時速36km、『ONE PIECE』主題歌と共振したバンドの核心 ゼロ年代の文化を継承して描き出す“未来”
時速36kmが、TVアニメ『ONE PIECE』エルバフ編のエンディング主題歌として「その未来」を書き下ろした。同曲は『ONE PIECE』の中心となる海賊、海軍、その外側にいる市井の人々、大海賊時代を生きる全員の心情を歌った楽曲だという。何者でもない現状にもがきながらも、がむしゃらに未来へと前進しようとする強い意志ーーこの曲で歌われているのは時速36kmが積み重ねてきた歴史そのものでもある。
結成から10年、ライブハウスシーンで着実に存在感を強めてきた時速36km。しかし、『ワンピース』という国民的作品への楽曲提供によって、より高いステージへと歩みを進めるのは間違いない。メンバーが今何を考え、どんな未来を思い描いているのか、率直な言葉を聞いた。(編集部)
時速36kmを形成するルーツ
ーー人生で最も衝撃を受けた音楽はなんですか?
オギノテツ(Ba):僕はbloodthirsty butchersですかね。中学生の頃にナンバーガールが好きで、(田渕)ひさ子さんが途中から入られているバンドというのを知って聴くようになったんですけど。歌詞は他のバンドに比べて何を言ってるかはわからないけれども、とにかく何か優しいことを歌ってるんじゃないかということが伝わってきて。ライブでもとんでもない音量で、その割に言ってることがすごく優しかったのが印象に残ってます。何歳になっても聴けるバンドですね。
石井開(Gt):僕は80年代、90年代ぐらいのハードロックが好きです。中学生ぐらいの時はBUMP OF CHICKENとかRADWIMPSを聴いていたんですけど、妹の友達のお父さんにギターを教えてもらったことがあって。その時に革ジャンを着ながらハードロックを目の前で弾いてくれたのが、僕のギターの原体験ですね。
松本ヒデアキ(Dr):バンド音楽を聴くきっかけはHi-STANDARDです。高校で軽音部に入ってドラムを始めたんですけど、世代的に4つ打ちの曲が流行っていた中、僕は洋楽のメロディックパンクが好きな友達と一緒にバンドをやっていて。(Hi-STANDARDは)邦楽だけどそういう音楽をやっている、当時の僕からしたら一番周りとは違う音楽でしたね。ドラムを叩く時のプレイスタイルの根幹に影響を受けている気がします。
仲川慎之介(Vo/Gt):ロックバンドってかっこいいんだなと思ったきっかけはBUMP OF CHICKENですね。ギターを練習して曲を作ってみたいと思ったのもバンプの影響でした。歌詞や声ももちろん魅力的なんですが、そういうところよりも、俺にはどっしり構えた音楽のように聴こえたんですよ。アップテンポな音に合わせて勢いのいいことを言うわけでもなく、内側の温度が高い感じがすごくかっこいいと思いました。
ーー仲川さんの表現に受け継がれてるものがあると思いますか?
仲川:本当にいろんなところに影響を受けているんですが、挙げるとなると難しいな。
オギノ:髪型じゃない?
仲川:言うな(笑)。髪型もそうね。歌い方もそう。ギターも同じの使ってるし(笑)。ロックバンドという形態にこだわるくせに、その中で好きなことをやろうとしている感じは一番かっこいいと思っているから、そこを受け継ぎたいと思っているのかな。
ーー皆さんがこのバンドの制作やプレイの面で、一番大事にしてることはなんですか。
オギノ:楽しむ、ということは思ってますね。極端な話をすると、ベースは聴かれにくい楽器だと思ってるんですよ。演奏を止めたらみんな気づくけど、止めなかったら誰も気づかない楽器というか。どちらかというとライブではお客さんやメンバーをアジテートすることを意識しています。一方レコーディングでは、1個前の音源(『Around us』)からちゃんとベーシストとしてのこだわりを出すようになったんですけど、それもやっぱりライブで使っている機材や竿を使っていて。僕はライブに準拠して、それをレコーディングにも落とし込んでいこうと思っています。
ーーそれはライブの熱量を音源にも反映したいからですか?
オギノ:何遍も何遍もレコーディングをしていく中で、レコーディングの時はそんなにこだわって作ってなかったものが、ライブでやるとこだわり始めちゃって。レコーディングの音とライブの音が乖離してしまうことが実際あったんですよね。それが嫌で逆輸入というか、ライブの音をレコーディングの音にするようになっていった感じです。
松本:僕は大まかにふたつあるんですけど、ひとつは仲川の歌に沿って叩くこと。これはこの2、3年顕著になってきたことなんですけど、このバンドの要素をそぎ落としていった時に何が残るかって考えたら、慎之介の歌や歌詞だと思ったんですよね。以前の僕はグイグイと前に出ていきたがる演奏が多かったんですけど、今は歌を立たせるために冷静な目で1歩引いて叩くように変わってきました。そしてもうひとつ、ちょっと矛盾しちゃうんですけど、そういった中でも僕がアクセルを踏んで前に出ることも同時に意識しようと思っています。僕がガーッ! とアクセルを踏んで、それが上手く働いた時にオギノや開くんも乗ってきて、よりいいライブになるっていうことが昔から多かったんですよね。なので引き際を見極める冷静な目線と、攻め時のタイミングを逃さない目線、相反しているそのふたつをどちらも持って演奏していきたいというのが今の課題です。
ーー石井さんはどうですか?
石井:めっちゃバカみたいなんですけど、いっぱい弾きたいんですよ。
仲川:(笑)。
石井:すごくいっぱい弾きたいんですけど、前作でいっぱい弾いたら結構お腹いっぱいになってきて。「その未来」のギターは慎之介が最初に考えてきてくれたものがあったし、それは結構歌に寄り添うようなフレージングが多かったので、それと僕が考えたフレーズのいいところを足して割った感じで作っています。いっぱい弾きすぎないようにする、というのは今回の作品では意識しましたね。
ーーいっぱい弾きたいというのは、ギタリストとしてのどういうエゴが出ているんだと思いますか?
石井:これはひとつの呪いだと思ってるんですけど、80年代、90年代ぐらいのギターヒーローたちが好きだったし、あの人たちは引き際なんて知らない人たちなんで。やっぱり育ってきた畑のせいで今こうなっているのはありますね。Extremeというバンドのヌーノ・ベッテンコートが一番好きですけど、あの時代のギターヒーローたちは全般好きですね。
仲川:俺はライブとレコーディングで結構違うんですけど、レコーディングのプレイングや音作りを決めるのは、その曲を120%表現するために必要な要件を満たしているかどうかがすべてなんですよね。でもライブとなると、どうよ? みたいな。すごいっしょ、俺ら? みたいな気持ちしかなくなりますね。
ーー仲川さんの言葉からはバンドであることへのこだわりが伝わってきますね。
仲川:楽しいというのはありますね。別に音楽は全部楽しいんですけど、これしかやったことないからか。俺はやっぱこれが一番楽しいんです。
ーーオギノさんはバンドへのこだわりという点ではどうですか?
オギノ:最近バンドとして固執してるのは、レコーディングの時に人間としての雑味の部分を残すこと。音楽的にはちょっとずれてるかもしれない部分もパッケージングした方が、ことバンドにおいてはいいなと思っています。最近SunoとかAI音楽がめちゃめちゃ台頭してきてますよね。人間はやっぱ便利になったものを手放すことはできないから、恐らくあの手の音楽はこのまま行くと覇権コンテンツになってしまうだろうなと思うんです。で、そうなった時に戦わなきゃいけないのは、恐らくバンドが好きだけどひとりではできないから、AIの力を使ってどうにかバンドっぽい音楽をやろうと思って爪を研いでる子たちかなと。そしてそこでその子たちと僕らで明確に違うことってなんだろうと思ったら、4人のヒューマンがやってることで生まれる軋轢とか雑味とかミスの部分なんですよね。
ーー逆に言うと、やっぱり軋轢があるんですね。
オギノ:それこそさっきの「バンドにおいて何を重要視していますか」って質問で、三者三様になっちゃってるところがまさに軋轢で。うちの場合はギターがお立ち台に立ってる時にボーカルもお立ち台に立ってるとか、僕がお立ち台に立った時に左を見たら何故か石井がお立ち台に立ってるとか、そういうことがあるんですよね。今俺の時間だけど? みたいな。時速は全員が全員そう思っているところがあるんですけど、そういう人間だからこそ起きるエラーみたいなところはまさに大切にしたいです。