なぜ歌謡曲は昭和の時代を風靡したのか? ほかの時代にはない、“昭和歌謡”だけに帯びる特殊な熱の正体
1960年代から70年代の歌謡曲には、ほかの時代の曲にはない特殊な“熱”がある。古い体制が崩れ、新たなものを生み出そうとする、もがきと再生の熱だ。
それを証明するかのような楽曲が集まるのが、YouTubeチャンネル「昭和レトロ 歌謡秘宝館」。1963年に創立されたクラウンレコード(現日本クラウン)の楽曲アーカイブのなかから、主に1960年代後半から1970年代初頭リリースの作品を集めたものだ。
ちょうど戦後の絶望から抜け、新時代を模索した、不安と希望が入り混じる変革期。流行歌は国を動かすエネルギーとなっていた。さらに、1965年のThe Ventureの来日によるエレキブーム、1966年のThe Beatles来日で、自らギターを爪弾き歌う若者が急増。1967年にはグループサウンズ(GS)ブームが大爆発するのである。
「昭和レトロ 歌謡秘宝館」は、この伝統と革命の混在を掘り下げ、堪能できるコアなラインナップ。知られざるレア音源が多く、心躍らずにはいられない。すでに第4弾まで、女性歌手をメインに、ムード歌謡、演歌、ポップスなど、キューティーかつグラマラスで弾けるようなボーカルが公開されている
最新の第5弾は、坂本竜彦、進一彦、ザ・プレイボーイ、有馬竜之介など、男性歌手をメインにムード歌謡、青春歌謡、そしてグループサウンズと、時代の節目に翻弄されつつ、果敢にチャレンジした歌手の宴、そのものである。
「ついに大放出」と言っていいのが、1964年に“ミスター・クラウン”の称号を掲げてデビューした、坂本竜彦の名曲の数々である。浅野順子とのデュエット・ジェットラインが第1弾ですでに公開されているが、ソロ楽曲は今回が初。歌謡曲の王道を歌った楽曲は大人の香りが漂う。星野哲郎、中山大三郎、北原じゅんといった錚々たるクラウンの看板作家陣が彼に与えたのは、ムーディーな世界観で、当時大人気だった日活映画の風景を彷彿とさせる。フランク永井、石原裕次郎のような包容力のある低音が好きな人は必聴だ。1964年のデビュー曲「君君君」から、個性を模索するような激しい歌いっぷりに興奮が襲いくる「霧のスカイライン」など、これまでは容易に聴くことのできなかった歌声は貴重。聴き逃してはならない。
1967年に到来したGSブームは、日本歌謡界のスターを生み出すひとつのビッグバンだった。当然ながら、生まれたのはシリウスのごとく輝くいちばん星だけではない。すぐに消えていく流れ星も多かった。たけのこのようにGSグループがデビューし、3年と短期間でブームは去り、ワーッと始まって、ワーッと終わった空気感。第5弾では、ザ・タイガースやザ・スパイダースといった大人気グループの陰で、時代に消費されてしまったGSの知られざる名曲/珍曲が聴ける。
特筆すべきは、クラウンPW品番の第1号タレントとしてデビューしたザ・レンジャーズ。「昭和レトロ 歌謡秘宝館」第1弾ですでに公開されている泉アキ with ザ・レインジャーズ「恋はハートで」ではイカした演奏を響かせてくれているが、今回はザ・レンジャーズと改名後のザ・レインジャーズ名義の楽曲が一気に公開される。特にコアなファンが多い2ndシングル曲「赤く赤くハートが」(1967年)のクレイジーさは必聴。〈赤く赤く〉が「あがぐあがく」と聴こえるような荒ぶるサビは、まさに恋のあがきを思わせる。声から手が出て頭を掴まれ、グラグラと揺らされているような激しい宮城ひろしのボーカルに圧倒されるが、まわりから指摘を受けたのか、それとも時代に合わせたのか、シングルを重ねるごとに青春歌謡のような王道の歌唱法になっていく。その変化を確認できるのもアーカイブの楽しみだ。
サ・レンジャーズのほかにも、ザ・ターマイツ、プレイボーイ、ブルージーンズなど、GSファンにはたまらないグループの楽曲リストが並ぶ。ブルージーンズは、エレキブームを起こした寺内タケシとブルージーンズのリーダー・寺内が過労により倒れ脱退。メンバーチェンジを経たのち、田川譲二がリーダーとなった第2期ブルージーンズによる歌謡GS路線だ。デビュー曲「マミー」と「愛して」(1967年)は「上を向いて歩こう」の中村八大が作曲を手掛けている。
ザ・プレイボーイの「恋をしようよ踊ろうよ」(1968年)は、意味ありげだが、はっきり聴き取れないセリフや「♪ランララン」といったハミングが混在するアバンギャルドな世界観にクラクラする。こちらは演歌の大御所・星野哲郎が作詞。さすが一筋縄ではいかない、としみじみ感動することができる。
GSブームによるグループのデビューラッシュは、新進作家発掘のきっかけにもなった。リンガース「恋はふりむかない」(1969年)は、作詞家デビュー2年目の阿久悠が担当し、作曲は三木たかし。のちに石川さゆり「津軽海峡冬景色」や岩崎宏美「思秋期」などの名曲を生み出す黄金コンビによる初期の作品で、サイケデリックで不思議な爽快感に満ちている。
最後に紹介したいのが、有馬竜之介。ソロでありながらGSのファンキーな面を見事取入れ、抑えきれず吐き出すように恋の欲情を歌う稀有な歌手だ。「土曜日に集まれ!」(1969年)は、神への懺悔が歌われているが、その懺悔の内容が〈ぼくのこころは/一日何度も 恋をする/すてきな人に 出会うとすぐに/誘ってしまう〉。あまりにも素直に思春期の鼻息の荒さをしなやかな声で、時折スタッカートも入れて歌ってくるのである。移り気な人たちは共感しかないだろう。B面の「ハートを狙い撃ち」は、失神バンドのきっかけとなったオックス「スワンの涙」のエキセントリックさを彷彿とさせる。演奏の津々美 洋とオール・スターズ・ワゴン、コーラスのザ・ノーティ・チャップスとのチーム戦で心のネジを飛ばして挑んでくるからお覚悟を。不適切のラインが厳しくなった令和ではなかなか言えない本音を代弁してくれる“ぶっちゃけ青春歌謡”とでも名付けたい。再ブームの予感がする。
昭和の歌謡曲は令和の今、なぜこんなにも心を奮い立たせるのか――。その問いは「昭和レトロ 歌謡秘宝館」を聴けば自然と納得してしまう。大衆に受け入れられてこそ、生き残ることができた時代の歌謡界。そのなかで一度淘汰されてしまったが、もがき、「新しい文化を作ろう」「時代に乗ろう」「売れよう」とする野心やパワーの火種は消えることはない。その大袈裟な愛情表現と力強さに身をゆだねよう。「昭和レトロ 歌謡秘宝館」でしか着けられない、心の火がある。聞けば委縮していたハートが、赤く赤く燃え上がる。
昭和歌謡復刻シリーズ 配信URL:https://bio.to/showakayoufukkoku1
YouTubeチャンネル「昭和レトロ 歌謡秘宝館」:https://www.youtube.com/@ShowaRetroKayouHihokan