SHE'S、15年の旅路 あらためて向き合う自意識、アルバム『Who am I?』に刻む“4人のバンド”である意味
ロックは攻撃に使うもんじゃないですよ。守るために使うエネルギーな気がする
――先行配信曲のバラエティという意味では、「葡萄」はまた新しい挑戦ですよね。
井上:意外とやってこなかった――やってこなかったわけでもないけど、なんか大人な雰囲気がしますよね。
――分析すると、ネオソウルやジャズにも聴こえるんですが。
井上:そうですね。そのへんのエッセンスは、あとから継ぎ足していきました。3年前ぐらいに、サビだけを作って置いていた曲が原型になっていて。当時はサビ以外のイメージがわかなかったんですけど、今回もう一回ちゃんと作ってみたいなと思って、イントロから作り出しましたね。
――じゃあ、サビには特定のジャンル感はなかったんですね。
井上:自分の持っている引き出しのなかから味付けをしてみた、みたいな。持っていた調味料を足していったような感じで作っていきました。サビの半分は結構静かめで、後半からソウルっぽいコーラス、クワイアの感じも入れたりしてみたんですけど、最初はそこまで考えられていなくて。単純にコード進行とメロディと歌詞だけがあるような状態だったんですけど、イントロを作ってから「ちょっとレイドバックの感じにしようかな」と思って、どんどん要素を確定させていきました。
――始まり方がパーソナルですよね。
井上:そうなんですよ。コンビニ帰りの音をiPhoneで録ってそれを使ったんですけど、イメージとしては、ふたりで住んでる家に帰ってきた片方と、仕事から帰ってきた片方がいて。部屋のなかで始まって部屋のなかで完結するストーリーでもあるので、スケール感もトラックで出すぎないように意識しました。
――バンドや人生もそうだと思うんですが、ひとりでも生きられる強さはあるけど、人と何かを作るとか生きていくことを選ぶ、その楽しさやよさが出た曲が多いなと思って。
井上:そういう価値観があるのかもしれない。「そもそも人は孤独である」みたいな認識が常にあるし、そのうえで人がいるから生きていられるし、孤独をうまく扱えるように大人になっていくし。音楽だって、ひとりでも全然できるけど、4人でやるのが面白いからここまで続けてるし。1でもできるから1以外を取る、みたいな認識は、たぶんきっとこれからもあるものな気がしますね。
――それが井上さんにとっては、もうずっとあるものなんですね。
井上:ずっとあると思う。「孤独が人間の本質である」というような認識をした時から、その意識はずっとあります。
――自分だけじゃなくて、まわりもひとりで存在していられるぐらい強くなっていくと、むしろともに作ることが楽しくなっていくんじゃないですか。
井上:そうですね、集まるのも楽しくなるし。ひとりでできちゃうからこそ、誰かと何かをやった時のパワーの増幅みたいなのがきっと楽しく感じられる気はします、何においても。
――そして「Dead」なんですが、これはSHE'Sでは「Masquerade」ぐらいからやってきている表現の更新なのかな、と。
井上:やりたくなっちゃうんですよね、こういう感じを定期的に。定期的に書きたくなっちゃう。気分がやさぐれてる時に書いた曲(笑)。
――人に対してシニカルになってるというよりも、自分自身が無感動になってる状態?
井上:そうですね、まさに(笑)。今後も人に対してシニカルになってる曲は、書かないでしょうね。「人に対して厳しくなってる曲を聴いてて面白いのかな?」と思っちゃうタチ(性質)ではあるかも。
――人によってはそれをストレス発散とか攻撃に使う人もいるんでしょうけど。
井上:いや、ロックは攻撃に使うもんじゃないですよ。ロック精神って、守るために使うエネルギーな気がする。まあ、これは僕のただの哲学というか、考え方なので。
――人を攻撃するのは、井上さんの哲学ではロックではない?
井上:そうですね。自分を叩いて自分を壊したら、もう一回作り上げられていくじゃないですか。修復されていく時もあるし、新しいものが生まれていくこともある。そっちのほうが自分のタチに合ってる気がします。
――曲調で言うとダークポップ的なものではあるけど、メロディがキャッチーですよね。
井上:ありがとうございます。結局ポップを求めてしまうし、「ポップにしないと」っていう意識が働いちゃう(笑)。この曲、めっちゃ時間かかったんですよ。自分の血肉じゃないから。自分がいちばん書きやすいのって、やっぱりクラシックとかフォーク寄りのものが馴染みがあるので書きやすいんですけど、こういう曲ってマジで慣れてないから。頭のなかでイメージはあるけど、(それを再現するのが)難しかったですね。
――最初の話に戻ると、SHE'Sとして初めて作った曲が再録されたことも大きくて。
井上:青いでしょう、これ。
――いや、こんな難しいことを書いてたんだなと思って。
井上:そういうお年頃だったんです(笑)。ちょっと難しい感じになりたがるお年頃じゃないですか、18歳って。
――難しい言葉を探したり?
井上:そうそうそう。恥ずかしかったです、久しぶりに歌詞を見た時。「何を言ってるんだこの子は?」って思いました(笑)。
――「光灯の右手」っていうタイトル自体、ちょっと謎ですもん(笑)。
井上:はははは! 謎ですよね(笑)。たぶん造語ですもんね、“光灯”って。『ICO -霧の城-』(講談社)っていう宮部みゆきさんの小説があるんですけど、そのもとになったゲームもあって。それをプレイした時に小説も読んで、その作品にいたく感動した竜馬少年、高校3年生が書いた曲なんですよ。だから、自分の人生の感覚みたいなものをなるべく反映しようとはしていたけど、基本的にはその作品の歌のような曲になっていて。ゲームも小説も、主人公とひとりの少女が常に手をつなぎながら冒険をしていくという内容だったから、“手”なんですよね。僕の初期の制作って、本を読んだり、映画を観たり、ゲームをしたりして、「この主題歌を自分バージョンで作りたい!」というのが原動力で。そういう作り方をした曲がめっちゃ多いんですよ。
――この情報がない状態で、でもSHE'Sの音楽を知ってる人だったら、「すごくSHE'Sらしい曲だな」って思いそう。
井上:僕らにとってはど真ん中だし、SHE'Sのスタートだし、長らくインディーズ時代もずっとそのスタイルで作っていたから「SHE'Sっぽいな」と思うんですけど、いろんな曲を出してきたから、お客さんのなかでの“SHE'Sらしさ”みたいなものが結構バラバラで。だから、聴かれるまで「SHE'Sらしいのか?」っていう不安はちょっとあるんですよね。