SHE'S、15年の旅路 あらためて向き合う自意識、アルバム『Who am I?』に刻む“4人のバンド”である意味

 2026年、結成15周年、メジャーデビュー10周年というダブルアニバーサリーを迎えたSHE'S。記念すべき年にリリースする8枚目のアルバムに『Who am I?』とタイトルしたことも納得だが、むしろその音楽的なレイヤーがこのバンドの特徴を物語っている。しかもピアノロック、フォーキーなバラード、R&Bなど洋楽との接近、ストリングスを必然性を持って昇華するスタンスなど、狭義の邦楽ロックの枠を飛び越えてきた彼らのアーカイブを最新曲で更新する完成度なのだ。

 その心臓部であるバンドのソングライター・井上竜馬(Vo/Key)に、今作に向かう際の心持ちや、言葉を紡ぐ表現者としての新しい自覚などについて話を聞いた。(石角友香)

第三者から自分自身へ……“焦点”の変化

SHE'S - 8th Album『Who am I?』【全曲トレーラー映像】

――今回結成15周年、メジャーデビュー10周年という、この上なくアニバーサリーなタイミングでもあり、そのことはどれぐらいアルバムに反映してるんでしょうか。

井上竜馬(以下、井上):アルバムはかなり意識しましたね。インディーズでいちばん最初に出したミニアルバム『WHO IS SHE?』から始まったんですけど、ゆえに今回『Who am I?』っていうタイトルにしようと思ったのも周年だからっていうのも大きかったし……「大きかった」というか、ほとんどそれかな。当時は“SHE”っていう第三者に視点を置いてたけど、15年経ったタイミングで自分(=“I”)にちゃんと焦点を当てて、今までのSHE'Sの音楽的変遷もきちんと見せられるアルバムにしたいし、自分たちがどういうバンドなのかをあらためて提示するアルバムにしないとな、と思って作り始めましたね。それの影響もあって、「光灯の右手」という、僕が18歳の時にSHE'Sで最初に書いた曲も再録したいなと思っていたんですけど、「今やっちゃおう!」と思って入れましたね。

――SHE'Sというバンド名からそうですが、「誰かの人生」というところから『Who am I?』まできた感慨みたいなものはありますか?

井上:そう言われると、すごく実感が湧いてきますね(笑)。歌詞の書き方も自分のメンタルとかマインド的にも外を向かなかった期間のほうが長かったし、内省的な歌ばっかりだったんですけど、デビューのタイミングあたりでどんどん外に自分の意識が向くようになって。そういう書き方をするようになったし、人間的にも変わったし。だから、今回『Who am I?』っていうタイトルもつけようと思ったんだと思います。

――特に最近バンドのことを歌ってるというか。前作『Memories』もそうだったし、このアルバムの11曲もSHE'Sらしい特徴的な曲が入ってて、しかもその最新形っていう印象がすごい強いアルバムでした。

井上:ありがとうございます。『Memories』あたりから“4人”みたいなのをすごく意識するようになって、制作も意図的にやったりして。というのも、それまでは“井上竜馬が書きたい曲”というか、その構造自体は変わってはないんですけど、なんかニュアンスが違うんですよね。ただ単に好きな曲を書いて4人でアレンジしていたところから、SHE'SがちゃんとSHE'Sになっている。わかりやすく言うと、ほかの3人が3人らしくいられるような曲をちゃんと書けるバンドにしたいなと思うようになって。完全にひとりで好きな曲をやるだけなら、別にアレンジを任せずにソロでやったっていいじゃないですか。そういう曲は、SHE'Sには持っていかなくなりましたね。で、「周年のアルバムを作るぞ」というのも込み込みで、がっつりバンドのことを歌い出すようになったのが、アルバムにも入ってる「Four」っていう曲なんですよ。そのタイミングぐらいから「4人でやってこれたんやな」って、精神的にもちょっと丸くなっていって。今まで思ってたけど、口にしなかったであろうメンバーへの言葉をちゃんと伝えようと曲にすることが増えたり。この作品は、特に4人を意識したアルバムでしたね。

――このバンドが初めてのバンドで、メンバー交代もせずに15年やってきたわけで。

井上:ですね。中学時代からの友達だったりするからこそ続いてるのももちろんあると思うし。でも、それ以上に音楽でつなぎとめているというか、留まってる感覚もあると思うので、3人の気持ちが常にいいものであってほしいなって思いながら制作してましたね。「う~ん……」って思いながら制作に参加してほしくないんで、曲も、ライブも。そのへんは、ここ数年ですごく考えるようになりましたね。

――ただ、制作段階で4人が音楽的にどういう話をしてるのかっていうのが、ほとんど見えないバンドではあって(笑)。

井上:ははははは! たしかに(笑)。4人で話し合うことも、少ないっちゃ少ないですね。僕がデモの8割方を完成させて、スタッフチームのLINEグループにボンって投げてから、SHE'Sの4人でのLINEのやりとりが始まるんです。なんて言うんですかね、上司に資料を提出する4人みたいな構図(笑)。全員で「このドラムはこうがいい」みたいな話をするわけではなく、3人のなかには「竜馬のイメージにぴったりなやつを作りたい」というような意識が僕に対してあるから、「これこうしたいんやけど、どう?」とか「これどうしたらいい?」っていう矢印の向け方でやってますね。4人でがっちり話し合いをするっていう感じではないかもしれない。

――今回のアルバムには、ここ3、4作のアルバムで新しくやってきたことが更新された曲がいっぱい入ってるように思いました。それはアルバム先行配信の「葡萄」「Dead」「詩歌」に特徴的で。

井上:そうですね。

――この3曲を先行配信したのには理由がありそうな気がするんですが。

井上:最後に配信した「詩歌」に関しては、「Toy Box」とずっと悩んでて。最初はなんなら「Toy Box」で行こうという話でまとまってたんです。でも、僕が「詩歌」をすごく気に入ってて、「ひとり旅に行くから、自分で撮ってきた写真を編集でちょっとフィルムっぽくしたりして、それでMVを作ってもいいですか?」というような話を事前に話したりして。そこから先行配信を「詩歌」にするかどうか迷って、最終的に「詩歌」になったんですよね。

――SHE'Sのアルバム最後の曲って、アルバムを象徴する感じの曲が最近特に多いから納得ですね。

井上:ほんまにそうなんですよ。「癖なんやろうな」って、自分で思うんですよね。僕らの世代って、ちゃんとCDが一枚の作品だったギリギリの時代な気がしてて。サブスクの時代になったのは僕らが20代の時ですけど、やっぱりアルバムはイチから最後まで全部聴いてちゃんと作品になるイメージが強いんですよ。詰め合わせでアルバムができましたじゃなくて、そこに物語がある、みたいな。だから、それを求めちゃうんですかね、自分にも。きちんとひとまとめにするような曲を(アルバムの)最後に置きたいという欲求があって。だから「詩歌」も例に漏れず、そういう曲になりましたね。

――“詩歌”って、短歌とか俳句とかの短い文章で言葉そのものが持ってるリズムを大事にする、という意味もあるじゃないですか。井上さんのなかでは、この言葉にどういうイメージがあったんですか?

井上:歌詞の“詞”じゃなくてポエムのほうの“詩”を感じるような歌詞にしたい、情景が見えたりとか情緒的だったりとか、そういう歌を日本語の美しい響きを使って作りたいなと思って。歌詞のほうの“詞”だったら自由度が高いイメージがあるんですけど、ポエムの“詩”はきちんと整っている印象があって。そういう“詩”をきちんと書ける作家になりたいなと思ったのが、「花雨」の制作時期からだったんですね。だから、「花雨」「葡萄」あたりは、日本語が生み出す美しい情景が思い浮かぶ曲にしたいなと思って書きました。中国の「国破れて山河在り」から始まる漢詩があるじゃないですか(杜甫『春望』)。ああいうのが結構好きで、よく調べて読んだりするし、昔の詩集とかも買ってみたりするんですけど、そこからのスタートでしたね。「『詩歌』という曲を作ろう」って。

SHE’S – 詩歌【MV】

――歌詞の内容からは諸行無常を感じるというか。

井上:ですね。

――それを肯定してるニュアンスがあって、これまでも感じられることでしたけど、さらに言葉になってる曲かな、と。

井上:「寂しさもあるけど、それこそが“生きていく”ということなんだ」みたいな気持ちをちゃんと書きたかったんだと思います。そういう自分を支えてくれたり、肯定したり、新たな知識を与えてくれたりする――自分の孤独を紛らわしてくれるのが“詩”そのものであり、歌そのものだという考えもあったので、そういうすべてを伝えられる歌にしたいなと思ったんです。若干難しいし、堅苦しい歌詞だから「大丈夫かな?」と思いながら。

井上竜馬(Vo/Key)

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