矛盾をむき出しにした感情、身体、音楽! “いまみれん伝説”の始まり『どうして僕はこうなった?』を観て
八丈島出身の23歳、シンガーソングライター、いまみれん。双極性障害と共存し、自身への絶望や劣等感を歌へと変えてきた彼が、7月29日、東京・Shibuya WWWで初のワンマンライブ『どうして僕はこうなった?』を開催した。
WWWの入口を抜け、会場へと下りる階段の踊り場に差しかかると、そこには一台のマットレスが置かれていた。アイマスクと目覚まし時計が無造作に載せられた一角は、まるでいまみのベッドルームを模したかのよう。さらに会場へ入ると、ステージには楽器や機材とともに4台のスタンドライトが据えられている。ここはリビングなのだろうか。踊り場からステージまで、WWW全体が彼の住処になったような演出だ。
開演時刻を迎えると、前日に自室で撮影された配信風の映像がスクリーンに映し出された。カメラの向こうのいまみが、メトロノームに合わせて「こんにちは」の発声練習を何度も要求。オーディエンスも笑いながらそれに応じ、早くも会場はアットホームな空気に包まれる。やがて映像の中のいまみは、翌日の自分――今まさにステージへ立とうとしている自分へ「会場の空気、どえらいことになってない? 歌えそう?」と問いかけ、「明日の自分に任せます」と本番へバトンを渡した。
サポートメンバーとともに現れたいまみは、ピンクのジャケット、青いTシャツ、白地に赤いハート柄のパンツという鮮烈な装い。「怒号外生地~Made in Pizza~」で幕を開けると、がなり声やデスボイス、突き抜けるようなハイトーンを自在に行き来し、レイジーに歌う姿には初ワンマンとは思えない貫禄が漂う。「こんにちは、ただの引きこもりです。新曲やります!」と叫び、疾走するロックンロール「ゴミ人間」へ。「うぜえ」「嫌い」という言葉を畳みかけるように連呼し、初期衝動をむき出しにした。
ビビッドピンクなテレキャスターをかき鳴らす「メリールー」では、畳みかけるビートと切ない旋律が交差する。「ストーカーになっちゃうよ」では赤紫の照明の下、昭和歌謡を思わせる妖しさからリズムが唐突に姿を変え、異なる曲を強引につなぎ合わせたキメラのような展開で翻弄。続く「愛の歌」では、首に掛けたタンバリンを鳴らし、60年代ロックの手触りを宿した、音程の跳躍が激しいメロディを悠々と乗りこなした。
ここでいまみは、3年と1日前の出来事を振り返る。当時の恋人と迎えるはずだった記念日を前に心身の調子を崩し、道端で倒れたところを偶然通りかかった人たちに助けられたという。「あの頃は、今日こんなにたくさんの人の前で歌えるなんて想像してませんでした」。この3年間に自分を救ってくれた人々へ感謝を伝えると、大学のゼミで特別課題として制作した「群青」へ。「僕らまだ若いから大丈夫だよ」という言葉に続いて響いたシャッフルビートは、何度でもやり直せるという歌のメッセージを明るく運んだ。
アコースティックギターを手にした「それだけで」では、サポートギターのあさかりょうへいが渋みのあるソロを聴かせる。かと思えば「シネ・マ・ジレンマ」では、いまみがピアノを弾き、QUEENを思わせる重層的なコーラスを響かせた。菓子らしきものを客席へ投げながら歌う「君が悪い」を経て、「僕より先に死んじゃだめだよ。泣くなよ、お前ら!」と叫び、「泣くなよレイデー」へ。ステージ前方から一人ひとりに語りかけるように歌い、「ラララ」のシンガロングとハンドクラップで会場をひとつにした。
ここでいまみはサポートメンバーを紹介し、自らを「躁鬱お兄さんです」と名乗って「躁鬱お兄さんと遊ぼう」へ。童謡からオペラ、ハードロック、パンクまでが入り乱れる過剰なアレンジは、彼の音楽性が持つ振幅をそのまま音にしたようだった。
ライブ終盤、いまみはメジャーデビューを発表する。「今言った瞬間まで、ワンチャン、ドッキリ説もあった(笑)」「あまり売れてもないのに……」と自嘲しながら、3年前には想像もできなかったという現在地に目を向け、「本当に、どうして僕はこうなっちゃったんでしょうか」と公演タイトルを回収した。
「『メジャーへ進んで丸くなるのでは?』と心配する人もいるかもしれないけど、結構歯向かってるから大丈夫」と声を潜めるいまみ。その直後、関係者へ向かって「売れたいです。よろしくお願いします!」と叫び、その矛盾を笑いに変えた。躁と鬱で大きく変わる自分を嫌ってきたが、最近はそうした矛盾も愛したいと思うようになったという。「もし自分の矛盾に気づいて病んじゃう時があったら、こんな僕を思い出してください。みんな、自分のことをもっと優しくしてあげて」。そう呼びかけると、8月20日リリースのメジャーデビュー曲「休もう!」へとなだれ込んだ。
題名の穏やかさとは裏腹に、「休もう!」は過去最速級のビートにシャウトが飛び交う、この日屈指の狂騒曲だった。「マンマミーヤ!!」ではハンドマイクを手にステージを歩き回り、オペラ風のコーラスを背負ってソウルフルに歌い上げる。その姿は、彼が敬愛するフレディ・マーキュリーを思わせた。「自己嫌悪」「愛してるから許す」と間髪入れずに進み、最後はデビュー曲「求める nor i」。気づけば上半身裸になったいまみがすべてを吐き出し、16曲のステージを締めくくった。
終演後のスクリーンには「休もう!」のリリース情報が映し出された。アートワークに使われていたのは、入口で観客を迎えたマットレス。帰り際、その写真を撮る人が後を絶たなかった。
開演前、『どうして僕はこうなった?』という公演タイトルは、自身の生きづらさに対する“嘆き”のように思えた。しかし、メジャーデビューを告げた彼が同じ言葉を口にした瞬間、その響きが“驚き”と“喜び”へと反転したのが印象的だった。感情も身体も創作も、移ろい、矛盾する。いまみれんは、その不安定さを隠すのではなく、音楽の振幅へと変えてみせる。インディーとメジャーの境目に立った今、その振幅はさらに大きくなり、遠くまで届いていくはずだ。