『TIF』特別協賛 にしたんクリニック 西村誠司社長が語る、アイドルビジネスと推し活の本質「ベースはやっぱりお客さま」

ビジネスとして捉えるアイドル運営「こんなレッドオーシャンには参入しない」

――アイドルカルチャーをビジネスとして捉えた場合の面白さはいかがですか?

西村:そこに関しては、昔と今とでは違いますよね。昔はそれこそミリオンセールスを達成するとかドームツアーをやろうとか、そういう目標を持っていたと思うんですけど、今はたとえば運営側が建前上「じゃあ日本武道館を目指しましょう」と言ったとしても、僕はそれは本気ではないんじゃないかと、ちょっと思ってしまう節があって。現実的にはZeppぐらいの規模感を押さえておきながら、複数のアイドルを運営して回転させて、旬なときに解散させる。このサイクルが速くなっているんじゃないかなって思うんです。もちろん、メンバー自身は「もっと上へ行こう」と思っているはずですよ。でも、運営は「無理をしなくても回せる」ビジネスモデルを作っているなと感じることはありますね。

――現在のシーンを見ていると、Zeppクラスまでは多くのグループが進むことができるけど、結局それ以上のキャパ――具体的には5000人以上の会場を埋められるだけの人気や力をつけることが、本当に難しいのかなと感じることが多いんです。

西村:ビジネスとして考えれば、無理に武道館クラスを攻めることなく、Zeppクラスかそれより少ないくらいのキャパ感のグループを複数抱えていれば、利益は出るでしょうし、ビジネスとしてはいちばん手堅いんじゃないかな。でも、おっしゃるように5000人の壁を越えるのにひと苦労する。それはもはや、時代背景も大きく影響していると思うんです。これだけSNSで情報が速く回ると、消費も同じだけ速いじゃないですか。その壁を越える前に消費し尽くされてしまうのかな、という気がしちゃいます。

――今はバズることが目的のひとつになってしまっている。もちろん、それを機にブレイクスルーするアイドルも複数存在しますが、だからといって必ずバズるという方程式は存在しない。そのあたりって、経営者目線で見るとどう映りますか?

西村:ビジネスとして捉えたら、僕、こんなレッドオーシャンには参入しないと思います。となると、レッドオーシャンだろうが、儲けとかも関係なく、“好き”だからやるのであれば、自分の理想のアイドルを作って、理想のファンとの関わりを作っていく。それが万が一当たればラッキーかな、ぐらいですかね。

――では、アイドルグループにおけるプロデューサーと会社経営者の共通点や相違点に関してはどうでしょう。

西村:プロデューサーはもちろん、経営の視点も持ち合わせていなきゃいけないと思うんですけど、それよりもヒットを生む才能のほうが8割ぐらい必要になるんじゃないかと僕の感覚としては思っていて。むしろ、収支に関しては周りの経営陣がしっかりコミットしていれば大丈夫じゃないかと。なので僕は、プロデューサーと経営は一緒だとあまり思わないんですよね。経営は理想ばかり追っていても、利益を出さないと潰れちゃいますから。わかりやすく言うと、「どうやって儲けるのか」という視点に徹するのが経営で、プロデューサーは売れる曲、売れるアイドルを作るほうのウェイトがデカい。そういう点でも、大きく違いますよね。

――西村さんはこの十数年のアイドルとの関わりを通じて、ご自身の仕事で活かされたことって何かありますか?

西村:特に女性アイドルはそうだと思うんですけど、いかにメンバーのマイクロマネジメントが重要かということ。僕らのクリニックも女性社員が多いのでわかりますが、そこで働くメンバーがそれぞれ抱える目標だったり、それぞれの意思疎通だったり、あるいは「この人が嫌だからやめさせてほしい」とか、そういうことの連続じゃないですか。そういう大変さを抱えながら、一人ひとりを管理していくところは、ある意味勉強になるなと思いました。

――『TIF』というフェスをここ数年サポートしてきたことで、新たに受けた刺激や影響、学びなどはいかがでしょう。

西村:あれだけの規模感のフェスで、数組が同時進行でライブを行っているという事実自体が、とてつもないエネルギーや労力がかかっているわけですよね。もちろん、僕らみたいなスポンサーは裏方の苦労を知っているので、毎年しっかりとやり続けられていることのすごさ自体がすごく刺激になりますし、純粋にリスペクトしています。もうね、『TIF』はアイドルイベントのなかでも別格だと思いますよ。

AI時代に求められるエンターテインメントの本質的な価値

――ここ数年、“推し活”というもの自体が社会一般に浸透して、広く認知されるようになりました。西村さんはその“推し活”のことを、マーケティング視点でどのように捉えていますか?

西村:SNSが盛んになったデジタルな時代に、ファン仲間やアイドルの子たちにとって「こんな自分でも役に立てるんだ」と人との繋がりを選ぶことで、人間の本質へと回帰して、自分の存在意義を確認できる。そういうアナログチックな場所に戻っているんじゃないかなと、マーケティング的には思います。クリニックで患者さまに良い治療を施すことにおいても、僕らがその患者さまに寄り添っていくことで人間の温かみを感じてもらうということが根っこにはあるわけで。アイドルとファンの皆さんのあいだにある人間らしい温かみも、デジタルが普及した今だからこそ、より人間の本質的な部分として希少価値を生み出している。それが推し活というものに繋がっているのかな、という気がします。なので、AIが進化すればするほど、いろんな仕事がAIに奪われることになるのかもしれないけど、ライブエンターテインメントだとかファンビジネスの重みはより増すんじゃないかなと。こういうアナログ的な触れ合いは、ますます盛り上がっていくんじゃないですかね。

――クリニックのお話が出たので、そこに関連して伺いたいのですが、にしたんクリニックは近年、不妊治療や少子化対策にも注力しています。これらの事業は、ある種の社会インフラとして整備されていくべきものかと思いますが、推し活が生きるための活力として注目されている今、アイドルという存在もひとつの社会インフラと捉えることができるのではないでしょうか。

西村:捉えられると思います。たとえば、誰かのために頑張る……それはファンの方々が自分の推しのグループ、推しのメンバーを支えていくことであり、アイドルがファンのありがたみに感謝するってことですよね。僕らのクリニックに置き換えると、通院してくださる患者さまに僕らが気持ちを寄せていって、支えてあげて、患者さまがそこに温かみを感じてくれることで絆が生まれる。まったく一緒なんじゃないかと思いますよ。

 僕はうちの職員に「全国にクリニックが何百とあるなかで、患者さまはいろいろ調べて悩んで、期待を寄せてうちに足を運んでくれているんだ」と伝えるんですが、アイドルグループだって何百、何千と存在するなかで「このグループだ!」「この子だ!」と推しを決めて、場合によって沖縄まで行ったり、炎天下の現場にも足を運ぶ。結局、本質は一緒なんです。だから、僕は職員に「クリニックはステージ。大事なお金を使って、時間をかけて、あなたたちが演じるのを観に来て、『今日はここに来てよかった』と思ってもらって帰さなくちゃいけないんだ」とよく言うんですよ。

――人と人とが気持ちを通わせて、互いを信頼して心や体を預ける。惰性ではできないことですよね。

西村:そう。絶対に真剣に向き合わなくちゃいけない。それに慣れてしまうと、“作業”になってしまいますからね。僕らからすると1対100かもしれないけど、ファンやお客様からすると1対1なわけです。必ず全力投球でなくてはならないですよね。

――今ではAIアイドルも生まれてきています。でも、人と人が触れ合うからこそ生まれる温かみはAIからは得られない。

西村:僕らは「マーケティングが強い会社だ」って言われているんだけれど、僕は最近クリニックの現場、ライブの現場がより大事だと思っているんです。もちろんマーケティングも大切ですよ。でも、足を運んでもらった患者さまとのインターフェースにもっと力を入れなきゃと思っていて。それを運営やマネージャーが、日々アイドルの子たちに意識させていくことが、今後より大事になってくると思いますよ。

――そこを踏まえて、西村さんは今後のアイドルカルチャーにどんなことを期待しますか?

西村:社会全体でも効率化が進んでいるじゃないですか。そんな社会で人間が生きていくなかで、エンターテインメントが果たす役割はよりウェイトが大きくなっていくと思うんです。それに合わせて、より一層研鑽しながら世の中の人たちをハッピーにしていく。エンタメってないならないでいいものなんだけど、間違いなく人生を豊かにしますからね。それが、僕がエンタメのすごく好きなところなんですよ。自分の生活を振り返ってみても、旅行に行くのも楽しい、おいしいごはんも楽しい、でもいちばん楽しいと思えるのってやっぱりコンサートや演劇やアイドル、つまりエンタメなんですよ。きっと僕と同じように感じている人は、世のなかにたくさんいるはずなんです。このウェイトは時代が進めば進むほど、ますます大きくなっていくと思うので、それに合わせてアイドル文化もさらに盛り上がっていってくれるといいなと期待しています。

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