Mrs. GREEN APPLE「風と町」と大森元貴「催し」が同日解禁された意味 対照的な2曲に通ずる人生賛歌としての眼差し
Mrs. GREEN APPLEと大森元貴、それぞれの楽曲が3月30日にテレビで初解禁された。NHK連続テレビ小説『風、薫る』の主題歌であるMrs. GREEN APPLE「風と町」、そして『news zero』(日本テレビ系)のテーマ曲である大森元貴の「催し」である。バンドとソロで形態こそ違えど、1日の中で同じアーティストの新曲が2曲も初オンエアされるというのもなかなかない。ファンにとってはとても幸福な日だったと思うが、何よりもこの2曲がそれぞれの在り方で聴き手の人生に優しく寄り添うようなものになったことが、1リスナーとしてはとても嬉しい。
文字通り風が吹くような、穏やかで柔らかいサウンドが特徴的な「風と町」に対して、アグレッシブなロックチューンとなっている「催し」。2つの曲が織りなす景色はまるで正反対だ。いかにも“バンド”らしいサウンドの「催し」がソロ名義であり、そうではない「風と町」がバンド名義であるというのも非常に興味深い。何をどのような形でアウトプットするのかということに対して極めて意識的な大森のことだから、それぞれの曲においてこのスタイルを選んだことにも必然性があるはずだ。同時に、このようにまったくスタイルの違う2曲の根底には、大森元貴というアーティストが、これまでもずっと、そしておそらくはこれからもずっと持ち続けていくであろう“命”や“生きるということ”や“日々暮らしていくということ”に対する眼差しが丁寧に注がれていることも、楽曲を聴いた人ならばわかるだろう。
Mrs. GREEN APPLE「風と町」:人生を丸ごと抱きしめる大らかさ
「風と町」が主題歌となったドラマ『風、薫る』は、激動の明治の時代に日本初のトレインドナースを目指す2人の女性、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)の成長を描いた作品だ。この原稿を書いている時点では、まだ第1週が放送されたばかりだが、すでにドラマの中では様々な出来事が起き、物語は大きく動き出している。どんどんと日々が変わっていくドラマティックな時代と過酷な運命の中で、2人の主人公はどのように自分自身を見つめ、自分の生き方を選び、そして“命”と向き合っていったのか。その物語を丁寧に描くドラマの根っこには、人間としてどう生きるのかという、とても根源的なテーマが横たわっているように見える。
そんなドラマのオープニングで、作品やそこに描かれる時代、人間をすべて優しく包み込むように聴こえてくるのが「風と町」という楽曲だ。アコースティックギターやピアノ、弦楽器、生のドラムが生み出す、ナチュラルでフォークロアな音像の上で、大森は“風”に託すようにして歌う。流れていく時について、それによって生まれていく変化について、そしてその中で人々が感じる一抹の寂しさについて。動き続けていく時間の中で生まれた愛も、誰かと繋がれたという事実も、悲しみや切なさでさえも、たとえ忘れ去られ、失われてしまったとしても、〈風はただ知っている〉――そんな風に歌うこの曲は、まるですべての人生、そして積み重ねられてきた歴史を丸ごと抱きしめるように大らかに響く。
大森はこの楽曲に寄せて、次のようにコメントしている。
「激動の時代の中、2人の主人公を中心に、登場するすべての人への人生賛歌としてささやかながら愛情を目一杯注いでこの『風と町』をつくりました。命と寄り添い、生きるために力強く在ろうとする主人公たちの姿はきっと今を生きる私たちにとても大切なことを伝えてくれている気がしています」(※1)
そう、この曲は物語の登場人物たち、ひいてはそれを受け取る私たち全員に向けられた“人生讃歌”なのだ。ただし、ここで言う“讃歌”は、一般的な意味、すなわち、人生の素晴らしさや美しさを称揚し、礼賛し、共に喜び合う、そういうものとは少し違うかもしれない。少なくともドラマでオンエアされている箇所だけを聴く限り、この曲が描こうとしているのは人生の美しい側面ばかりではないと思うからだ。主人公たちが直面するのは、人間の力など到底及ばないような圧倒的な“現実”。例えば劇中では日本国内に伝染病のコレラが蔓延し、人の命を次々と奪い、心までをも荒ませていく様子が描かれる。コロナ禍を体験した我々ならわかるだろう。未知の病原菌の前に人間はあまりにも無力だ。しかしその中にあって、主人公のりんと直美、そして彼女たちを取り巻く人々は、たくましく現実に立ち向かい、困難を乗り越えようと必死に生きていく。そんな人々の営みを、大森は〈風はただ知っている〉というフレーズとともに認め、肯定しようとするのだ。たとえ誰も見ていなくても、誰にも認められなくても、あなたが一生懸命生きていることを、〈風〉はちゃんと知っている、と。
“人生を肯定する”という意思は、ミセスにせよソロにせよ、これまで大森が作り続けてきた音楽の中で幾度も現れてきたものだ。大森にとって、ずっと変わらない永遠のテーマだといってもいい。しかし、今回彼はそのテーマを一人称で語るのではなく、風という人間の意思や感情を超えた存在に託して描き切った。視点がさらに一段大きくなっているのだ。彼は昨年、『風、薫る』の前々作にあたるNHK連続テレビ小説『あんぱん』に出演しながら、「風と町」を制作していたという。それを彼は「とても刺激的な経験でした」と振り返っているが(※2)、音楽家としてだけではなく、俳優としてそれまでとは違う形で物語に関わり、それを見つめ続けていた経験が、この「風と町」という曲の視点には反映されているのかもしれない。