森山直太朗、『田鎖ブラザーズ』主題歌なぜチャート急上昇? リスナーの共感を集める人生哲学
宮本浩次、矢沢永吉、Creepy Nuts、Vaundyなど新旧のヒットアーティストが主題歌を務める2026年4月期ドラマ。注目曲は多数あるなか、じわじわと広がりを見せ、チャート上でも存在感を放っているのが森山直太朗による『田鎖ブラザーズ』(TBS系)主題歌「愛々」だ。その流行に流されない普遍的な楽曲は、今の時代を生きるリスナーの心に確かな爪痕を残している。なぜ森山直太朗の言葉と音楽は世代を超えて愛されるのかーー編集者/ライター 谷岡正浩氏の寄稿文を届けたい。(編集部)
チャート上でも存在感を高める森山直太朗の勢い
森山直太朗の最新シングル「愛々」が好調だ。
同曲が主題歌となっているTBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』の考察合戦がネットを中心に繰り広げられるなど最終回へ向けて一層の盛り上がりを見せるなか、配信リリースからこの間、着実に続けてきたメディア出演の効果も出始めている。
とくに、『テレビ×ミセス』(TBS系)でMrs.GREEN APPLEとパフォーマンスした「生きてることが辛いなら」と『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で実現した石崎ひゅーいとの「愛し君へ」でのコラボは大きな話題となり、直太朗の過去作品と新曲の「愛々」が同時により広く聴かれるきっかけとなった。
さらに配信リリースから約1カ月後、5月13日発表のラジオオンエアチャート(集計期間:2026年5月4日~5月10日)では総合Top5に入り、J-WAVEのラジオチャート「TOKIO HOT 100」では初登場75位→14位(5/31付)→8位(6/7付)と順位を上げるなど、曲の良さがじわじわと浸透していることを裏付ける結果が出ている。
アップテンポでキャッチーで踊りやすそう、といった最新ヒット曲が備えている要素を何ひとつ搭載せず、まるでしぶとさが売りの軽トラックのようにどんな道も走り続けて行く――そんなイメージの楽曲だ。しかし、だからこそ多くの人の心に刺さっているのだろう。
「やっぱり直太朗なんよ」的な感想がMVのコメント欄やSNSでも散見されるのは、“森山直太朗の再発見”が「愛々」という曲によって行われていることを示唆している。そして、そうした現象がこの曲をきっかけにして始まっていることが、直太朗のこれまでの歩みと重ね合わせて考えると、とても重要に思える。
誰もが抱えている共通の感覚を掘り起こす「愛々」
ここで時間は今から4年前の2022年に巻き戻る。
デビュー20周年の節目に11枚目のアルバム『素晴らしい世界』をリリースし、同タイトルの全国ツアーを敢行した。そのツアーは2年をかけて100本以上に及ぶものとなった。離島の小さな会館から全国各地のホール、都市部にあるジャズクラブや両国国技館、そして海外公演など、編成や内容を変えながら旅した107本は、森山直太朗という人間のこれまでをつぶさに見つめ直し、辿り直すような内容だった。終盤には父の死に直面し、そのことがなおさら彼のシンガーソングライターとしての自覚を強くする契機にもなった。
この長い旅を終えて、次に向かったのが、現在も続いているツアー『あの世でね』だ。昨年10月にリリースした2枚の趣の異なるアルバム『Yeeeehaaaaw』と『弓弦葉』の世界観をそれぞれ表現するという試みで、つまりは2種類のツアーを交互にひとつのツアーとしてまわっている。ちなみに『Yeeeehaaaaw』は、ブルーグラスやカントリー&ウェスタンといった、彼が幼少の頃からごく自然と親しんできたアメリカのマウンテンミュージックをベースに、そこに古き良き日本的な感性をブレンドさせた、言うなれば「ちんどん屋風アメリカーナ」といったサウンドで、『弓弦葉』は対照的に彼の内面世界にどこまでも深く潜り、自己と万物を並列にし、改めて世界を構築し直すような静謐でアコースティックなサウンドが展開されている。
彼のこれまでを含んだ、この4年間の軌跡は、森山直太朗という表現者が抱えていた空白を埋めるために必要な期間だった、ということが言える。
その空白とは何か?
それは、本質的な意味での「自分の音楽」だ。彼のデビューから長く共にクリエイティブに携わってきたのが盟友である御徒町凧だ。学生時代からの友人でもあった。その御徒町と決別して臨んだのが『素晴らしい世界』ツアーであり、そこを経由して森山直太朗が森山直太朗自身の音楽を打ち立てたのが『Yeeeehaaaaw』と『弓弦葉』、それらを舞台で表現する『あの世でね』ツアーなのだ。
そのような道のりを踏まえて生み出されたのが「愛々」だ。ドラマ主題歌の決定に際して寄せられた、「取り残された二人の主人公(真と稔)を思いながら、ふと、高校時代からほんの数年ほど前まで一緒に曲を作っていた友人のことを思い出しました」(※1)という直太朗のコメントのなかで言及されている「友人」は明確に御徒町凧のことだ。ようやくそこを曲にすることができた。それはつまり、森山直太朗の新たな一歩が刻まれた作品ということが言える。だからこの曲は、歩いてきた道のりを振り返ったものではなく、この先にある無限の選択肢を前に昂る気持ちを噛み締めるひとときを歌にしたものだ。そういう意味で、この曲で“森山直太朗の再発見”が行われているというのは必然的なタイミングであるように思える。ここから何かが始まっていく――そんな予感に満ちた曲だ。
ゆったりしたメロディに収まりきらない言葉を無理くり詰め込んで歌う部分に感情が迸る。フォークともソウルともつかないサウンドはそっと土の匂いを運んでくる。今回、アレンジで参加したのは、映画『国宝』で音楽を担当し、一躍話題となった原摩利彦、そして『あの世でね』ツアーを一緒にまわっているヴァイオリニストの須原杏だ。二人とも直太朗とは旧知の仲であり、それゆえの温かみと一方で森山、原、須原の三人がそれぞれに築いてきた音楽観の多様性というものが程よい緊張感を曲全体に与えている。その様々なものがない混ぜになった感覚は、長い旅路を歩いてきて目の前に二股に分かれた道が現れ、それまでの苦労と楽しさを思い起こしつつ、さてどっちに歩を進めようかと思案している人の風景に重なる。ブレイクのあと、何もかもを吹き飛ばす突風のような大サビが展開される。どっしりと踏み出した一歩のようなこの大サビがもたらす疾走感とカタルシスは、この曲の最大の聴きどころと言っていいだろう。
全編奄美大島ロケで撮影されたMV(こちらも話題となっている)に登場する二人の小学生は「愛々」という直太朗によるオリジナルの造語をそのまま表したようだ。ちなみに彼らは、役者ではなく島在住の子どもたちで、本当に仲の良い友達同士なのだそうだ。そのあたりのリアリティが絶妙なおかしみと切なさとなって表れ、本当の人生の一部を覗き見ているような気持ちになる。彼らは浜辺を抜け、森のなかを彷徨い、アスファルトの道の上でふざけ合い、置き捨てられた錆びた巨大な工作機械に腰掛けて菓子を分け合い、軽トラックの荷台の上で揺られながら空に浮かぶ雲を数え、道草しながら歩みを先に進める。我々がそこに重ねるのは、人間は孤独だけど一人ではない、という思いだ。人生のなかで重大な決断をするとき、基本的にそこには自分自身しかいない。けれど、その決断に至るまでには、誰かとの関わりがあったことは間違いないし、決断をして以後も誰かと関わっていくことになる。素敵なことでもあるし、面倒くさくもある。なんとも「愛々」な日々を我々は送っている。森山直太朗個人のルーツに根ざしながら誰もが抱えている共通の感覚を掘り起こす、見事なまでにポップソングであり、だからこそ多くの人を魅了する力を持っている曲だ。
絶え間なく打ち寄せる波の音のように「愛々」は今、注目の最終回へ向かうドラマの盛り上がりと余韻を飲み込んで、リスナーのあいだに静かに、けれどたしかに広がっている。
※1:https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=22506
■リリース情報
森山直太朗「愛々」
TBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』主題歌
作詞・作曲:森山直太朗
編曲:原摩利彦・須原杏
配信中:https://naotaromoriyama.lnk.to/aiai
■ライブ情報
森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』 〜「弓弦葉」と「Yeeeehaaaaw!」〜
日程・チケット詳細:https://naotaro-tour.com/anoyodene/
■関連リンク
オフィシャルサイト:https://naotaro.com/
『愛々』特設サイト:https://www.universal-music.co.jp/moriyama-naotaro/aiai/
森山直太朗 Two jobs tour 2025〜26『あの世でね』
〜「弓弦葉」と「Yeeeehaaaaw!」〜特設サイト:https://naotaro-tour.com/anoyodene/
にっぽん百歌:https://www.youtube.com/channel/UC9c7vb0MeSSnj7keLv1WZuw
森山直太朗の心地いいレディオ:https://lit.link/Eqrbimn8
ポッドキャスト番組「さりとて商店街」:https://open.spotify.com/show/0Mk0b2e...
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