『ブレイクマイケース』こだわりのサウンドに迫る ハーフアニバーサリー記念対談:プロデューサー×コンポーザー
スマートフォンアプリ『ブレイクマイケース』のリリース半年を記念し、本作プロデューサーと参加コンポーザー・YiUによる特別対談をお届けする。プロデューサーが本作に込めた意気込みと、キャラクターに深く寄り添った音楽の意図、さらにYiUが手掛けた特務部のロックサウンド制作の葛藤や工夫について対話。70曲以上に及ぶBGMやパーソナルソングの膨大な楽曲数の背景には、「サウンドとキャラクターが一体となる世界観を作りたい」という情熱があった。ユーザーの反響を受け、今後も広がり続ける『ブレイクマイケース』の音楽体験についてのこだわりを感じてもらいたい。(編集部)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
『ブレイクマイケース』がサウンドに注力する理由
——まずは、『ブレイクマイケース、ハーフアニバーサリーおめでとうございます。
プロデューサー&YiU:ありがとうございます。
プロデューサー:サウンドに力を入れてきた作品なので、音楽関係の媒体でお話が出来ることをとても嬉しく思っています。本日は、皆さんにたくさん『ブレイクマイケース』(以下、ブレマイ)の音楽についてのお話ができればと!
YiU:ハーフアニバーサリーということで、もうそんなに経ったのかという感覚です。自分自身も楽曲を制作したアプリがリリースされた喜びを噛み締めています。
プロデューサー:アプリリリース後には本当にたくさんのお声をいただいて。実際にキャラクターたちが愛されているのを見ていると、ここから長い時間を掛けてどんどん進化させていきたいですし、何年も愛されるタイトルにしたいという気持ちがすごく強くなりました。一方、僕にとってはまだこの21人のキャラクターと物語世界をお披露目したばかりだという感覚があるので、これから時間を掛けて大きなストーリーを紡いでいき、その中で彼らのいろんなところを知ってもらってもっと好きになってもらえたらなと思っています。
——ユーザーからの声も力になりますよね。
プロデューサー:はい。ユーザーさんの声を聞いているだけでもやりたいことがたくさん浮かんでくる状況です。やりたいことも星の数ほどありますし、現状その中のほんの一部しかお届けできていないことにもどかしさも感じていますが、今後絶えず進化していく『ブレマイ』にさらに注目していただければと思っています。
YiU:こうしたソーシャルゲームでは楽曲を作る作家の名前が出てくることはなかなかないので、貴重な経験をさせていただけているなと思いつつ、やはりユーザーさんからの反応を見ていて、自分の作った楽曲を好きになってもらえていることをとてもありがたく感じています。
——主題歌にプレイ楽曲、キャラクターのページで響く楽曲、それぞれの部署ごとにもつけられた楽曲、さらにナイスを集めて解放するパーソナルソング、イベント曲……ローンチされた時からすでに楽曲の数が非常に多いイメージでした。実際、ローンチ前にはどれくらいの曲数を用意されたのでしょうか。
プロデューサー:パズルBGMだけで40曲以上用意しました。そのほかにパーソナルソングを21曲、メニューやストーリーなどで流れるBGMも数多く用意しましたので、合計100曲以上となりました。数字にすると、自分でも驚きますね(笑)。最近、パーソナルソングやサウンドトラックをまとめたCDも発売したのですが、3枚組になっているのを見た時にも「自分たちはこんなに頑張ってきたんだな」と改めて感じました。
——音楽にこだわったとのことですが、たとえばアイドル作品のような音楽が中心にあるゲームではない『ブレマイ』の世界に音楽をリンクさせようと考えたのはどういった経緯だったのでしょうか。
プロデューサー:『ブレマイ』はどうしてサウンドに力を注いでいるのか、とよく聞かれますが、まず本作のメインゲームにパズルゲームを起用したことが深く関係しています。弊社はマッチ3パズルゲームの『スタンドマイヒーローズ』を8年運営してきた経験があったので、マッチ3パズルに対してはノウハウがありました。『スタンドマイヒーローズ』もそうですが、アイドルものやファンタジーの世界とは違って現実社会を舞台にしたリアルなストーリーのゲームになっているので、キャラクターが画面上で躍動するゲームに落としこみにくいということがあり、マッチ3パズルのような概念的なゲームを中心に据えることは早い段階から決めていました。ただ、いつものマッチ3パズルをやるのは新規性がないし、なにかもう一工夫凝らして『ブレマイ』のキャラクターをさらに好きになってもらえるものにしたい、スパイスを加えたいと考えた結果、『ブレマイ』の世界観やキャラクターの魅力を肌で感じられるように音楽を作り込むことを選んだ、という過程でした。それがきっかけです。
——そんなプロデューサーさんからオーダーを受けて楽曲を制作されるYiUさんですが、難しかったのはどんなところですか?
YiU:わたしが制作させていただいたのは作中で身辺警護代行を担当している特務部のパズルBGMです。特務部はロックをテーマにしている部署で、やはりほかの部署とは少し毛色が違うというところで、どういう方向性に持っていけばAporiaに馴染むのだろうか、特務部としていきすぎない音にできるのだろうか、というところを一番意識していました。特務部だけ生感が強くなってしまったらいけないな、とか。もともと「こういった方向性にしたい」ということで参考曲もいただいていたのですが、その幅も結構広かったんですね。ひと言で「ロック」と言っても“なんでもやっていい方”のロックだなと。
プロデューサー:この件については、本当にYiUさんに助けてもらいました。所属別のサウンドデザインの話にもなるのですが、「ロック」というテーマがすごく難しかったんです。そもそもインストのロックは珍しいので。そこに在るべきボーカルやメッセージが抜けてしまう感じにもなってしまうので、内容を聴かせる音楽にしづらいなというところでご苦労をかけました。ヒップホップやR&B、ディスコサウンドはビートがあればお洒落に落としこめるのですが、ビートよりもどんなメッセージや景色を伝えるかが軸になるロックは文学性の高い音楽だとも思っているので、それを『ブレマイ』の世界観に落としこむ上でYiUさんは月並みなロックと感じないような音作りをしてくださいました。本当に感謝しています。
——こういったコンテンツでの楽曲制作によって表現の引き出しは広がりましたか?
YiU:裏で鳴っている音楽と表で鳴っている音楽は作る際の意識がやはり違うなということを感じました。裏で鳴っているBGMはいかにメインコンテンツを邪魔しないかということが重要で。主張せずに耳馴染みある音を鳴らせるかがメインになってくるのですが、今回は曲自体を聴かせなければいけなかったので、どうしたら聴いている人の耳に残るかを考えなければいけないというのは、これまでの制作との大きな違いでしたね。
“6つの部署”の音楽ジャンルとキャラクターの個性
——すべての部署のサウンドが違っていて、ジャンルによっても部署の個性を感じさせているかと思います。その個性付けはどのように作っていかれたのでしょうか。
プロデューサー:Aporiaの6つの部署の雰囲気を音楽ジャンルの違いによる特徴づけることは、メインシナリオライターの藍田創先生がシナリオディレクターと最初に作った設定資料から連想しました。ただ連想すればよいというわけではなくて、それぞれの部署のサウンドのジャンル感と距離が離れるように配置しなくてはならないことが難しかったですね。なるべくジャンルをばらけさせて、プレイヤーが曲を聴いたときに「この音ならこの部署っぽいな」と感じられるような状況を生み出すことを目指しました。サウンドデザインでAporiaスタッフ達の個性を記号化することで、彼らにより愛着を持っていただけるのではないか、という考えが常にありましたね。
——サウンドに力は入れているけれど、やはりキャラクターが大切である、というこだわりですね。
プロデューサー:やはり、物語の中でキャラクターを好きになってもらって、ユーザーさんの日々を豊かにする、というのがcolyのタイトルに一番求められていることだと思っています。サウンドやゲームシステムに任されることは、その世界に彩りを添えたり、没入感を高めさせたりすることになるかと。「サウンドありき」で作っていくことは基本的にはなく、そこにフィットするサウンドを作っていくということにこだわっています。
——そんなサウンドメイクにおいて、YiUさんが「特務部の音楽」をご担当されることになったのはどういった経緯だったのでしょうか。
プロデューサー:『ブレマイ』は音楽ゲーム系のコンポーザーやボカロPなどのインターネットで活躍されているクリエイターを多く起用させていただいたのですが、全体的に「打ち込み系」の音楽に特化した座組みになってしまったので、特務部に欲しかった「感情が豊かなロック」のサウンドをお願いする方に迷ったんです。ロックは気合一発この人に! という形にしたいと思ったところで、YiUさんが浮かびました。「『ブレマイ』の中のロック」をお願いしても柔軟に対応してくれそうなクリエイターさんでした。
——実際にロックサウンドを作ってほしいというオファーがあった時にはどのような感想がありましたか?
YiU:ロックかぁ……と思いました(笑)。最初はびっくりしましたね。実はわたし、ギターが弾けないので、どうやって作っていこうかなと思いましたし、リファレンスも親しみやすいポップロックの路線ではなくかなりニッチなロック楽曲が並んでいたので、これを作れるのだろうかと悩んだんです。ただ、メロディのテーマ性や何かを訴えかけるようなリファレンスが多かったので、ピアノでフレーズを作って、それをギターに落とし込んで制作していきました。
プロデューサー:確かにYiUさんの曲で鳴っているギターのフレーズって、すごく「ピアニスティック」なんですよね。細かいパッセージやアルペジオが光っているというか。伴奏も、単にリズムを強調するようなものではなくて、しっかりと感情が乗っていると思います。「特務部」の曲は、特に情緒的な部分を慎重に描きたかったので、YiUさんにお願いして本当に良かったです。