今までにない形で寄り添う――映画『鬼の花嫁』イメージソング「Ray」 由薫の出発点と「星月夜」にかかる魔法

 暗闇に突然、一筋の光が射す。手を伸ばして「触れた」と思っても、実際には触れることができない。それでも、その光に近づこうとする時、初めて自分の輪郭が見えてくる。由薫の新曲「Ray」は、そういう光を描いた曲だ。映画『鬼の花嫁』のイメージソングであり、由薫が自分自身のことを見つめ直して得たひとつの答えでもある。「Ray」とは、『鬼の花嫁』の物語であると同時に、由薫自身のことでもあるのだ。そして、その寄り添い方は彼女のなかに今までなかった方法論でもある。

 この曲を作る最中、由薫は本当に大切なこと――もしくは、彼女がいちばん初めに音楽に抱いた願い――を思い出したという。目の前の人にちゃんと言葉を伝える、ということ。これは、「星月夜」を書いた時の彼女の思いとも重なる。至極シンプルであり、いつしかふと忘れかけてしまう大事な感覚。それを、「Ray」はもう一度呼び起こしたのだ。由薫は今、出発点に立ち返りながら、静かな覚悟を持って新しい場所へ向かっている。その過程の話を聞かせてもらった。(編集部)

“由薫”の概念と立ち返り「始まりが自分であることを大事にしないといけない」

――昨年は4th EP『Wild Nights』のリリースや、バンドツアーと弾き語りツアーの開催、「The rose」がドラマ『推しの殺人』主題歌に起用されるなど、充実した一年のように映ります。改めて、2025年は由薫さんにとってどんな一年でしたか?

由薫:たしかに、昨年はいろんな活動が目白押しでしたね。でも、振り返ると常に忙しかったというよりは、自分のなかにクエストみたいなものが日々あって、それに向かって長期的に頑張るみたいなことが多かった気がします。たとえば、バンドツアーをやったあとに初めての弾き語りツアーをした時は、そもそも弾き語りでツアーをするのが初めてだったので、準備期間も結構長く設けていました。練習にもひとりで入ったりもしましたし、途中で自分のことを見失うこともありましたけど、なんとか乗り切ることができました。秋にはサミットに参加するためドイツに渡ったんですけど、そこでもあらためて「自分が音楽を通してどんなことができるんだろう」って考えたり、世界情勢のことをたくさん勉強したりと、いろいろ考えたり立ち止まったりすることが大事だった一年だったなと思います。

――それ以前と比べても、大きな違いのある一年だった?

由薫:そうですね。“由薫”という名前で活動していますけど、この名前にはたくさんの方々が関わってくれていて、時の流れとともに人の入れ替わりもあるじゃないですか。“由薫”という名前は変わらないけど、構成するメンバーがひとり変わるだけで私も考え方が変わりますし、それによって由薫自体がどんどん変化や進化をしていく。特に、2025年は自分のなかで葛藤するだけではなく、チーム全体で「もっとよくするにはどうしたらいいんだろう?」みたいな話し合いもあって、それまでよりも意味とか意義を問いただすタイミングにもなったので、ただがむしゃらだったそれ以前とは、また違った気がします。

――もっと一曲一曲に対して、そこに込める思いだったり曲が持つ意味、どう受け取ってほしいかなど、深く考える機会も増えた?

由薫:はい。デビューしたての頃は正直右も左もわからなくて、体当たりするしかなかったですし、楽曲を制作する期間も今より短かったのもあって、タイトなスケジュールのなかでどう効率よく進めていくかばかりを意識していたんです。でも、最近は何回も歌詞を書き直したり、チームのなかでも「ここってどういう意味なんだろう?」って話し合う時間も増えて。クリエイトするという点において、すごく充実した一年でした。

――昨年秋のテレビドラマ『推しの殺人』主題歌に「The rose」が起用されたのに続いて、今年1月から始まったテレビドラマ『身代金は誘拐です』主題歌にも「echo」が起用されています。タイアップがあると、そこに新たに関わる人が増えるわけで、いろんな意見を取り入れながら楽曲を仕上げることになるのかなと思います。そのへんに関しての変化を、以前と比べて感じることはありすか?

由薫:「lullaby」(映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』主題歌)に始まり、メジャーデビューしたての頃からたくさんタイアップをやらせていただいていて。私自身、タイアップを通じて曲を作ることが好きなんです。今の事務所に入るオーディションも、映画のあらすじがあってそこに対して曲を書くというものだったので、何か題材があってそこに寄り添って曲を作ることが性に合っているんだと思います。

 ただ、デビューしたての頃と今とで考え方が変わってきているところもあって。タイアップ先の作品に寄り添うことはもちろん今も変わらないんですけど、その曲を通して「自分はどうなのか」っていう自意識や自我をどこまで表現できるかを意識するようになりました。そのなかでも特に最近意識しているのは、自分が日頃考えていることや自分から出てくるメッセージを先に見つめておいて、そういうお話(タイアップ)がきた時に、そのなかから曲を作っていくこと。始まりが自分であることを大事にしないといけないなって思い始めています。

由薫 – The rose (Official Music Video)
由薫 – echo (Official Lyric Video)

――曲作りにおいて、タイアップというきっかけはあるものの、あくまで“由薫の楽曲”として制作するのだから、ご自身の思いや意思は大事にしたい、と。

由薫:そうですね。以前はまっさらなノートに曲を書き始めることが多くて、それはそれでお気に入りではあるんですけど、自分の人生のフェーズとしてすでにノートに書いてあることをいかに展開させて進化させていくのか、みたいなことは、より考えるようになりました。

――では、今回の新曲「Ray」に関してはいかがでしょう。この曲は映画『鬼の花嫁』のイメージソングですが、制作の進め方としてはどのように進めていきましたか?

由薫:映画を観ると、その登場人物の気持ちになったりすることがあるじゃないですか。それだけで曲は書けそうだなとも思ったんですけど、今回は映画自体を観る前に『鬼の花嫁』のあらすじを読んで。恋愛映画だということがわかった時に、「自分にとって恋愛って何なんだろう?」「初恋ってどういうことなんだろう?」「友達と恋人って何が違うんだろう?」というようなことを考えて、まず自分のなかにあった思いをノートに書き連ねてみたんです。そうやって自分の考えを整理したあとに、あらためて映画を観てから曲を書き始めたんですけど……映画って、一度観てしまうと、観る前の何も知らない自分には戻れないじゃないですか。なので、映画の内容を知ったうえで、結末や展開を知る前に書いたノートを見ながら、自分のなかで作品に対する思いを再構築していく作業を重ねて、曲を完成させていきました。そういう意味では、今までにない形で映画と寄り添うことができたのかなと思います。

――最初にノートに書き記した言葉は、作品のあらすじやテーマから受けた印象を素直に綴ったものにもなるという。

由薫:ですよね。ふと出てきた言葉があったとして、それを自分のなかでも「どういう意味なんだろう?」というふうにブレインストーミングみたいなこともして。そういう自分の思いが曲にまるまる入っている感じですね。

由薫 – Ray (Official Music Video)

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