なぜThe Beatlesは永遠なのか? 最新技術で30年ぶりに蘇った『ザ・ビートルズ・アンソロジー』から始まる“新章”
2025年、The Beatles史を総括する大規模なアーカイブプロジェクト『ザ・ビートルズ・アンソロジー』が、30年ぶりに全面的な再編集を施され、ついに決定版「ミュージック・コレクション」としてリリースされた。1995~96年に展開されたアンソロジー・シリーズは、ドキュメンタリー映像、音源集、書籍を通じてThe Beatlesの歴史を体系化した巨大プロジェクトだった。しかし当時は技術的な制約が大きく、音源の分離や修復、カセット音源の復元などに限界があったことは否めない。大量の未発表素材が未だ存在し、「現在のテクノロジーを用いればより良くなるはず」という“当事者”たちの想いは募る一方だった。
技術革新とともに実現した2025年版アンソロジー
2025年版アンソロジーは、そうした想いに応えるために始まった。ここ十数年で急速に進化した音源解析技術――とりわけ、ピーター・ジャクソン率いるWingNut Filmsが開発したAI音源分離(MAL:Machine-Assisted Learning)は、雑音に埋もれたテイクのなかからボーカルや楽器を驚異的な精度で抽出できるようになった。ジョン・レノンのピアノのペダルノイズ、ポール・マッカートニーの小さなハミング、リンゴ・スターのクローズドリムショット、ジョージ・ハリスンの指板ノイズ。従来は聴こえなかったものが次々と姿を現し、音源そのものが新しく聴こえる。本来アーカイブとは“保存”のためのものだが、The Beatlesの場合は“リビルド(再構築)”そのものになっている点が特徴的だ。
象徴的なのが、2023年から始まった「スリートルズ」(ポール、ジョージ、リンゴの3人によるプロジェクト)3部作の成立である。ジョンの残したカセット音源から声を抽出し、ポールとリンゴが現在の演奏で仕上げた「Now And Then」は、世界中で大きな反響を呼んだ。同じ技術を用い、すでにリリースされていた「Free As A Bird」と「Real Love」もジョンの声を息遣いも含めて生々しく蘇らせることに成功。1970年代のジョンのデモ音源と、スリートルズの新録音を組み合わせるという“時空を超えたセッション”を実現させたのだ。
これらは単なる感動ストーリーではない。むしろ重要なのは、ポールとリンゴが「テクノロジーを使ってThe Beatlesを蘇らせること」にためらいを見せなかった点だ。The Beatlesは1960年代から常に技術革新の最前線に立ち、録音という概念そのものを更新し続けた。4トラックを極限まで駆使して作られた『Rubber Soul』、テープループと逆再生をコラージュした「Tomorrow Never Knows」、壮大なオーケストラ録音を多重合成した「A Day in the Life」。彼らはスタジオを“実験室”に変え、当時のテクノロジーを芸術に転換する最初のポップグループだった。その精神が、AIという21世紀的技術と自然に接続したのは、むしろ必然である。
『アンソロジー4』というThe Beatlesの新章
2025年版アンソロジーは、このテクノロジーの継承を視覚的にも明確に示す。Disney+「スター」で11月26日より独占配信されるドキュメンタリー映像には、従来の8章構成に加えて、エピソード9が追加された。1994年から1995年にかけてポール、ジョージ、リンゴが、本アンソロジー制作のために集結し、The Beatlesとしてともに歩んだ人生を振り返る、未公開の映像が収録されている。映像修復の技術が格段に向上したことで、1964年のアメリカ上陸から1969年のルーフトップまで、まるで昨日撮影した映像のような鮮明さで蘇る。
しかし今回のアンソロジーが過去の総集編にとどまらない最大のポイントは、シリーズ初となる『アンソロジー4』の追加収録だ。これは単なる続編ではなく、The Beatlesの創作過程の最深部を解き明かすための新章である。既存のアンソロジー1~3では収まりきらなかった音源、技術的に復元できなかったテイク、あるいは楽曲評価の変動により再注目されたセッションが綿密に選び直されている。
その目玉のひとつが、「Strawberry Fields Forever」(録音:1966年)のTake 26だ(初出は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band: 50th Anniversary Edition』)。完成版は、テンポもキーも異なるふたつのテイク(Take 7とTake 26)を物理的に切り貼りするという当時としては前代未聞の編集手法で制作された。しかしTake 26をフルで聴く機会はこれまでほとんどなかった。ここでは、ジョンが苦心して探し求めた夢のなかの風景が、メロトロンとチェロ、ブラス、歪んだギターによって具現化していく過程そのものが垣間見える。The Beatlesの楽曲は決して魔法などではなく、バンドとプロデューサー、そして優秀なエンジニアたちの努力と執念の積み重ねによって生み出されたという当たり前の事実が、この音源からあらためて実感できる。
時計の針を巻き戻し、活動初期の名曲「This Boy」(録音:1963年)からは、ポールが発声をミスり、ジョンと一緒に思わず吹き出してしまうTake 12を初披露。ファンのあいだで長らく伝説だったこのテイクは、ふたりの仲睦まじい様子が窺える。「If I Fell」(録音:1964年)も同じだ。ジョンとポールが高難度のハーモニーを合わせようとして、互いの息を探り合い、微妙にズレながらも必死に寄り添っていく。その過程には、「This Boy」とは対照的に、ライブバンドとして絶頂期だった頃の彼らの関係性――対立や嫉妬、連帯と信頼――が凝縮されているように見える。
何より感動的だったのが、1969年1月30日のルーフトップ・コンサートから「Don't Let Me Down」の初回テイク。音としての完成度で言えば決して完璧ではない。ジョンは一瞬歌詞を落とし、ポールのハイトーンはやや不安定で、ジョージのギターは風に煽られ、ビリー・プレストンのエレクトリックピアノが全体を辛うじて支えている。しかし、その不安定さこそが最後のThe Beatlesのリアルな息づかいだ。“ライブ活動休止”という沈黙を破り、寒空の下およそ2年半ぶりに人前で音を出す“瞬間”に立ち会うことができるというだけで、『アンソロジー4』の価値は揺るぎないものになる。
これらの音源が並ぶことで、『アンソロジー4』は一種のThe Beatlesの物語の再編集として機能する。従来のアンソロジー1~3は、The Beatlesの創作を年代別に整理し、アウトテイクを記録として提示する性格が強かった。しかし今回の『アンソロジー4』は、単なる資料価値を超え、The Beatlesという存在を再解釈するための作品になっている。つまり、未完成のテイクや失敗の断片を通して、彼らがどれほど実験的で、どれほど人間的で、どれほど現代的なアーティストだったかを描き直しているのだ。
60年を経てもなお、The Beatlesは終わらない。彼らは常に新しい姿で現れ、世界にとっての現在を更新し続ける。2025年版アンソロジーは、その永遠性を証明する、最も美しいドキュメントである。
■リリース情報
『ザ・ビートルズ・アンソロジー』
発売中
仕様:12LP/8CD
販売リンク:https://umj.lnk.to/TheBeatles_Anthology
『ザ・ビートルズ・アンソロジー』アンソロジー4
発売中
仕様:3LP/2CD
販売リンク:https://umj.lnk.to/Anthology4
■ポップアップストア情報
期間: 2025年11月21日(金)~ 11月30日(日)
場所: 81 BELOW(渋谷区神宮前4-26-14 B1F)
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詳細:https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/news/2025-11-17/
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