.instagram.com/myhairisbad_official/
My Hair is Bad Official LINE:https://lin.ee/IPJ5Bpg

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