サザンオールスターズ、“特別で異様な空気感”を上回るライブパフォーマンス ROCK IN JAPAN FESTIVAL徹底レポート
ドラムのキックに乗って「もっといけますか? みなさんを愛しています!」と桑田が叫び、あのシンセのリフが鳴り始め、続いてそこにギターのあのフレーズが重なって「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」のイントロになっていく。たまらない瞬間である、何十年にわたって、どこで何度味わっても。
桑田ならではの、時代へのアイロニーと問題意識を綴った歌詞は、その毒の強さゆえか、当時は(大ヒットしたのに)ライブで一緒に歌う人はほぼいなかった。が、今は頭から最後までフルでみんなで大合唱するのが、定番になっている。間奏ではダンサー(ひとり)による演舞もあり。
続く「みんなのうた」には、ふたつのお約束がある。ひとつは、曲の頭に、その日の挨拶のような、バラード調のオーバーチュアが付け加えられること。今回は初めて披露される演歌調だった。
「ひたちなか ROCK IN JAPAN ありがとうみなさん 夏フェスは暑すぎて おじいさんとおばあさんはグッバイ 行かないでサザン 泣かないで渋谷さん 緑黄色社会のみなさん これからはよろしくお願いします」
それに続いて「ヤバTもよろしくね、ヤバT最高だよ! WANIMA最高! ももクロ! Creepy Nuts、Creepy Nuts! THE YELLOW MONKEYもよろしく!」と、他のアクトにも触れてから、歌いだした、と同時に、もうひとつのお約束が始まる。
そうだ、放水だ。消防車レベルのごっついホースを身体にくくりつけ、舞台スタッフ数名に支えられながらステージを右へ左へ移動し、歌と水を同時に客席エリアへ届ける桑田。
オーディエンスは、この日最大ボリュームのシンガロングで応える。他のアクトのTシャツを着ている人たちも、みんな大声で歌っている。画面に歌詞が出ているから、だけでは、たぶんない。1コーラスと2コーラスで節回しが変わる部分なんかも、きっちり正しく歌っているので(例:〈幾つもの夜が 通り過ぎてゆく〉の〈通り過ぎてゆく〉のところ)。
なんでみんな知ってるんだ、さっきから。サザンだからだ。まさにタイトルどおり「みんなのうた」だからだ。と、改めて実感する。
途中でホースを手放していた桑田は、後半の〈熱い波がまた揺れる〉を〈きみの身体 また濡れる〉と変えて歌い、再度、放水を始めた。
ラスト「マンピーのG★SPOT」では、「エロい」と「ダサい」のハイブリッド(ここ大事)な衣装に身を包んだ、EBATOダンシングチームの女性ダンサーたちが大挙登場。桑田は例によって、この曲で必ず頭部に装着する、しかしツアーが(あるいはそのライブが)終わると決して二度と同じものを使わない、毎回新作の被り物姿で熱唱する。
曲の頭と曲の後半に、ステージ上部からばんばん上がった花火は、曲の締めにもひときわでかい爆発音を響かせ、光を放った。
アンコールを求めて5万人がスマホの光を振る、そしてそのさまを上空から捉えた映像が画面に広がる──という、もう「うわあ……」としか言えない光景が繰り広げられたあと、メンバーが再登場。
桑田「もっとやる?」参加者「おおおー!」桑田「そう言うと思った。もっといけますかー! 愛してまーす!」。
そして、2018年のRIJFでは1曲目にプレイされた、でもこの日はここまでまだ演奏されていなかったあのピアノのイントロが響き、オーディエンスが沸騰し、リズムに合わせて「オイ!」と叫ぶ。「希望の轍」である。桑田が歌い始めると、これも頭から最後まで、桑田といっしょに大シンガロング。二回目のMCの時、桑田は「お疲れだと思いますけど、みなさん。我々のところまで待ってていただいて、ほんとありがたいです」とお礼を言っていたが、アンコールに至っても誰も疲れていない、というか、疲れなどどっか行っちゃったようにしか、見えない。
ラストはもちろん「勝手にシンドバッド」。毛ガニのパーカッションが曲を先導し、桑田がオーディエンスと「オーイェイ!」で掛け合い、サンバスタイルのEBATOダンシングチームが最大人数で踊りまくり、〈♪ラララー〉の歌い出しと同時に特効がドカンと鳴り、オーディエンスが一緒に歌い始める──というところまではいつもどおりだが、ふたつ、この日は異なることがあった。
桑田が〈砂まじりの茅ヶ崎〉を〈砂まじりのひたちなか〉と変えて歌ったことと、曲の後半、リズムと「ラララ」のコーラスだけになったところで、この日の出演者が全員登場したことだ。ヤバイTシャツ屋さん、ももいろクローバーZ、緑黄色社会、Creepy Nuts、WANIMA、THE YELLOW MONKEY、総勢20名。マジか。こんなでかい規模のフェスで、しかもアーティスト主催でもない場で、こんなこと、前代未聞にも程がある。
曲の最後は、桑田にうながされて、吉井和哉がジャンプして締めた。最後にもう一度、いや、何度も、全アクトの名前をコールした桑田、「ももクロの玉井さんに最後、締めてもらいましょう」とむちゃぶり。そういえば桑田、アンコールで着ているのはももクロのグッズTシャツである。
急に振られた戸惑いと、ここでこうして共演した興奮、おそらくその両方で涙腺決壊状態の玉井詩織は、「桑田さんのおかげで、詩織という名前になりました」と叫び、拍手喝采を浴びた(「栞(しおり)のテーマ」が名前の由来だそうです)。
他のアクトたちを見送り、最後にサザンのメンバーで、客席をバックに記念撮影。そして、去り際に桑田は言った。「本当に大変お騒がせして……いったん我々は卒業させていただきますけども、若いすばらしいアーティストたちにがんばっていただいて、今後もこのフェスがすばらしくあるように、信じております。またみなさん、近いうちに、どっかでお会いしましょう!!」。
つまり、フェスの出演アクトである、という存在を、後続に譲って終わった、バトンを渡して締めた、ということである。美しい光景だった、と思う。
個人的な考えだが、サザンが「これが最後の夏フェス出演」であることを発表した時の自分の気持ちは、正直、「ええっ!?」が1割で、「まあそうよねえ」が9割だった。
なぜ。そもそも、これまで出ていた方がおかしいから。今の日本国内でもっとも1日単位の動員数が多いフェスはRIJFだが、それとてサザンのワンマンの1日の動員数には遠く及ばない。75,000人キャパの日産スタジアム2デイズが即完するバンドなんだから。
じゃあ、自分たちのワンマンより人が少ないフェスに出る意味って何? まだ自分たちのことを知らない音楽ファンたちに曲を届けたい、ライブを見せたい、ということだろうか。それ以外考えられない、動機は。
でも、それももう、何度も何度もやってきたわけですよね。桑田とムクちゃん(関口和之)と松田弘、今年度で69歳の学年である。毛ガニは1学年上だから、70歳の大台に乗るし。
ただ、黙ってそっと出なくなるのもあれなので、ちゃんと「最後です」と宣言しよう。その方がけじめもつくし、今後ファンにもフェス側にも「出ないんですか?」「出てください」とかつっつかれることもなくなるし。
というようなことだったのだと推測する。で、納得する。ただし。だからこそ、思ったこと。
この日の二度目のMCの時、「ご存知のように、夏フェスは最後ということで」と言った桑田は、オーディエンスの「えー!?」というリアクションを受け、「夏フェスはね、最後なんだけどね……秋はね」と言ったのだ。大きな笑いと拍手で、オーディエンスはそれに応えた。
桑田さんダメー! そういうこと言うと、みんな期待しちゃうから! と、注意したくなりました。
あと、そんなふうに心配した僕ですら「サザンでは夏フェスは最後」なのよね、「ソロ桑田佳祐としても最後」とは言っていないよね。と、思っているところは、正直、あります。
■サザンオールスターズオフィシャルサイト
https://southernallstars.jp
■『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』
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