藤井 風、『コーチェラ』で示したワールドワイドな“愛”の普遍性 キャリアを網羅した解放的なステージ
藤井 風が日本時間4月12日(現地時間4月11日)、音楽フェスティバル『Coachella Valley Music & Arts Festival』(以下、『コーチェラ』)に出演した。
『コーチェラ』はカリフォルニア州インディオで開催されているアメリカ最大級の野外音楽フェスティバル。今年もヘッドライナーのサブリナ・カーペンター、ジャスティン・ビーバー、カロルGをはじめ、欧米、中南米、アジアを中心にした多彩かつ豪華なアーティストが顔を揃え、世界中の音楽ファンの注目を集めた(日本からは藤井 風、Creepy Nuts、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uが出演)。
この日、藤井が出演したMojave Stageにラインナップされていたのは、ジャック・ホワイト、Royel Otis、Taemin、PinkPantheress、Interpol。ジャンル、世代は様々だが、いずれもワールドワイドな評価を得ているアーティストだ。藤井はこのステージの2番手として登場。バンドメンバーのシャイ・カーター(Cho)、ARIWA(Cho/ASOUND)、江﨑文武(Key/WONK)、TAIKING(Gt/Suchmos)、小林修己(KOBY SHY/Ba)、佐治宣英(Dr)とともに魅力的なパフォーマンスを繰り広げた。
ジャック・ホワイトが「これがロックンロールの神髄だ!」と快哉を叫びたくなるステージを見せつけた後、ついに藤井 風が登場。お寺の鐘の音のようなSEとともに舞台中央に置かれた階段に座り、〈母なる大地は私の愛し子〉と歌い始める。1曲目は「It’s Alright」。和的なメロディと先鋭的なR&Bグルーヴを融合させた独創的なオリエンタリズムがゆったりと広がっていく。そして、情緒的なギターフレーズに導かれたのは「まつり」。手をゆらゆらと揺らしながら、巡り巡る四季と命について歌い上げ、日本という出自を明確にしていく。
ここでサングラスを外し、「ハロー! 『コーチェラ』!」と挨拶。軽快なビートから始まったのは、昨年9月にリリースされた最新アルバム『Prema』収録曲「Casket Girl」だ。爽やかさと不穏さが絡み合うメロディライン、ロックンロールとR&Bが溶け合うサウンドによってライブの雰囲気は一変。鮮やかなモードチェンジによって、ステージ前方のオーディエンスから歓声が上がった。さらに80年代のR&Bポップへのリスペクトを反映した「I Need U Back」ではステージ上を左右に動き、手拍子を煽る。少しずつ、確実に観客を惹きつけていく。
「私は藤井 風です。日本から来ました。次の曲は私のデビューシングルです。日本のゴスペルです」と英語でスピーチし、「何なんw」へ。リリースから約7年が経過した今、彼の原点であるこの曲の普遍性が海外のオーディエンスに手渡されたことには大きな意義があると思う。「何なんw」のエンディングでピアノを弾いた藤井は、そのままイントロを奏で「Okay, Goodbye」へ。80年代ブルー・アイド・ソウルの意匠を感じさせるグルーヴがオーディエンスに浸透していく。藤井のフェイクを交えた歌とTAIKINGのギターの絡みも気持ちいい。
ここでバンドメンバーを紹介。藤井と世代の近いミュージシャンもいるが、彼らが『コーチェラ』という大舞台で演奏したことの意味も極めて大きいと思う。続いて演奏されたのは極上のミッドバラード「You」。切なくて甘いメロディ/ハーモニーによって描かれるのは“君に必要なものは君の魂のなかにある”というメッセージ。目を瞑り、観客一人ひとりの心に向けてメロディと言葉を運ぶように歌う藤井の姿も印象的だった。
そしてライブの最初のピークは3rdアルバムのタイトルトラック「Prema」だった。スクリーンに大きく映し出された“PREMA”とはサンスクリット語で「無私の愛」「至高の愛」を意味する言葉。曲に込めたメッセージについて英語で少しだけ説明した藤井は、“神聖”と形容したくなるボーカルを描き出し、観客を惹きつける。あまりにも深い思索としなやかな身体性を共存させた藤井 風の音楽。その現時点における頂点は間違いなくこの曲だろう。
真っ赤なライトに照らされるなか、クラシックとジャズを行き来するようなピアノの独奏に導かれたのは「死ぬのがいいわ」。2020年にリリースされたこの曲は、2022年から世界的なバイラルヒットを記録。サビのメロディが響いた瞬間に大きな歓声が沸き起こり、楽曲の浸透度の高さが伝わってきた。マイクを逆手に持ち、ステージの上をゆっくりと歩きながら“気だるい挑発”と呼びたくなる歌声を響かせ、最後はステージにうつ伏せで倒れ込む藤井。刹那的な愛と深遠な死生観が交差する「死ぬのがいいわ」のパフォーマンスもまた、この日の大きなハイライトだった。
ラストナンバーは「Hachikō」。軽快なギターカッティング、透明感と奥深さを感じさせるシンセ、そして〈Doko ni iko Hachiko…(どこに行こう ハチ公…)〉というリフレインに合わせ、観客が気持ちよさそうに身体を揺らす。精神と身体が気持ちよく解放されるような雰囲気を生み出した藤井は笑顔で手を振り、ステージを後にした。
デビュー曲、代表曲、さらに全曲英語詞による最新アルバム『Prema』の収録曲まで、約50分のステージにこれまでのキャリアを凝縮してみせた藤井。北米やヨーロッパでのツアー、フェスへの出演を重ねるなかで、海外のオーディエンスに対するアプローチの精度を上げてきた“成果”がはっきりと感じられるアクトだった。また、『コーチェラ』での素晴らしいパフォーマンスが彼のキャリアにとって大きな出来事であるのはもちろんだが、それは“日本のアーティストがついにここまで”という評価ではなく、藤井 風がすでにワールドワイドな存在になっていることの証左でもあるだろう。
藤井は『コーチェラ』の2週目(日本時間4月19日/現地時間4月18日)にも登場。音楽解説チャンネル「Behind The Wall」を運営するクリエイター、ダニエル・ウォールが実況・解説する企画もあるので、こちらもぜひチェックしてほしい。