ぷにぷに電機、“SFオタク”思考が音楽制作に与える影響 『11人いる!』『銀河英雄伝説』……ルーツ作品も語る

『11人いる!』『銀河英雄伝説』『Fallout 4』…ルーツのSF作品

ーーなるほど。いろいろと話せば話すほど面白いのですが、今日はせっかくのタイミングということもあり、ぷに電さんのルーツにあるSF作品を事前に3つほど挙げていただき、それに関する資料もお持ちいただいていて。作品的には、萩尾望都さんの『11人いる!』、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』、オープンワールドアクションRPG『Fallout 4』の3つになるんですよね?

ぷにぷに電機:そうですね。もちろんそれ以外にもたくさんのSF作品から影響を受けていますが、そもそも私がSF好きなのは、日常の中で自分たちが当たり前だと捉えているものが、SFの中では当たり前じゃないところなんです。「異化」という言葉があるんですけど、当たり前な世界を当たり前じゃないものとして捉え直すのに、SFというジャンルはすごく適しているなって思っていて。

 たとえば、宇宙空間には空気がないじゃないですか。地球上では普通に呼吸できるけど、宇宙ではそれができない。SF作品の中では当たり前にあるものがなかったり、絶対にあるはずのないものがあったりして、すべてを「サラッと流さない」という思考実験でもあると思うんです。それは自分が今ある現実を捉え直す上でも、すごく重要な視点だなと。

 あと、すぐれたSF作品って普遍的な問題をテーマにしていて。たとえば、『11人いる!』は原作が70年代に、アニメ版は80年代に公開されたものですが、この話には環境汚染、銃規制、性差別などの社会問題が全部入っているんです。2024年になった今もまだ解決されていませんよね。そのように、この社会で起きている物事を物語としてデフォルメしつつ、なんなら時代も飛び越えて鮮烈に突き付けてくるジャンルという意味で、私はSFが好きで……『Fallout 4』もそうなんです!

ーーひとつひとつ見ていきましょうか(笑)。まずは、SF漫画の傑作として知られている『11人いる!』は、もちろんリアルタイムではないと思うのですが、どういう文脈で知ったのでしょう?

ぷにぷに電機:『11人いる!』は1986年のアニメ映画版から入りました。そもそも私の母親が萩尾望都さんの大ファンで、家にそのレーザーディスクがあったんですよね。で、私は物心がつく前から何度も何度も繰り返し、そのビデオを観て育ったんです(笑)。そのあと原作漫画も読むようになって、さらにハマっていきました。『銀河英雄伝説』も母親の影響ですね。叔父も『銀英伝』の大ファンなんですけど、母と叔父がすべてを『銀英伝』に例えて言うんですよ。「ヤン・ウェンリーはこう言ってた」とか(笑)。私は何のことだかサッパリわからなくて……母親が私を諭すときとかに『銀英伝』の話をいちいち出してくるんですよ。その頃、未就学児の私は漢字が読めなかったから小説も読めなかったんですけど、いつか読めるようになりたいってずっと思っていて。だから、私の中で『銀英伝』はちょっとバイブル的な感じですね。

ーー(笑)。

ぷにぷに電機:実際読んでみたらすごく面白かった。『銀英伝』って戦争の話で、帝国側と惑星同盟側で主人公が2人いるんです。子ども向けのコンテンツって良いやつと悪いやつがいて、地球に姿かたちの違うやつがきたらビームでぶっ殺す!みたいな話が大半だと思うんですけど、『銀英伝』はそうじゃない。イデオロギーの違いとか社会システムの違いで人は対立し合って……『銀英伝』は戦争がどういうふうに始まって、どういうふうに泥沼化して、どうやったら戦争を終わらせられるのか、そこで葛藤する2人の主人公っていうのがすごく良くて。

ーーまさに、SFならではの思考実験というか。

ぷにぷに電機:そう。それこそヤン・ウェンリーも言っていましたけど(笑)、「人はいつでも、生命よりも大切なものがあると言って戦争を始めて、生命よりも大切なものはないと言って戦争を止める。その繰り返しである」みたいな。それを親に言われて、最初は何のことか全然わからなかったんですけど、いざ読んでみたらものすごく示唆に富んだ言葉だなって思って。ひとつの物事を多角的に見るみたいな目線が『銀英伝』にはあって、そこがすごくいいんですよね。

ーーなるほど。『Fallout 4』は……。

ぷにぷに電機:『Fallout 4』も同じで、オープニングから「人は過ちを繰り返す」という台詞が出てきます。とんでもない愚かさを持った人類が世界を滅亡させてしまったんだけど、そのあとに残された人たちはどう生きていくのかを描いている。そう、私は人類の理性にすごく興味があるんです。たとえば自分が拷問されたときに、どこまで仲間を守れるだろうとか、想像したことないですか?

ーーいや、それは、ちょっと(笑)。

ぷにぷに電機:(笑)。私は結構想像するんですけど、基本的になるべく良い人間でいたいって思うじゃないですか。でも、ある種のストレス状態というか、『Fallout 4』とか『11人いる!』もそうですけど、作中でどんどん緊張感が高まって、その緊張に耐えられなくなって、人間が理性を手放してしまうということがある。『Fallout 4』は理性的なプレイをしようとすればするほど厳しくなっていくんですよね。そういう「人間の善性」みたいなものに私は興味があるんです。あと、これは私が日常的に思っていることなんですけど、SFで描かれていることって決して絵空事ではなくて、現実世界でも十分起こり得ることなんですよね。いわゆる“ディストピア社会”とかもそうですけど、そうならないためにどういう手を私たちは打たなくてはいけないのか。それはすごく現実的な問題だなって思っているし、『Fallout 4』も『11人いる!』も『銀河英雄伝説』も、全部そういうことを描いていると私は思うんです。

ーーSF好きだからといって、フィクションの世界に耽溺するのではなく、常に目の前の現実と照らし合わせて考えているあたりが、ぷに電さんの面白いところですよね。

ぷにぷに電機:そこはやっぱり大人なので(笑)。私は自分でものを作って、それを人に聴いてもらうということをしているので、その責任があるじゃないですか。だから、責任のあるものづくりというか、クリエイターとしては倫理観みたいなものを持ってなきゃいけないなって思っていて。そう、私は今の時代に倫理というものがすごく大事だと思っているんです。

 私はここ10年ぐらい、「倫理がない!」みたいなことを感じるタイミングがすごく多くなっていて。子どものときって大人は正しいものだと思っていたし、間違えない生き物なんだと思っていたけど、いざ自分が大人になってみるとそうではなくて。勉強って大人になるためにするものじゃなくて、大人になってからも勉強をし続けて、自分が良い人間であり続けるためには学び続けなきゃいけないんだなっていうのは、ここ10年ぐらいずっと感じていることなんですよね。

ーー小さい頃からSF作品に触れてきたからそうなったのか、ぷに電さんが、もともとそういう性格だから、SF作品を好むようになったのか……。

ぷにぷに電機:どっちなんでしょう(笑)。ただ影響はすごくあると思います。特に『11人いる!』は自分の自意識が芽生える前から、何度も何度も繰り返し観ていたので(笑)。

ーーそう、アニメ版『11人いる!』と言えば、その主題歌「僕のオネスティ」にも、相当思い入れがあるとか?

ぷにぷに電機:はい、昔から大好きな曲です。学校とかに行くと流行っている曲とかあるじゃないですか。そういうものにも興味があったし、ポップミュージックも好きなんですけど、その世界だけじゃなくていいんだ、自分だけが好きでいていいんだって思うようになって。私、オタクなんですけど、シェア欲がないんですよ。誰かと一緒に楽しみたいっていう感情がまったくなくて。「あ、ひとりでやるので大丈夫です」みたいな感じなんですよね(笑)。というのは、自分の好きな音楽、たとえば「僕のオネスティ」とかって、クラスで誰も知らないんですけど、別にそれでその作品を嫌いになるわけじゃないし、その作品に価値がなくなるわけではないという価値観を、すごく小さいときから私は持っていて。みんなと話したいから聴くとか、みんなが好きだから観るとか、そういう動機じゃなくて、ただただ自分が愛を注げばいい。それは、ひとつの自立だと思っています。

ーーなるほど。ぷに電さんは「自立したオタク」なんですね。

ぷにぷに電機:そう、自立したオタク(笑)。結構オススメですよ。何年か前に『Fallout 4』の聖地であるボストンにひとりで行ったことがあるんです。『Fallout 4』ってボストンの街を完全に再現しているので、ゲームで見たことのある場所ばっかりなんですよね。あと、私は野球も大好きでボストン・レッドソックスの大ファンなんですけど、それも実は『Fallout 4』の影響で。フェンウェイ・パークっていうレッドソックスの本拠地があるじゃないですか。それはゲームの中にも出てくるんですけど、スタジアムって高い壁に囲まれているから、セキュリティが高い巨大な街になっているんですよね。それで、フェンウェイ・パークをテレビで初めて観たときに、「あ、私、ここに住んでたことある」って思って……。

ーーゲームの中で(笑)。

ぷにぷに電機:そうなんです(笑)。「これ、もう私の街じゃん!」って、レッドソックスの熱狂的なファンになりまして(笑)。一人旅でボストンに行ったときも、レッドソックスの試合を4試合ぐらい観まくって。今でもレッドソックスは大好きで、よく試合を観ているんですけど……。

ーーそっちのオタクでもあるんですね。

ぷにぷに電機:はい(笑)。でもまあ自立型なので、ひとりで適当にやっているというか、自立したオタクは相手に合わせなくていいから、自由に行動してます。そこがいいんですよね。

ーーそんな「自立したオタク」であるぷに電さんが、ステージで歌ったりしているのは、ちょっと不思議な気もしますけど……。

ぷにぷに電機:最初の頃はライブを全然やりたくなくて(笑)。私は自立型のオタクなので、人がいっぱいいるのとかも実はちょっと苦手だったりするんですよね。ただ、最近になってやっとライブができるようになりました。普段全然違う生活をしている人たちが、私のライブをきっかけに一堂に会するみたいなことは、ひょっとして面白いのかもしれないって思うようになったんです。

ーーオープンワールドのゲームの中で開催されるイベントみたいな?

ぷにぷに電機:そう! オープンワールドゲームの良イベントみたいな感じにすればいいのかって思って。そしたらライブが楽しくなってきたんですよね(笑)。だから、今回の『超重力幻想』も……だいぶ、いろいろなことをお話させていただきましたけど(笑)、みんなが楽しみたいように、それこそオープンワールドのゲームのように、この世界を自由に楽しんでいただければいいなって思っています!

『超重力幻想』

■リリース情報
EP『超重力幻想』
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