『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』mmk×⌘ハイノミ 特別対談 “ワタワタ感”を音で描いた「アイズ」制作秘話

 “漫画を音楽化するプロジェクト”として、これまでさまざまなサンデー作品を楽曲化してきた『日曜日のメゾンデ』。そんな『日曜日のメゾンデ』シリーズ最新曲が、5月27日に配信リリースされた「アイズ」である。

 楽曲の元作品は、今年『アニメ化してほしいマンガランキング2026』にて第1位を獲得した話題作『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』。楽曲を担当したのはボカロPとしての活躍のみならず、今やMAISONdesほかさまざまなコンテンツやアーティストへの楽曲提供者としても知られるコンポーザー・⌘ハイノミだ。

 今回、リアルサウンドでは『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』の原作者であるmmkと⌘ハイノミによるクリエイター対談を実施。楽曲のキーとなった、原作の大きな魅力である主人公の男子高校生・池沢くんの“かわいさ”や、漫画と音楽それぞれに対する両名の創作スタンスなどについて語ってもらった。終始和やかな二人のやりとりからは、非常に興味深いエピソードも多数伺うことができた。ぜひ漫画と音楽の双方を手元に置きつつ、改めて作品群をより一層深く楽しむための一助として役立ててほしい。(曽我美なつめ)

音に落とし込んだラブコメのコミカルさ

――⌘ハイノミさんは、もともとmmkさんご本人や作品についてはご存知でしたか?

⌘ハイノミ:僕は普段、どちらかと言えばアニメ派で。漫画をほぼ読まないので、mmkさんや『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』のことは今回初めて知った形でした。でも、作品を読んでみたらめちゃくちゃ面白くて。なんというか、男の子の方がむしろヒロインになっている感じがすごく斬新で。とても楽しく拝読させていただきました。

――第一印象は陽キャかと思いきや、一転してすぐドギマギしてしまう池沢くんのキャラクターはとてもユニークですよね。一方で、mmkさんはいかがでしょう。⌘ハイノミさんへの印象についてお聞かせください。

mmk:私は⌘ハイノミさんご自身の前に、楽曲を先に知っていまして。後から「あ、この曲⌘ハイノミさんが作ってはったんや」って気づくことが結構多かったですね。「君なんていなくたって問題はない」とか「にぎにぎにじたうん!」とか。ものすごく幅広い楽曲を手がけてらっしゃいますよね。

――重ねて、今回お二人が携わった『日曜日のメゾンデ』というプロジェクトへの印象についてもお伺いしたいです。

⌘ハイノミ:僕は以前、「もういいもん」(feat. 缶缶, ⌘ハイノミ)という曲で一度MAISONdesさんに“入居”していたので、その後の動向も時々追っていました。今回またこうしてお声がけいただけて非常にありがたいです。『日曜日のメゾンデ』も音楽と漫画の融合であったり、MAISONdesのように複数のクリエイターさんが関わる点も含めて、「今っぽいプロジェクトだな」という印象がすごくありました。

 漫画を元に曲を作る形式も、以前他社さんの企画(集英社『幼稚園WARS』オムニバスアルバム)に携わったことがあったので、ノウハウ的にもその時のものを活用できるな、と。ただ、ラブコメという漫画ジャンルでの制作経験はなかったので。どんな感じになるかなと思いつつ原作を読んだらめちゃくちゃハマっちゃって(笑)。結果とても楽しく曲を作ることができました。

⌘ハイノミ

mmk:私は当初、ちょっと勉強不足で『日曜日のメゾンデ』さんのことを全然存じておらず……。概要を聞いた時も、あまり想像がつかなかったんですよ。担当さんから「『となう目』(『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』略称)の曲を作ってもらうことになりました」って連絡をもらった時も「え、どういうこと?」って。『日曜日のメゾンデ』さんのことも、最初は勝手にバンドの方だと勘違いしていたんですよね。なので、そういう名前のバンドさんに曲を作ってもらえるのか~と思っていたら、「楽曲を作る人は誰を希望されますか?」って聞かれて。「え? 『日曜日のメゾンデ』さんが曲を作るんじゃないの?」って、会議でますますパニックになっちゃった記憶があります(笑)。

mmk

――ゼロベースからのお話だと、確かに少しややこしい部分もありますよね(笑)。改めて全容を知った時はどう思われましたか?

mmk:自分が今まで一人で描いていた作品に、すごくたくさんの方が携わってくださるんだな、と。とてもありがたい気持ちと、「本当にいいんですか?」みたいな、嬉しい気持ちと恐縮な気持ちが両方ありましたね。

――そこから実際に楽曲を作ろうとなった時、mmkさんから「こんな曲にしたい」というオーダーは出されたんでしょうか。

mmk:会議に行くまで、楽曲を作るというお話を聞くと思ってなかったので、まったく何も考えていなくて。ただ、「明るい曲だったらいいな」とは思ってました。それを前提に何人かのクリエイターさんをご提案いただいて、実際に皆さんの曲も聴かせていただいた結果、⌘ハイノミさんにお願いしよう、となったんです。

――その際、⌘ハイノミさんへは具体的にどのようなイメージをお伝えしたんでしょうか。

mmk:まずは「池沢くん視点の曲がいいです」と。で、ラブコメなのでコミカルな感じというか、池沢くんがワタワタとテンパってる様子を表現していただけたら『となう目』っぽい曲になるんじゃないかな、というお話をしましたね。

――作品の醍醐味としては、やはり池沢くんが江口さんに振り回されている雰囲気だと。それを受けて、⌘ハイノミさんはどんな部分を入口に制作を始められましたか?

⌘ハイノミ:基本的に僕は曲を作る時、歌詞から書くんです。なので、一度漫画を読んで、まずは歌詞に池沢くんの“ワタワタ感”が出る音をつけたいな、と思ったので、賑やかな言葉を足していって。サウンド面に関しては、確かエレクトロスウィング感のある雰囲気という提案もいただいていたので、そちらも踏襲しつつ作っていきましたね。

――“ワタワタ感”というのは具体的に、歌詞だとサビにある〈タ タ タ タララ タ タタ〉などですか?

⌘ハイノミ:その辺りもありつつ、サウンドでは細かい効果音とか、楽器だとマリンバを使ったりとか。そういったポロポロとした音でワタワタ感を出せないかな、といろいろやらせていただきました。やっぱり「池沢くんのかわいさを世界に出せるか」が一番注力したところですね。ここが一番大事な作品かなと思ったので。音楽でいかにかわいさを表現できるかを追求するために、今まであまり自分がやったことないアプローチも意識して交えていった感覚はありました。

(C) mmk/小学館
(C) mmk/小学館

――個人的に、もともと⌘ハイノミさんの楽曲のイメージとしてはボカロを中心にどちらかというとダークな印象が強くて。なのでその点でも、今回のような“かわいい”作風はやや意外にも感じます。

⌘ハイノミ:かわいい曲も作ってはいるんですけど、確かに母数はそんなに多くないですね。なので普段はあまり使わない楽器であるマリンバとかを使ってみたり、あとはリズムの刻み方や歌詞の内容とかでかわいさを意識したり。いつもは結構曲に音を詰めがちなんですけど、普段の自分の曲と比べて少し余白を増やしてみたり、そういう点も意識して制作しました。

――ギュッとしすぎないようにというか、余白で軽やかさを作る感覚ですね。いつもと違う制作意識もあったということで、苦労した側面や大変だった部分もあったのではないでしょうか。

⌘ハイノミ:大変だった部分……僕、結構一度スイッチが入ると一気にバーッてできちゃうので、この曲に関してはずっと楽しく作れた気がしますね。そんなに詰まるところもなく。

――時間もそこまでかからず、でしょうか。

⌘ハイノミ:漫画を読み始めて構想を練る、みたいなところが一番時間かかっていて、そこに1週間ぐらいかけたのかな。その後、実際に作業したのは1日、2日って感じです。基本的にだいたいいつも1曲の作業時間はそれぐらいですね。最初の1週間でどういう音を並べるか、どんな歌詞にするか、構成はどうするかとかを頭の中である程度作っちゃうんです。それをアウトプットして打ち込むだけ、みたいな感じで制作しています。

――⌘ハイノミさんは比較的筆の早いイメージもあったので、その理由の一端が垣間見えた気もしました。mmkさんからも驚きの声が漏れていますね(笑)。

mmk:私も同じことを思ってました(笑)。⌘ハイノミさん、楽曲制作を始めてからの5年間ですごい曲数を作ってらっしゃるな、と感じていたので。

遊び心ある効果音や間奏、特別な仮歌の制作秘話まで

アイズ(from「となりの席のヤツがそういう目で見てくる」)/ 日曜日のメゾンデ

――ちなみに、制作中の裏話やエピソードなどがもしあればこの機会にお伺いしたいです。

⌘ハイノミ:そうですね……この曲、最初は間奏がなかったんですよ。2番のAメロ終わりでホーンソロ的なものが入るんですけど、最初はこれがないバージョンで作っていたんです。それを一度mmkさんに聴いていただいた際、「もう少しエレクトロスウィングっぽい箇所があってもいいかも」とのことだったので、あの間奏を追加したというエピソードがありました。

――そんなリテイクも経つつ完成した曲を聴いて、mmkさんはいかがでしたか?

mmk:自分がこんな感じにしてほしい、っていう曲が本当にそのまま届いたので「すごい……!」と感動しました。

⌘ハイノミ:ああ、良かったです!

mmk:逃げる時の「ピュルピュルピュル~ン」みたいな効果音とか、MVにも描かれていたおもちゃのヒヨコみたいな「プピッ」って音とか、そういう遊び心を感じさせる音が要所要所に入ってて。作品のドタバタ感や、池沢くんがワタワタしてる感じをこんな風に音で表現できるんや、ってすごく感激しましたね。

――⌘ハイノミさんが狙っていた“かわいさ”がしっかりmmkさんにも伝わっていますね。

⌘ハイノミ:ありがたいです。MVもどんなものになるか楽しみにしてたんですが、ふるいけさんがたくさんカラー絵を描いてくださってて「めちゃくちゃ豪華だな」と思って。

mmk:私も思いました。「こんなに絵描いてもらえるんだ!」って。Aメロで使ったイラストをまたBメロで使う、みたいな形式なのかなと思ってたら、想像していた以上に漫画のいろんなシーンを切り取ってくださっていて。読者さんも「これあのシーンだな」って楽しみながら見られるMVになってました。私もいろんな方のコメントを見て気づいたんですが、イントロの背景色もきっと単行本のカバーカラーに合わせてくださっているんですよね。演出もめっちゃ細かくて「すごい……」ってなりました。

⌘ハイノミ:mmkさんも、Xで描き下ろしの絵を投稿してくださってましたよね。あれ、めちゃくちゃ嬉しかったです。

――〈最低〉のイラストですね(※1、2)。

mmk:いやあ、本当に最高の〈最低〉でした(笑)。漫画のセリフを歌詞に使っていただけると思ってなかったので、めちゃめちゃ嬉しくて。Bメロもですけど、礼衣さんがちょっとセリフっぽい歌い方をしてくださってるのもすごく良いですよね。

――ちなみに⌘ハイノミさん、仮歌はVOCALOIDで入れたんですか? ボカロだと、ああいったセリフのような調声はかなり難しいのではないかと思いまして。

⌘ハイノミ:そうですね。ボカロだとセリフっぽくできなかったので、僕が歌ったものをツールで女性の声に変換した気がします。自分で言うの、めっちゃ恥ずかしかったですよ(笑)。

mmk:原作者特権で仮歌も聴かせていただいたんですが、こっちはちょっとぶっきらぼうなバージョンで、それもちょっと特別感がありましたね(笑)。どちらの〈最低〉も私はすごく好きなんですけど。

――⌘ハイノミさんの歌唱バージョンはかなりレアな音源ですね。

⌘ハイノミ:あれはもう絶対世には出ないので(笑)。

――歌唱面に関しては、⌘ハイノミさんからボーカル担当の礼衣さんへ何かオーダーを出されたりはしましたか?

⌘ハイノミ:僕はレコーディングの時もディレクションで立ち会ったんですが、全体感としては「とにかくかわいくお願いします」とかなり言った覚えがありますね。他にもその場で細かい部分をいろいろお伝えしつつ録ったんですけど、やっぱり〈最低〉の部分が本当に良すぎて(笑)。本当は声も3本ぐらい重ねる予定でしたが、あまりにもバッチリだったので「いや、これ1本で充分だな」と思ってあの形になりました。元の素材が良いので、余計な事をしなくてもいいなって。

――そんな形でリリースされた「アイズ」ですが、すでにお二人ともSNSなどで楽曲へのコメントなども見られているかと思います。率直に皆さんの反応を見られて、いかがですか?

⌘ハイノミ:僕が思い描いていたような反応や、好評の声も多くてすごく嬉しいですね。MVで動きのある絵がたくさんあることで、より具体的に漫画のシーンも想像しやすくなったからかな、と。

mmk:「曲を聴いてから漫画を読みました」ってコメントもあって、読者層が広がったことへのありがたさをすごく感じましたね。あと、これはただの私の願望なんですが……『となう目』を読んでいる人たちの間で「真の『となう目』ファンは『アイズ』を歌えるぞ!」みたいな、ファンの結束力を強める一因をこの曲が担ってくれたら素敵だなって思いました。「漫画を読みながら聴いてます」って声もよく届くので。「アイズ」が『となう目』への入口になると同時に、今すでに作品を愛してくれているコアな読者さんたちが楽しむものとしても存在してくれたらすごく嬉しいですね。

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