2025年の音楽トピックスをオリコンランキングから振り返る “多様化するヒット”を可視化するために必要なこと
2025年もさまざまなトピックスがあった音楽シーン。リアルサウンドでは、今年を象徴するアーティスト、楽曲を振り返るにあたり、「オリコンランキング」に携わっているオリコン・リサーチ株式会社 マーケティング本部 本部長 小島敦史氏のもとを訪ねた。
オリコンは、2016年にダウンロードランキング、2018年にストリーミングランキングの公開を開始し、同年からはそれらとCDを合わせた合算ランキングも公開している。現在では、YouTubeチャートやTikTok音楽チャートも掲載。さらに、2025年には「ストリーミング急上昇ランキング」も公開するなど、さまざまなプラットフォームの動きを可視化しようとしている。
今回、各月のアーティストや楽曲の動向を把握するため、月間ランキング各種を取材当日に参照しながら、2025年のランキングで注目したアーティストや楽曲、そしてヒットが多様化する時代のランキングのあり方についてなど、話を聞いた。(宗像明将)
「急上昇ランキング」で見えてきたストリーミングヒットの新たな動向
――現在は特にストリーミングデータの動向が注目されていますが、オリコンとしてはどのように捉えていますか?
小島敦史(以下、小島):特にここ数年は音楽の聴かれ方がすごく多様化していて、ヒット自体も多様化しています。なので、「流行はこのランキングだけ見ていれば大丈夫」ということは難しくなってきているんじゃないかと思うんです。CD、ダウンロード、ストリーミングはもちろん、シーンやランキングごとにメインのプレイヤーが変わっているので、それを我々がしっかりつかんで、世の中にランキングとして提供することで、多様化したヒットを、それぞれのランキングで網羅していければと考えています。
――2025年4月から「オリコン週間ストリーミング急上昇ランキング」を開始しましたが、その狙いはどんなものでしたか?
小島:ストリーミングは上位が固定化されてしまいがちなところもありますが、昔の楽曲が音楽番組で歌われたり、番組で使われたりすると、ストリーミングの再生数に顕著に影響してくるんです。年末年始に『NHK紅白歌合戦』の内容が影響するようなところもしっかり捉えるという意味でも、ストリーミング急上昇ランキングを開始することにしました。
――ストリーミング急上昇ランキングで印象的だった楽曲はありますか?
小島:4月に清水翔太さんの「PUZZLE」が急浮上したんです。彼の母校であり、講師を務めたスクールの移転を題材にしたMVがバズったようで、そういったストーリーも相まってストリーミングが伸びた。それを我々がニュース配信としてお伝えすることによって、さらに拡散されたのが印象的でしたね。
――『オリコン年間ランキング2025』で、印象的なアーティストや楽曲はありましたか?
小島:上半期はMrs. GREEN APPLEの勢いがすごかったですね。たとえば、「ライラック」を中心としたMrs. GREEN APPLEの作品が、1月の合算シングルの月間でトップ10のうち6曲、ストリーミングだとトップ20のうち半分の10曲がランクインしている。1月から6月まで、ストリーミングはMrs. GREEN APPLEがダントツで1位という感じでした。
――6カ月連続でストリーミング1位というのは驚異的ですね。
小島:Mrs. GREEN APPLEは本当に記録がてんこ盛りです。トップ100に10曲以上ランクインしているのが、2024年1月8日付から2025年12月29日付までで104週連続なんです。ニュースにもなりましたけど、オリコン史上初の総再生数100億回超えも達成しています。本当に幅広く聴かれている印象ですね。1曲だけではなくて、いろんな曲が聴かれているというのも特徴だと思います。
――7月には、Mrs. GREEN APPLEのアニバーサリーベストアルバム『10』がリリースされましたね。
小島:7月の『10』は、合算、デジタルダウンロード、CDのすべてで1位を獲得しました。ストリーミングだけではなく、フィジカルにもこだわって展開されていて、渋谷ではジャック広告の展開もされていたと思いますが、網羅的にご活躍された印象ですね。
――2025年という年を象徴するアーティストは、やはりMrs. GREEN APPLEでしょうか?
小島:そう思います。
――Mrs. GREEN APPLE以外で印象的なアーティストはいたでしょうか?
小島:7月のストリーミングで、HANAの「Blue Jeans」が1位になったのが印象的でした。オーディション番組発のアーティストの人気は、近年ずっと続いている傾向ですが、今年でいうとHANAとtimeleszが挙げられますね。
――HANAの楽曲はランキング上でどのようなアクションを見せたのでしょうか?
小島:HANAは1月にメンバーが発表されて、最終審査曲だった「Drop」が2月の月間ストリーミングランキングで18位に上昇しています。この瞬発力はなかなかないことです。4月にメジャーデビュー曲の「ROSE」が週間ストリーミングランキングで1位になって、月間では2位。そして7月に「Blue Jeans」が1位になって、女性グループ史上初の3週連続1位を獲得しました。9月までずっと週間1位でしたね。HANAがストリーミングランキングで存在感を示したという印象でした。10月までトップ3に入っていて、11月まで上位にいましたね。このHANAの活躍は、今年を象徴するヒットだったのではないかと思っています。
――timeleszについてはいかがですか?
小島:timeleszはオーディションの最終審査曲だった「Rock this Party」が2月に配信されて、ダウンロードで週間1位になり、月間でも2位でした。同時に『Hello! We're timelesz』というアルバムがデジタルオンリーでリリースされたのですが、「Rock this Party」と共にグループ名の改名前からも含めて初のデジタル配信で、ベスト盤的な配信オンリーの楽曲集だったんです。それもデジタルアルバムで1位だったので、この週はデジタルシングル、デジタルアルバムともにtimeleszが1位でしたね。また、11月リリースのシングル『Steal The Show/レシピ』はCD売上が50万枚を超えて、グループ名の改名前も含めた自己最高の初週売上を記録したのも印象的でした。
1月は米津玄師、2月はサカナクション……2025年を各月のヒット曲から振り返る
――2025年は、1年を通してアニメタイアップのヒットも多かったのではないでしょうか?
小島:1月に米津玄師さんが劇場版『機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-』の主題歌「Plazma」と、TVアニメ『メダリスト』の主題歌「BOW AND ARROW」の2曲を配信しました。「BOW AND ARROW」は羽生結弦さんとコラボしたMVも話題になりましたが、この2曲を筆頭に米津さんの勢いが途切れることはありませんでしたね。
――2月にはサカナクションの楽曲も話題になりました。
小島:「怪獣」ですね。TVアニメ『チ。 ―地球の運動について―』のオープニングテーマですが、配信初週にここまで伸びるとは思っていませんでした。もちろん人気のあるアーティストなので上位に来ることはありますが、週間ストリーミングランキングの初登場3位に入ってきたのには驚きました。7月は、LiSAさんの「残酷な夜に輝け」とAimerさんの「太陽が昇らない世界」が、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』 の主題歌として、ダウンロードの月間で1位、2位に入りました。同じく7月に、TVアニメ『ダンダダン』第2期オープニングテーマであるアイナ・ジ・エンドさんの「革命道中 -On The Way」も6位に入っています。
――アイナ・ジ・エンドはその後も上位をキープしていますね。
小島:8月にはストリーミングで6位まで上がってきて、9月は4位、10月も5位と、ずっと上位をキープしています。BiSHでの活動を終えた後、ソロアーティストとしてもヒットしたなという印象です。
――9月以降はどうでしょうか?
小島:9月はまた米津さんです。劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の主題歌「IRIS OUT」が、9月のストリーミング・合算・デジタルシングルすべてで1位でした。デジタルシングルの2位には、宇多田ヒカルさんとのコラボによるエンディングテーマ「JANE DOE」が入ってきました。10月以降は「IRIS OUT」と「JANE DOE」が1位と2位という結果がずっと続いていて、本当に米津さんは1年を通してタイアップソングの勢いがすごかったです。
「IRIS OUT」に関しては、オリコン史上最高週間再生数を記録していまして、1週間で3,219.9万回でした。そのタイミングで、TVアニメ『チェンソーマン』オープニングテーマ「KICK BACK」もストリーミング急上昇ランキングで1位になりました。アニメタイアップではないですが、米津さんは「1991」(映画『秒速5センチメートル』主題歌)も10月のストリーミングで10位、デジタルシングルで4位に入ってきて、毎週上位に入っています。9月以降は特に、米津さんが今年を象徴する活躍をみせていたと言えるのではないでしょうか。
――今年のランキングを見ていると、男性アイドル/ボーイズグループの目立ったストリーミングヒットが少なかったように感じます。そんななか、11月の月間ストリーミングランキングでは、M!LKの「好きすぎて滅!」が上位に入りました。
小島:推し活文脈以外のところで広がりを持たせられたというのが大きいですね。2月に配信リリースされた「イイじゃん」もバイラルヒットを記録していましたが、この1曲だけで終わらなかったのが本当にすごいと思います。個々のメンバーの活動も増えてきていますし、M!LKは今年の顔の1組だったと言えると思います。
――他に年間を通して印象的だったアーティストはいますか?
小島:アソビシステム KAWAII LAB.のアーティストは、2024年以前の楽曲もいまだに聴かれています。CUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」、CANDY TUNEの「倍倍FIGHT!」、それにFRUITS ZIPPERと、1年を通して何かしらの楽曲がランクインしている印象がありました。=LOVEや超ときめき♡宣伝部も含めて、女性アイドル文化が新たなフェーズに入った感じがありますよね。
――アルバムで象徴的なランキングの動きはありましたか?
小島:アルバムで言うと、Snow Manがベストアルバム『THE BEST 2020-2025』と、オリジナルアルバム『音故知新』を今年発売して、ともにミリオンを達成しました。矢沢永吉さんがアルバム『I believe』で、「アルバム1位獲得最年長アーティスト」歴代1位(76歳1カ月)を獲られたというトピックもありましたね。藤井 風さんの『Prema』や星野源さんの『Gen』もアルバムならではのヒットだったと思います。
――過去の楽曲が再び注目を集めるリバイバルヒットについてはいかがでしたか?
小島:ストリーミング急上昇ランキングは、平成のリバイバルヒットが目立ちました。今年はORANGE RANGEの「イケナイ太陽」、YUIさんの「SUMMER SONG」など夏ソングが多くランクインしたのですが、真夏日や熱帯夜のタイミングで、サザンオールスターズの「真夏の果実」やaikoさんの「花火」、ゆずの「夏色」、RIP SLYMEの「熱帯夜」などが入ってきたのも興味深かったです。最近は、平成の楽曲を音楽番組やバラエティ番組で取り上げることが多いですし、「平成リバイバル」は、今年のヒットの傾向の一つとしてあったと思っています。TikTokを中心に若い世代にも支持されていた印象もありますね。