香取慎吾、草間彌生と共通する“描く=生きる”という意識 ふたりの交流から見えた「描き続けてみます」という言葉の重み
香取慎吾が、8月14日に旅立った芸術家・草間彌生への追悼コメントを発表した。「草間さんのアトリエで対談をさせていただいた時、草間さんはお話をしながらも、ずっと絵を描き続けていらっしゃいました」(※1)という言葉から始まるコメントを読みながら、ふたりの対談記事を振り返らずにはいられなくなった。
『SPUR』2013年7月号(集英社)。今から13年前に実現した対談ページは、「LOVE&ART 草間彌生と香取慎吾が語る。愛は永遠に!」と題され、カラフルな草間の作品のなかに、ふたりが入り込んでいるような見開き1枚の写真から始まっていた。
当時、赤いボブヘアに赤地に白い水玉模様のスカーフと洋服を身に着けた草間に合わせて、赤いスカーフにコートやトップスの私服でスタイリングしてきたという香取。そんな粋なはからいを見せる香取を、草間は迷うことなく太陽のように描き、香取が「僕が作品に入っちゃった!」と言葉を弾ませるやりとりも見受けられた。
そして、「相思相愛のふたり」と掲げられた対談インタビューからは、お互いの“絵を描くこと”へのエネルギーが溢れんばかりに伝わってくる。「もっともっと書きたいの」「寝る時間も惜しいぐらい」と草間が語れば、「僕もです! もっと絵を描きたい!」と答える香取。歌い、踊り、演じ、笑いを取る。エンターテイナーとして幅広い活躍をしている香取が「絵を描くのが一番好きなんです」とまっすぐに答えていることが印象的だった。
どれだけ描いても描き足りない――。ふたりにとって“描く”という行為は、“生きる”ことと直結しているようにも思えた。それは、その対談ページとは別に、ふたりが時々他の人の目に見えない存在を描いているという共通点にも感じられたものだ。
草間は幼いころから、見るものすべてが水玉に覆われてしまうという幻覚や、犬や花が話しかけてくる幻聴に悩まされてきたという。その恐怖心を和らげるために取り組んだのが絵を描くということだった。一方で、香取もスーパーアイドルとしてスターダムを駆け上がっていくなかで、あるときから香取の前に姿を現すようになったという黒いうさぎ(くろうさぎ)を描いてきた。ほかにも、香取の作品には決して表に出すことのできなかった、強いスポットライトによって生まれる影の部分を描いているのではないかと感じさせる作品がいくつもあるのだ。
今でこそ、草間の水玉模様、そして香取のくろうさぎは、それぞれのアイコンとして多くのファンに愛される存在になった。自分自身のなかに渦巻く言葉にはならないものを絵にして、やがて多くの人から求められるものにまで昇華する。それができるのが“描く”ということなのだろう。時として、描いた本人さえも予期せぬ作品として生まれる。その衝動性も、ふたりに共通して感じるものがあった。
2016年、『T JAPAN』(集英社)に取材された草間は「何を描くかは、私の手に聞いて」(※1)と話していたという。同じく、香取の制作シーンも、たとえるならば、“降りてくる”ままに描くスタイルだ。絵の具をパレットに出す時間ももったいないと、チューブから直接キャンバスに描くスタイルが確立したのもそう。段ボールに描いた作品が多いのも、そこにあったもので描かずにはいられなかったから。「これを描こう」という着地点を意識するより先に、手が動く。草間の言葉を、そのまま香取が言っていたとしても、何の違和感もないくらいだ。
また、草間にはほかにも彫刻や詩などの表現方法があった。香取も音楽制作やライブ演出なども手掛けてきた。そうした多角的な視点を用いて、作品を新たな試みを交えて発信していくことを楽しんできたのも共通しているところ。加えて、そこには個人的な葛藤や恐怖の克服だけでなく、世界に向けた“愛”があることも同じだ。
香取が初めて個展を開催したのは、2018年。草間との対談から実に5年後だった。いきなりパリのルーヴル美術館地下のカルーゼル・デュ・ルーヴルという大舞台には、「さすがスーパースター」と驚かされたものだ。さらに、日本での初個展は360°回転する劇場に、100点以上のペイント作品と、香取の心拍音などが体感できるインスタレーション作品群を展示したのも、ショーの世界を生きてきた香取ならではと唸らされた。
当時のインタビューでは、香取が草間から「限られた人生の中で描き続けることの大切さを教わった気がします」(※2)と話していた。「今でも絵を描いていますか?」と対談時に草間が香取に問うたのも、立ち止まらずに描き続けることができる人、そうせずにはいられない人だと感じてのことだったのかもしれない。
描き続けた先に、人生という名の作品ができあがる。歩み続けることで完成する生き様がある。人はみんな、いつか“その日”を迎える。だからこそ、その日に向けて今描けるものを描いていくべきであり、それが、いつか誰かに受け継がれていくものになるのだ。
今回、香取が追悼コメントを結んだ「僕も、描き続けてみます。草間さん、本当にありがとうございました」という言葉に、草間から託された多くのものを受け取った“絵を描く人”としての覚悟を感じた。そんな香取が生み出す、新たな絵を見るたびに、草間の「あなたの絵は全部好きよ」という対談時と同じ優しい声が聞こえてくるような気がする。
※1:https://realsound.jp/2026/08/post-2504632.html
※2:https://spice.eplus.jp/articles/226519