HANROROが向き合う生と愛と世界、類稀なる歌の力に触れて 初の日本単独公演をレポート
HANROROが9月8日、東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで『HANRORO 1st Live in Tokyo』を開催した。韓国のインディーシーンから支持を広げ、日本でもその名前が知られるようになったHANROROにとって、今回が日本初の単独公演。生きること、誰かを愛すること、そして世界と向き合うこと……。自身が曲の中に綴ってきたさまざまな感情を、ファンと言葉を交わしながら少しずつ分かち合っていくようなライブだった。
静かな歌声から始まった「Take-off」。まだ互いの距離を測っているような会場に、HANROROの声がじんわりと広がっていく。続く「Don’t be afraid to fall」、「Goldfish」では、軽快なテンポに乗せ、柔らかな歌声を響かせる。身体を揺らしたくなるようなリズムのなかでも、HANROROの歌声はどこか穏やかだ。序盤の3曲だけでも、繊細な歌声から軽やかな躍動感まで、その多彩な表情が感じられた。
最初のMCでは「こんばんは」と日本語で挨拶。「お会いできて心から嬉しいです」と少し照れくさそうに話し、「初対面はいかがでしたか?」と問いかけると、大きな拍手が返ってきた。日本のファンがMCの合間にもこまめに拍手を送ることが新鮮だったようで、思わず驚いた表情を見せる場面も。ライブでは楽曲の世界に入り込み、時に情熱的なステージングを見せる彼女だが、MCで見せる少し照れた笑顔やファンの反応を新鮮に受け止める様子は、どこか飾らない等身大の若者そのものだ。
「How To Go On」、「MIRROR」、「Even if you leave,」と続くなか、HANROROは自身が歌う理由についても語った。「生と死の境目を感じられる人間のいろんな混ざった感情を、歌詞として書いています」――。HANROROの歌詞には、ひとつの言葉では言い表せない複雑な感情が込められている。生きたい気持ちと諦め、愛情と痛み、希望と不安。そうした相反する感情をそのまま抱えた言葉だからこそ、聴き手の心の深層にも入り込んでくるのだと思う。
代表曲「Let Me Love My Youth」では、スクリーンに歌詞の日本語訳が映し出された。HANROROの歌声に耳を傾けながら、そこに綴られた言葉を追っていくオーディエンス。日本語訳があることで歌詞の意味がより直接的に伝わってくるのはそうなのだが、その言葉に感情を与えているのは、やはりHANROROの歌声だ。繊細な息遣いから、感情の高まりとともに力を増していく歌声まで、その表現の幅にはやはり引き込まれる。筆者自身も、歌詞を目で追いながら聴くことで、この曲が持つ言葉の強さと、それを届ける彼女の歌の力をあらためて実感した。
「0+0」に続いて披露された「I’m happy」は、世界と戦っていた自分が世界と和解していくような曲だという。そして、「Goodbye, My Summer」では、この世界を去った人に向けて、永遠を願うような思いが歌われている。こうして曲が生まれた背景や込めた感情を自分の言葉で伝えてから歌われることで、一つひとつの楽曲がより鮮明に響いてくる。歌だけではなく、その言葉を書くに至った気持ちまでを共有しようとする彼女の姿に、誠実さが滲む。
ライブ後半は、そんな内省的な時間から一転して開放的な空気へ。「You and I」では「オーオーオー!」という声が客席からあがり、「GAME OVER?」ではHANRORO自身も飛び跳ねながらパフォーマンス。クラップも広がり、会場の熱気は一気に高まっていった。「リズムだったり、気分に合わせて楽しんでもらえたらなと思います」と話していた通り、オーディエンスも思い思いに身体を揺らす。言葉をじっくり受け取る時間だけでなく、一緒に声をあげ、身体を動かして楽しめることも、HANROROのライブの魅力だ。
本編最後の「Landing in Love」を前に、HANROROは「今日のなかでいちばん緊張しています」と打ち明けた。2番の歌詞を日本語で歌うためだ。一語ずつ確かめるように歌う姿からは、日本で待っていたファンへ少しでも近づこうとする気持ちが伝わってきたし、客席もまた、その思いを受け止めるように静かに耳を傾けていた。
アンコールで届けられたのは「Restart!」。壊れてしまった世界であっても、直しながら生きていかなければならない。そして、それでも世界を愛していかなければならない。人と人は互いに愛すべき存在なのだ――。そんな思いが込められた曲だ。
この日、HANROROは生と死のあいだにある感情を歌い、世界と和解することを歌い、失った誰かへの思いを歌った。その最後に「Restart!」が置かれていることには、不思議な説得力があった。傷つくことも、失うことも、世界に絶望することもある。それでも、壊れたところを直しながら、もう一度生きていく。HANROROがこの日歌ってきた“生きること”への思いが、「Restart!」のメッセージに重なるようだった。
歌を聴かせるだけでなく、その背景にある思いや言葉まで共有しながら、少しずつ日本のファンとの距離を縮めていったHANRORO。日本初の単独公演は、HANROROと私たちが音楽を通して少しずつ距離を縮めていく時間となった。