Mrs. GREEN APPLE「Brand New」に刻まれた喪失と成長の証 『スパイダーマン』と共鳴する“孤独”を引き受ける覚悟

 先ほどスパイダーマンを語る際に用いた“喪失”と“孤独”という言葉は、ミセスの歩みを追う中で筆者がここ数年繰り返し思い浮かべてきた言葉でもある。2022年、フェーズ2のスタート地点に立った3人は、その時点ですでに喪失を抱えていた。大森は心の傷も、愛への渇望も、全てエンタメへと昇華する覚悟を固める。濃密な楽曲を矢継ぎ早にリリースし、音楽以外の活動にも積極的に踏み出しながら、ものすごい速度で駆け抜けていった。Mrs. GREEN APPLEのメンバーがMrs. GREEN APPLEのメンバーであるからこそ感じる喜びや寂しさは、他の誰にも知り得ない。大森は、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架(Key)の2人にも、誰とも分かち合えない孤独をないがしろにしないことを求め、2人もまたそれに全霊で応えてきた。

 フェーズ2の締めくくりとなった『Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”』(2025年)東京ドーム公演の記憶は、今でも鮮烈に焼きついている。大森は、若井や藤澤の姿すら見えない場所――巨大な塔のセットの中腹に一人で立って歌っていた。その姿を見て「彼はもう、大森元貴としての孤独を完全に引き受けたんだな」と思った。そして今振り返ると、あの姿は『ノー・ウェイ・ホーム』でのピーターの決断をも思わせる。

Mrs. GREEN APPLE – ダーリン(第67回 輝く!日本レコード大賞受賞曲)【LIVE “BABEL no TOH” 2025 December Edit】

 あの光景を思い出すと、フェーズ3に足を踏み入れた今のミセスが『ブランド・ニュー・デイ』の日本版主題歌を任されたことに、運命的なものを感じてしまう。ミセスは「Brand New」のアートワークで、スパイダーマンが糸を放つ際の手の形をシンボルとして掲げた。あの手の形は、ASLで「I love you」という意味のハンドサインでもある。そして大森はこの曲で、〈I love youの先へ〉と高らかに歌い上げた。その直後には、〈僕はもう/独りじゃないね〉というフレーズが続く。この一節を聴いて思い出したのは、メジャーデビュー作『Variety』(2015年)収録曲「StaRt」の〈独りじゃないと否定出来るように/明日も唄うんだ〉というフレーズだった。数え切れない喪失や葛藤を抱え、それでも歩みを止めなかった先で、彼らはついに〈僕はもう/独りじゃないね〉という言葉へと辿り着いた。『スパイダーマン』シリーズが大人になっていくピーター・パーカーの物語であるように、この歌詞の変化には、ミセスというバンドが歳を重ねてきた証が刻まれている。

Mrs. GREEN APPLE - StaRt

 とはいえ、〈僕はもう/独りじゃないね〉という一節は、孤独の終わりを意味するものではないだろう。大森がこれまで幾度となく歌ってきたように、そして私たち自身も日々の中で実感しているように、人と人とは完全に理解し合うことができない。それでも、孤独を知っているからこそ、誰かと繋がることの意味を謳うことができるのではないだろうか。

 『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』という物語と出会ったことで、Mrs. GREEN APPLEがこれまで歩んできた時間は、新たな角度から照らし出されたのかもしれない。「Brand New」はスパイダーマンの孤独に寄り添うだけではなく、Mrs. GREEN APPLE自身の新たなフェーズを象徴する1曲として、鮮やかな輝きを放っている。

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