back number、Mrs. GREEN APPLE、Saucy Dog、マルシィ……夏にこそ聴きたくなる恋愛ソング

Saucy Dog

　Saucy Dogの「シーグラス」はショートフィルム的な質感の曲だ。コロナ禍元年の2020年以降、大切な人との日常をかけがえのないものとして愛おしむ気持ちを歌ったラブソングが多数流行した。2020年リリースの「シーグラス」も恋人との日常の描写から始まるが、楽曲の半分以上が過ぎたところで〈サヨナラ〉という言葉が登場する。それがきっかけで、先ほどまで歌われていた日常は既に失われていることが分かる。遡ると直前には、今にもいなくなってしまいそうな“君”の雰囲気を示唆させる描写。聴き進めると、〈「じゃあね」〉と別れの言葉を口にしながら感情を溢れさせるボーカル。タイトルの「シーグラス」とは海岸や湖畔で見つかるガラス片のことで、波に揉まれたり岩にぶつかったりして、角がとれて、曇りガラスのような状態になったもの。恋人同士であれば喧嘩したり険悪な雰囲気になったりすることもあるはずだが、一緒に過ごした時間が過去の思い出に変わる中で、美しい記憶だけが残り、その記憶も鮮明ではなくなっていく。そのドラマの描き方に、ストーリーテラーとしての石原慎也（Vo/Gt）の凄みを感じた。

マルシィ

　最後に紹介するのは、マルシィの最新曲「アイラブ」だ。先の4曲とは異なり、夏のモチーフや季節を感じさせる直接的な表現は登場しないものの、アップリフティングな曲調は夏にぴったり。異国情緒のあるフレーズが鳴るイントロから新鮮味があるが、ストリングスやフルートと一緒にギターも同じフレーズを弾いているのがポイントだろう。歪んだ音色により、ポップで爽やかなだけではないニュアンスが付与されている。

　〈寝起きの君見て今日を始められること／奇跡重なった喜劇だ〉という歌い出しから、きっとこの二人は恋人同士なのだろうと想像できる。近距離での押韻、音の反復を用いつつリズミカルかつスマートに二人の関係性を描写し、心地よいメロディとともに聴き手に情報を伝達し、イメージを想起させるAメロは、作詞作曲・吉田右京（Vo/Gt）の十八番。〈適量無視した愛情〉というフレーズもあるように、主人公は恋する自分の浮かれよう、相手のことで頭がいっぱいになっている感じを自覚しながらも、気持ちを抑えず溢れさせている。中でも秀逸なのが、2番Aメロの〈脱ぎっぱなし裏返し／好き嫌いばかり／いつも君に怒られてる／未来見据えてる君に／嬉しくなっているんだよ〉というシーン。もしも実際に「怒ってくれて嬉しいよ」なんて言ったらきっと相手からビンタされるが、実は心の中ではこう考えていたんだと分かった途端、“怒られたけど嬉しい”という思考がなんだかかわいらしく思える。恋愛をモチーフにした楽曲の歌詞だからこそ許される打ち明け話だろう。

　まっすぐな想いを一貫して歌っているラブソング上で、“君とずっと一緒にいたい”という気持ちを〈全てをかけても目指す墓場まで〉〈離れる選択肢2人から無くすことにしよう〉とかなり力強い言葉で表現しているのが印象的だ。この曲では喜怒哀楽のある人生や揺れる心をジェットコースターに見立てていて、ボーカルのメロディもジェットコースターのように上昇／下降する。楽曲の目玉であるサビで、最も高揚感のあるポイント＝上昇形のメロディの頂上に配置されているのが〈愛〉そして〈恋〉という単語であるのも、主人公や「アイラブ」という楽曲自体のまっすぐさ、ひいてはキャリアを通じて幸せな恋・失恋などの誰しもが直面する普遍的なテーマである“恋愛”に向き合い続けているバンド・マルシィの在り方を象徴しているように感じた。

　冬の名曲も多いマルシィだが、ライブでの盛り上がりも期待できる新たなサマーチューンが誕生した。これから始まる全国の夏フェスでも「アイラブ」は活躍しそうな予感だ。

※1 https://x.com/SHISHAMO_BAND/status/1060264041115901952

■リリース情報
「アイラブ」
2024年5月29日 デジタルリリース
https://Marcy.lnk.to/ilove

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