40代でのバンド再挑戦から海外ヒットへ ALBATROSS 海部洋、インディペンデントで戦う上で重要な戦略性

いい音楽を作っただけでは誰も聴いてくれない現実がある

ALBATROSS / 雨の夜と桃源郷 (Official Music Video)

ーーもちろん戦略的な部分もあるとは思いますが、やはり音楽自体がしっかり作られていることが大きいんじゃないかと思います。「雨の夜と桃源郷」が台湾で受けた理由について、ご自身ではどのように分析されていますか?

海部:「雨の夜と桃源郷」というタイトルの通り、少しファンタジーの要素もありつつメロウでどこか幻想的な雰囲気があって。想起されるビジュアルイメージが、台湾の街並みや情緒感にもフィットしたのではないかと思っています。ミュージックビデオは夜の渋谷を舞台に撮影したのですが、それも日本のカルチャーに興味を持つ台湾のリスナーに刺さったのかもしれません。いろんな要素がうまく混ざり合った結果だと思っていますね。

 僕らの楽曲は、今の日本のメインストリームで流行っているダンスミュージックとは全く違っていて、どちらかというと「ザ・歌モノ」という感じなんです。台湾では山下達郎さんのような往年のシティポップなどが流行っていることもあり、歌物が受け入れられやすい土壌もあるのかなと。

ーーこれをきっかけに、アジアや海外への配信や活動をさらに広げていこうという気持ちはありますか?

海部:「9 Chants」を無我夢中で続けながらも、どうすれば海外のリスナーにリーチするかのテストをたくさんしました。「これをやったらダメだな」とか「これをやったらうまくいく」とか、だんだん見えてきた感じがあります。広告的にも、ターゲティングやクリエイティブを変えたりしながら、ずっとトライアンドエラーを繰り返してきました。広告のクリック率(CTR)が高いものだけを残すという、いわゆるウェブマーケティングの手法を駆使して、僕もその業界にいた経験を活かしてやっているんです。

 インディペンデントでやっていると、ただ「いい音楽を作って出しました」では、誰も聴いてくれない現実があります。だからこそ、自分たちでどうしたら聴いてもらえるかを考えなければならない。これは音楽に限らず、今の社会全体がそうなってきていると思います。今の時代は、それぞれがマルチなスキルやケイパビリティを求められるようになっていますよね。

ーー確かに、SNSを使ったプロモーションしかり、アーティストも自己プロデュース能力やマーケティング能力が求められる側面もあります。

海部:僕たちはインディペンデントで活動しているので、自分たちの権利を切り売りせずに、きちんと利益が残るような仕組みを作りつつ、その代わりに自分たちで全てをやらなければならないというトレードオフがあります。だからこそ、聴いてもらうための戦略や効果を、努力を惜しまず追求することが大事だと考えています。

 トライアンドエラーと言っても、すべて個人資本でやっているので、「エラー(失敗)」したらもちろんお金がなくなるだけなんですけど、それでも失敗してみないとわからないことが多いんです。お金は消えましたが、その代わりに得たものもありました。そういう意味では、エラーも無駄ではなかったなと思います。

ーー新曲「トーキョーリバー」についてもお聞かせください。この曲は「9 Chants」を経ての集大成という位置づけになるのでしょうか?

海部:「9 Chants」は、9曲それぞれにコンセプトをしっかり持たせて、「chant=詠唱」としての側面を意識しつつ音像化したシリーズでした。さっき話したように、今の時代に僕自身が必要だと思うメッセージや、音楽が担うべきテーマを表現するため、わざと表現の枠組みを設けてきました。次に何をやるか考えたとき、そういった制限をかけず純粋に音楽を表現しようと。それで生まれたのが「トーキョーリバー」です。「9 Chants」の9曲目「光の影」が終わってから次に書き始めたのがこの曲で、何も制約のない中で自由に作った曲ですね。

ALBATROSS "トーキョーリバー"Music Video

ーー「東京」をテーマにした理由は?

海部:バンドを解散した後、会社を立ち上げ東京に出てきて感じた思いを表現してみたかったってことが大きいですね。今も形を変えつつ東京でチャレンジを続けていますが、そういう人たちの集まりじゃないですか、東京って。ほとんどが地元出身者だし、いろんな思いを持った人たちが集まっている場所が東京だと思うんです。そういう同じ境遇の人に届くと良いなと思って書いたのがこの「トーキョーリバー」です。

ーー歌詞の中で描かれる「東京」は、孤独と喧騒が混じり合う都市として描かれていますが、海部さん自身の考える「東京」のイメージは?

海部:この曲は特に、僕が首都高を走っているときに見た景色と感じたことが元になっています。首都高って高さ的に、ビルの3階や4階と目線が合うことが多くて、真夜中でもその高さの窓にはほとんど光が灯っているんですよ。家でもオフィスでも、何かしている様子が見えたり時おり目があったりします。そこには地方から上京し、一生懸命働いている人たちがたくさんいる。

 東京は、よく「冷たい」「人の温もりがない」などと言われますが、僕にはそう見えなくて。むしろ強い思いを持って集まり頑張っている人たちが寄り集まってくる場所ですし、その孤独や覚悟をお互いに慰め合っているようにも見えたんですよね。そういう姿が美しく感じられ、その感覚を元に仕上げていきました。

ーーサウンド面では、どんなところにこだわりましたか?

海部:僕自身は田舎出身なので、8年経っても渋谷に来るとやっぱりびっくりするんですよ。特に週末の夜は、良い意味でも悪い意味でもすごいエネルギーを感じます。「トーキョーリバー」のBPMや華やかなムードは、そのエネルギーやパワーを反映させました。渋谷の街にぎゅっと集まったそのエネルギーが、放出されることなく今にも弾けそうな状態。そこにはどこか「儚さ」もあるんですよね。明日には夢やぶれ。一人で地元に帰ることになるかもしれない。そんな「儚さ」や一種の孤独、パワーや寂しさ、温かさを全部ごちゃ混ぜにしたいという思いで作りました。

ーー転調の仕方もドラマティックで非常に印象的です。

海部:そこに気づいてもらえて嬉しいです。AメロやBメロは、メジャーかマイナーかよく分からずぐるぐる回っているようなイメージ。しかしサビになると、凄まじい力で旋回している。首都高って、まさに螺旋状にぐるぐると回り続けていて、その螺旋が上に昇っているのか下に降りているのか、よくわからなくなる瞬間があるんですよね。

 東京で働いたり遊んだりすることが、ある意味で麻痺させる薬のようになっていて、いつの間にか走ること自体が目的になってしまう。しかも、それが上に向かっているのか下に向かっているのかは誰にも分からない。僕自身も、会社をやっている時も今も、上がっているのか下がっているのか分からないと感じることがあります。東京は、そんな不思議な街なんだと思います。

ーーこの曲を出した後も、新曲やEPの制作が続く予定だと聞いていますが、今後の展望についても教えてもらえますか?

海部:9月には新しいコラボ作品をリリース予定です。それが9月11日に公開される予定で、DJ TAAR君とコラボレートした楽曲です。これまでのALBATROSSのバンドサウンドとは全く異なるミニマムでメロウなダンスミュージックになりそうですね。10月18日には渋谷・clubasiaでワンマンライブを開催します。今はそれに向け、いろいろと準備を進めているところです。音源も、年内にあと2タイトルほどリリースする予定ですね。あとは、台湾でライブもしたいなって思ってたりしてます。

 これまで毎月のようにシングルをリリースしてきましたが、そろそろアルバムを出したいなという気持ちもあります。しっかりとしたコンセプトを固め、1曲目から最後まで通して聴いてもらえるアルバムが作りたくて。さっきも言ったように、今はアルバム全体を通して聴かれる機会が減ってきているからこそ、そこにこだわった作品をこれからも作っていきたいですし、これを読んでいる方々には是非ともアルバム単位で楽しんでもらえたらと思っていますね。

■リリース情報
「トーキョーリバー」
配信中
https://studioalbatross.lnk.to/tokyoriver

「BINARY」
9月11日(水)より配信スタート
https://studioalbatross.lnk.to/binary

オフィシャルサイト:https://albatross-web.com
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X:https://x.com/albatross_tw
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