Travis Japanが刻む“宿命” デビュー前から積み上げた経験を発揮したワールドツアー・バンコク公演を振り返る
今回のバンコク公演では、もはや日本公演ではお馴染みの相棒“トラッコ”も登場。メンバーを乗せて会場をまわり、オーディエンスとの距離をさらに縮めていく。バックステージと客席との距離の近さは、この会場ならではのもの。悲鳴のような大歓声はきっと彼らにもダイレクトに届いただろう。Travis Japanの魅力をまた違った角度から引き出す演出と圧巻のパフォーマンスは、タイでも健在。このトラッコも、この日のために日本から持ち込んだと思うと、胸が熱くなる。
MCパートでは、川島が「クリーニング」と言いながらステージに舞った紙吹雪をお掃除。ほのぼのとした雰囲気はこの地でもそのままだ。中村が乾杯したいと切り出し、オーディエンスにタイ式の乾杯の仕方を聞くと、現地のファンが声を張って熱心にレクチャー。ほかにもメンバーそれぞれが覚えたタイ語で甘い言葉を披露するなど、積極的なコミュニケーションのやりとりが生まれる。
アコースティックバージョンの「Okie Dokie!」では、後方の客席からボックス型のライトを使って「T♡J」を掲げるサプライズが。偶然にも、筆者も“T”の一部となったのだが、実は曲が始まるまでそのライトがあることに気が付かなかったのだ。周辺のファンから水紋のようにこのライトの存在が一帯へ伝わり、慌ててライトを手にした。スイッチの入れ方に戸惑っていると後方の観客が親切に教えてくれたほか、空席にはスタッフが駆けつけてカバーするなど、あたたかい連携プレーも。ライトが広がる景色を見て、メンバーは喜びの表情を浮かべていた。
しっとりとした雰囲気から少しずつ回転数を上げるようにして、ここからディープな世界へ。松倉海斗がひとりステージの前方へ。流暢なラップとともに「"Fireflies -アカペラRap ver.-"」へと雪崩れ込み、そこに中村や吉澤閑也らも続き、ストリートの雰囲気を作り出す。ゴールドの煌びやかな衣装に着替えたメンバーは、タイのダンスグループであるD Maniac StudioとBloc Dを迎えて、コラボステージを展開。クールなダンスを通したコミュニケーションだ。トークではチームごとに固まって並ぶのではなく、Travis Japanのメンバーがダンサーのあいだに入って馴染むようにして会話を繰り広げていく。些細なことだがダンス、もっと言えばエンタメを愛する者のあいだに一切の壁はないというメッセージを受け取った気持ちになる。
ワールドツアーならではの演目が、先述の通り“和ver.”と題した楽曲――「"99 PERCENT-和ver.-"」「"VOLCANO -和ver.-"」の2曲だ。キレと力強さがある連獅子に加え、この日担当した松田の力強い和太鼓のエネルギッシュな音色が響く。原曲に和のアレンジを施し、彼らのツールとジャンルレスな幅広い表現力を知らしめていった。グループ名に冠した“Japan”の意味に説得力をもたらしながら、これこそがTravis Japan、7人のパフォーマンスだ――そう記憶に深く刻み込むようなパートだった。
これらは単に「日本のグループだから」という安易なものではなく、10代の頃からさまざまな舞台で経験を積んできた彼らだからこその、重みのあるパフォーマンスだった。メンバーたちはそれぞれ鍛錬を積んできた。Travis Japanの宿命とも言えるダンスを――時には涙を見せながら――磨き続け、アクロバット、歌唱と一つひとつを着実に積み上げてきた。だからこそ、今のTravis Japanがある。そんな彼らの軌跡をも感じた。
本編のラストを飾ったのは、中村の監修による楽曲「BO$$Y」。激しいダンスをラストに持ってくるところにストイックさが表れた、圧巻のパフォーマンスだった。Travis Japanの真髄を体感したのと同時に、心がかき立てられ満たされる、そんな濃密なパフォーマンスだった。
ダブルアンコールを含め2時間ほどのライブは、あっという間に幕を閉じた。最後、中村が汗を拭う仕草をしていたのだが、それは汗なのか目頭が熱くなったのか――。それは定かではないが、メンバー全員が浮かべた晴れやかな表情からは、ツアーのすべてをやり切ったという充実さが伝わってきた。そして、それと同時に、きっと彼らはさらなる高みを目指すのだろうという確信も生まれたのだった。
「ダンスって誰とでも共通言語になれる」とは川島がかつて口にした言葉だ。国籍も言語の壁も乗り越え、心を通わせられるのがダンス。それはライブで場所でも、バラエティ番組という場所でも、彼らに一貫して感じてきたことだ。
夢を語ることは誰にでもできるが、実際に一歩、また一歩と踏み出していくことは容易ではない。どんな状況であろうとも意志を持ち、メンバーともに経験を積み上げていく。一曲ごとにストーリー性に富んだダンスパフォーマンスと愛らしいキャラクターを武器に勇往邁進な彼らの姿がなんとも頼もしかった。