米津玄師の一貫した人生哲学 「がらくた」に投影される“普通になれなかった”人間のアンサー

 そして映画『ラストマイル』を彩る主題歌「がらくた」。劇場公開から間もなく、作品自体への絶賛とあわせて“物語に寄り添う”主題歌への高い評価も続々と寄せられている。

 その中には、物語の中枢を担うある一組の男女に焦点を当てたものも多い。だがおそらく本曲の主題は、彼ら二人を含む“何かしらのディスアドバンテージを背負う人間”、つまり作中人物ほぼ全員のことだろう。“がらくた”とは、使い道や値打ちのない雑多な物体のこと。しかし値打ちや価値が相対的なものである以上、作中の誰しもが“がらくた”足る側面を持つ。楽曲を通してのそんな示唆には、物事の真理を突く米津の並外れた鋭い感性が如実に表れているようにも感じられる。

 だがその上で、米津は彼らを“がらくた”のまま受け入れた。

 「Lemon」と同様、直近の個人的な体験が制作に影響したこともすでに彼の口からは語られている。しかし本作に滲む底抜けに優しい受容は、きっと彼自身が過去に抱えた、普通の人間ではない“がらくた”だった自覚も由来しているように思う。

 あなたは“がらくた”のまま生きていていい。米津のそんな温かな眼差しは作中の人物全員に、彼の友人をはじめとした今を生きる人々に。そして誰あろう、過去の彼自身にも向けられる。そんな一面に前作アルバム『STRAY SHEEP』リリース時の“数多の傷が宝石を作る”という、直近の彼の根底にある価値観との一貫性を感じる人もいるのではないだろうか(※2)。

 米津玄師楽曲の魅力のひとつである、“物語に寄り添う”個人的かつ普遍的な要素。それに付随するパーソナルな逸話を聞くと、まるで神の信託のように彼がジャストな体験を得たと感じがちだが、事の本質はそんな非現実な話ではない。

 むしろ因果関係は逆で、同じ境遇でも彼のような気づきを得られない人が本来は大半なのだろう。つまり彼の優れた能力の根幹は、“自身の人間としての営み”を感性豊かに拾い上げる力にある。皮肉な話だがその観察眼は、幼少期の疎外感から“普通の人間”になろうとした中で育んだ側面も、もしかしたらあったのかもしれない。

 だからこそ、誰よりも本質的に傷だらけの“がらくた”であり“宝石”である米津の言葉には、並外れた説得力がある。同時にその境地へ辿り着いたからこそ、彼は気づけたのかもしれない。自分だけが違う人間ではなく、同じ人間はそもそも誰一人としていない。誰とも違う個人性、それ自体がすべての人間に共通する普遍性なのだろう、と。

※1 https://www.sonymusic.co.jp/artist/kenshiyonezu/info/516629
※2 https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi16/page/2

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