加藤ひさしがロックで与えたい衝撃「このまま死ねないよ」 THE COLLECTORS、26枚目のアルバムを語る

必然的に、歌詞が戦争から逃れられなくなった

――では、『ハートのキングは口髭がない』ですが。今回、いつにも増して世のなかや世界の問題に直対応している曲が多いですよね。

加藤:うん。今、大きな戦争がふたつ起こっていて、それを考えただけで明るい曲がなんにも書けなくなったんだよね。必然的に、歌詞が戦争から逃れられなくなった。

――そうではないイノセントなラブソング2曲、「キミに歌う愛のうた」と「Hold Me Baby」は、バランスを取ったのかなと。

加藤:まさにそう。俺はあとから歌詞をどんどん書いていくから、レコーディングで演奏を録り終わったあとに歌入れが始まるんですよ。歌詞ができている曲から歌を入れていく。それで「ガベル」と「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」を歌入れしてたら、プロデューサーの吉田仁さんが「そろそろ普通の歌詞、書いて」って。

――(笑)。

加藤:「そうかあ」と思って書いたのがこの2曲。自然に出てくるのは、今自分のなかでいちばん熱いものじゃん、どうしても。もう争いに対する怒りしかなかったんだよね。

――戦争だけじゃなくて、「ワンコインT」は……最初は「CHEWING GUM」や「オートバイ」的な、ガジェット系の歌かと思ったら、後半で貧富の格差への言及になる。

加藤:そう。「ふざけんな、ファストファッション」っていう歌なんだ。あと、「This is a True Story」がそうなんだけど――悪いことじゃないんだけど、オリンピックで日本が金メダルを獲ると、ワー!って盛り上がるじゃない? そこで俺は日本の人が金メダルを獲っても、全然そういう気持ちになれないんだよ。国別の競い合いが世界を悪くしているような気すらする。なんでだろうと考えた時に、「人のお手柄とかどうでもいいや」と思ったわけ。「自分の話を聞かせてよ」って。大谷(翔平)のホームランは、大谷が喜べばいいよ。君の話を聞きたいんだよ、俺は。「自分だよ自分! 自分のことを話せ!」っていう気持ちになったんだよね。

――この曲で思い出したんですけど、1993年にJリーグができて、サッカー熱が高まって、日本が『(FIFA)ワールドカップ』に行けるかどうかで盛り上がった。結局「ドーハの悲劇」(1993年開催『FIFA ワールドカップ アメリカ大会』アジア地区最終予選、日本代表対イラク代表戦)で行けなかったけど、あの時から、みんな一丸となって日本を応援する風潮ができた気がして。

加藤:ああ、そうだね。たしかに、それまではオリンピックがあっても、みんなそんな熱心に応援してなかったもんね。

――当時、違和感があったんです。「え、みんなそんなに日本を好きだったの?」っていう。

加藤:そうなのよ! 俺たちはまだ戦争は体験してないけど、なんか妙な一体感がよぎったというか。

――僕は加藤さんより年下ですけど、たぶん同じ感覚で。帝国主義の下、日本国民が一丸となって戦争に突き進んでいったのは間違いだった、国民全員がひとつの方向にまとまるのは怖いことだ、という意識が刷り込まれている。国威高揚とか冗談じゃない、という。

加藤:そう。それがほんとにイヤなの。振り返るとさ、俺が生まれたのは戦争が終わって15年後なのよ。今思うと、15年前なんて昨日のようじゃん。戦争の爪痕が残ってるなかで生まれて、友達のお祖父ちゃんは戦死していたりするわけだよね。大学生の頃でも上野に行くと傷痍軍人が白い服を着て、目の前に缶を置いて、そこにみんながお金を入れるような光景がそこらじゅうにあった。そういう時代を知っているかいないかで、ずいぶん違うと思うんだよね。

――「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」は、どんな始まり方だったんですか?

加藤:『イギリスカブレ』の撮影でロンドンに行く機内で、『落下の解剖学』っていうフランス映画を観て、それが面白かったんですよ。小説家の夫婦が山荘で暮らしていて、旦那さんが転落死するんだけど、彼を奥さんが殺したのか、事故なのかを法廷で争う話。検察側は奥さんが殺したと思っていて、家にあったメモとかいろんなところから殺意を匂わせるような文面を発見するわけだよね。それを法廷で問い詰めるんだけど、その時に奥さんが、「あんなに恐ろしい話ばかり書いているけど、スティーヴン・キングは殺人鬼じゃないわ」って言っていたのがすっごく印象的で。そうだよな、本当に人を殺してるのは戦地に若者を送ってる連中だし、それを見過ごしている俺たちだし、って。そういう歌にしようと思った。

THE COLLECTORS「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」MUSIC VIDEO

――そう、最後に〈なんにも やらない ボクたちかもね〉と自分に返ってきますが、「シルバーヘッドフォン」も同じ構造で。〈あぁミサイルが落ちたって気づかないさ あぁボクの銀色のヘッドフォン〉という歌だけど、後半ではそのヘッドフォンのなかにボブ・ディランのプロテストソングが入ってくる。

加藤:現実から逃げ切れないんだよね。「シルバーヘッドフォン」は、先日、娘に会ったらAppleの銀色のヘッドフォンを使ってて。8万5千円のやつ。それがやたらかっこいいんで、びっくりしたわけ。ちょっと聴かせてもらったら、すごくいい音で、「シルバーヘッドフォンいいなあ」「これをかけてたらもう全部忘れるわあ」と思って。娘がAppleのヘッドフォンを買ってなかったら、できなかった曲だね(笑)。

――あと「スローリー」の〈そう 生きるって事はいちばん速度のおそい死に方だって事さ〉というラインも、強烈でした。

加藤:これは俺が考えたフレーズじゃないの。blurのグレアム・コクソンの1stアルバムに入ってる曲で……ずいぶん前に聴いたんだけどね。〈人生最低最低まったく最低 生きるって事はスピードの遅い死に方だ〉っていう歌詞だったの。「最高にいいこと言うな」と思ってさ。でも、〈最低最低〉のままじゃなくて、それをもっと肯定的に使いたいな、と。いつかこの言葉を使った曲を書きたいなと思ってたの。

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