ジョン・ウィリアムズ、新海誠……現代映画における物語と音楽の“完全同期” 1970年代、GOBLINが覆した常識を再検証

『チャレンジャーズ』『グッド・タイム』……名作映画に脈々と流れるGOBLINのDNA

 『サスペリア』の翌1978年、GOBLINはもう一度、映画音楽の常識を書き換える。ジョージ・A・ロメロ監督『ゾンビ』。製作に深く関わった盟友アルジェントの監修による欧州版『Zombi』では、全編にGOBLINのスコアが流れる。

ジョージ・A・ロメロ監督によるホラー映画の金字塔、幻のバージョンがついに復元!!/映画『ゾンビ 日本初公開復元版 』予告編

 舞台は巨大ショッピングモールだ。店内を徘徊する死者たちと、そこに立てこもる生者たち。この映画に、GOBLINが持ち込んだのは、恐怖の音響ではなくグルーヴだった。メインテーマ「L'alba dei morti viventi」――「生ける屍の夜明け」の意――は心拍のようなシンセサイザーで始まり、荘重な和音が死者たちの世界の日常をぼんやりと照らす。その上をベースが這う。かと思えば、ファンクを通過した推進力満点のリフが、死者で埋まったモールを疾走する。緊迫のスコアも顔を出すが、全体を貫いているのはどこまでも“ノれてしまう”ことへの確信犯的な意志だ。観客を凍らせる音楽ではない。身体を動かしてしまう音楽である。

 ここにブラックユーモアが生まれるのだ。よろめき歩く死者たちの映像に、血の通ったビートが乗る。エスカレーターに乗り、噴水に転げ落ち、ショーウィンドウに群がる死者たちは、GOBLINのファンクビートに乗って、どこか踊っているようにさえ見えてくる。彼らは音楽に動かされる身体であり、同時に、広告のネオンや物欲に吸い寄せられてモールを徘徊する消費者そのものの隠喩として機能する。中盤、生者たちが無人のモールを束の間の楽園に変えるくだりでは、音楽もまた屈託なく享楽の側に肩入れする。恐怖とおかしさが、同じリズムの上に同居する。観客は画面に怯えながら、足でリズムを取っている自分に気づく。この居心地の悪い快感こそ、『ゾンビ』の音楽の発明だった。

 『サスペリア』と『ゾンビ』。どちらでも、GOBLINは映像の指示に従って音を付けているのではない。映画ごとに、音楽が果たすべき役割そのものを定義し直している。『サスペリア』では音楽が恐怖そのものになり、『ゾンビ』では音楽が死者たちの血流になった。映画音楽は“従属の芸術”だという通念は、彼らの前では通用しない。

 彼らが蒔いた種は、伝統的なオーケストラ教育を受けていないバンド出身のミュージシャンや電子音楽家たちによって、見事に開花している。

 ニコラス・ウィンディング・レフン監督がロサンゼルスのファッション業界を描いた『ネオン・デーモン』において、クリフ・マルティネスは、映画の空間を根底から作り替えてしまった。『サスペリア』がGOBLINのアナログシンセサイザーを叩きつけることで、フライブルクのバレエ学校を魔女の巣食う異界へと変容させたように、『ネオン・デーモン』は、マルティネスの硝子のようなシンセサイザーのアルペジオを用いることで、ロサンゼルスという現実の都市を、人間の体温を最初から締め出した光沢のある虚空間へと作り替えた。それは、そこに満ちている“空気の質感”そのものとしての音である。

『ネオン・デーモン』本予告

 サフディ兄弟による、一夜の破滅的な逃走劇『グッド・タイム』。この映画では、ダニエル・ロパティンの電子音が、ほぼ全編にわたって鳴りやまない。特筆すべきは、その音楽がもたらす“時間の圧縮”である。ロパティンの高速で複雑に絡み合うシンセサイザーは、主人公の焦燥感を観客の神経システムに直接流し込み、観客の体感時間を異常な速度にまで圧縮していく。音が止まらないから、観客も呼吸を整えられない。途切れた瞬間にすべてが終わるという、極限の緊迫感だけが持続する。音楽が映画の“時間”を完全に支配した傑作である。

ロバート・パティンソンが弟を救出、OPNの音楽がソワソワ感MAX/映画『グッド・タイム』本編映像

 ルカ・グァダニーノ監督(彼は2018年に『サスペリア』のリメイク版を監督し、そこではトム・ヨークに劇伴を依頼している)の『チャレンジャーズ』は、テニスの試合を通じて3人の男女の愛憎と駆け引きを描き出す。この作品において、Nine Inch Nailsのトレント・レズナーとアッティカス・ロスは、スポーツ映画の文脈を破壊する4つ打ちのテクノミュージックを叩きつけた。彼らの劇伴は、登場人物の内面的な悲哀や喜びといった感情をターゲットにはしない。そのかわり、テニスのラリーという物理的な運動の応酬に合わせて、観客の“身体”そのものを標的にし、強制的にアドレナリンを分泌させる。テニスコートで行われる試合は、もはやアスリートの闘いというより、汗と欲望が交錯する深夜のダンスフロアの出来事へと変質する。

映画『チャレンジャーズ』予告編 2024年6月7日(金)公開

 これら映画音楽の源流であるGOBLINが、この8月、オリジナルキーボーディストのクラウディオ・シモネッティ率いるCLAUDIO SIMONETTI'S GOBLINとして、初のビルボードライブツアーを行う。

 私たちは映画を“聴いて”覚えている。だから、あのチェレスタの回転が、あの囁きが、あのベースの脈動が目の前で鳴った瞬間――スクリーンはないのに、それぞれの記憶のなかで『サスペリア』が、『ゾンビ』が上映され始める。

 映画館では映像が音を連れてくるが、ここでは音が映像を連れてくる。この逆転は、ライブでしか起きない。しかも、会場はビルボードライブだ。テーブルで食事も楽しめる空間に、映画史上最も不穏な音楽が鳴り響く。この倒錯と不協和音こそが、かつて『サスペリア』のスコアにおいて“無垢なオルゴール”と“邪悪な魔女の囁き”を同居させたGOBLINの美学そのものを、完璧に追体験させる仕掛けとなっている。

 この一夜の体験は、総合芸術としての映画音楽の威力を証明するだろう。

■ツアー情報
『CLAUDIO SIMONETTI'S GOBLIN』

ビルボードライブ東京(1日2回公演)
https://www.billboard-live.com/tokyo/show?event_id=ev-21412
2026年8月10日(月)
 *1stステージ:OPEN 16:30/START 17:30
 *2ndステージ:OPEN 19:30/START 20:30

<チケット>
・DXシートDUO:23,200円 (ペア販売)
・DUOシート:22,100円 (ペア販売)
・DXシート カウンター:11,600円
・S指定席:10,500円
・R指定席:9,400円
・カジュアルシート:8,900円(1ドリンク付)

ビルボードライブ横浜(1日2回公演)
https://www.billboard-live.com/yokohama/show?event_id=ev-21413
2026年8月13日(木)
 *1stステージ:OPEN 16:30/START 17:30
 *2ndステージ:OPEN 19:30/START 20:30

<チケット>
・DXシートDUO:22,100円
・DXシート カウンター:10,500円
・S指定席:10,500円
・R指定席:9,400円
・カジュアル センターシート:10,000円(1ドリンク付)
・カジュアル サイドシート:8,900円(1ドリンク付)

ビルボードライブ大阪(1日2回公演)
https://www.billboard-live.com/osaka/show?event_id=ev-21414
2026年8月14日(金)
 *1stステージ:OPEN 16:30/START 17:30
 *2ndステージ:OPEN 19:30/START 20:30

<チケット>
・BOXシート:22,100円(ペア販売)
・S指定席:10,500円
・R指定席:9,400円
・カジュアル:8,900円(1ドリンク付)

ビルボードライブ オフィシャルサイト:https://www.billboard-live.com/

関連記事