Tomoko Nia、ソロとして探求した音楽 orange pekoe ナガシマトモコが語る表現の変遷

 orange pekoeのナガシマトモコが、Tomoko Nia(ともこにあ) という名義での初めてのEP『UCHI』を発表した。彼女はすでに、2014年にNiaとしてトランペット奏者の黒田卓也らとともに全編英語詞のソロアルバム『NIA』を発表しているが、今回もすべて英語詞でありながらも、歌だけでなくソングライティングからトラックメイキングに至るまで、すべてひとりで手掛けているのが新しい。なぜこのような形で作品を発表するようになったのか、新しいスタートを切ったTomoko Niaことナガシマトモコに話を聞いた。(栗本斉)

アメリカで取り戻したティーンエイジャーのように音楽を楽しむ感覚

――2014年にNia名義でアルバム『NIA』をリリースして以来ですが、そもそもorange pekoeのボーカリストとして日本語で歌ってきていて、なぜソロのNiaでは英語で歌おうと思ったのでしょうか。

Tomoko Nia:orange pekoeでやり切れないR&Bのリズムをやりたかったんです。orange pekoeでは(藤本)一馬が作る曲はとてもメロディックで、そこがいいんですけれど、R&Bのリズムには乗りにくくて。私はR&Bが好きでそういう曲も好きだから、ソロでネオソウルみたいなアプローチでやってみようと。それでどうしようかと考えている時に、一馬が「黒田(卓也)とかええんちゃう?」と言ってくれて「おーっ、いいかも!」って。

――もともと友達だった?

Tomoko Nia:そうそう、学生の時に一馬は一緒にセッションしていたし、orange pekoeの1枚目と4枚目のアルバムにも参加してもらっているんです。たまたま、ホセ・ジェイムズのツアーで日本に帰ってきていたから、「黒ちゃん、何か一緒にやらへん?」って楽屋で話したら「ええで」ってノリで(笑)。それで、曲を作ったりしながらやり取りしているうちに、ニューヨークで録ろうってことになって、彼の周りのメンバーと一緒にレコーディングすることになったんです。

――今ではすっかり売れっ子になったクリス・バワーズとか。

Tomoko Nia:そうそう。まだクリスもホセの弟的な感じだった頃。それで、ニューヨークでは友達の家にシェアさせてもらって、毎朝近所でパン買ってコーヒー飲んで、黒ちゃんの家に行って、音楽作って、終わったら飲んで。まるで生活しているみたいな制作期間だったんです。そんなニューヨークが楽しすぎて、肌に合いすぎて、その時に出会った子たちからも「住んでいるんでしょ?」って言われるくらいに馴染んで。それで、その滞在ではバックトラックだけ作ったんですけど、やっぱり歌詞は英語にした方がいいかなと思ってトライしてみたけれど全然書けない。バイリンガルの友達に手伝ってもらったりしながら、なんとか『NIA』を作ったけれど、もっと自分で言いたいことが直接表現できたらいいのに、という思いは残って。ただ、めちゃくちゃ楽しかったんですよ、英語で歌詞を書くのが。

――アルバム『NIA』を英語詞で作ったことが、その後ニューヨークに移住する理由でもあったと。

Tomoko Nia:そうですね。レコーディングの後もヨガのティーチャートレーニングのために1カ月ニューヨークに行って、その合間にライブを観たり、ボイストレーニングに行ってみたり、いろんな人に会ったりしているうちに、音楽を宝物みたいにして味わっていた頃のようなワクワク感に火がついて、ティーンエイジャーに戻ったような気分でした(笑)。

――海外に行くと、音楽への接し方や考え方も変わりますよね。

Tomoko Nia:すごく印象的だったのは、アメリカ人って思ったよりも歌詞が好きなんですよ。orange pekoeの曲を聴かせると、「どういうことを歌っているの?」って必ず聴かれるし、ソングライティングのワークショップに行ったら、メロディのことはほんの少しで、9割方歌詞のことなんですよ。

――ええっ、それは意外ですね。

Tomoko Nia:ずっと歌詞のことを、みんなで「あーでもない、こーでもない」と言っていて。「みんなそんなに歌詞が好きなんや!」って思いました。サウンドとかグルーヴがかっこいいから音楽を聴いていた部分も大きかったけれど、英語のまま歌詞を味わうと100倍楽しいんですよ。ああ、なるほど、みんなはこれを楽しんでいるのかって。

――結局、ニューヨークとロサンゼルス、あわせて3年滞在することになるんですよね。

Tomoko Nia:そうですね。ライブも時々したり。留学ということではなくて、とにかく学びたいことがあったらその場に行ってみるという感じ。ブルックリンの端っこの方まで電車を乗り継いでピアノを習いに行ったり、ソングライティングやトラックメイキングのワークショップやレッスンに参加したり。ずっと「音楽って楽しい!」っていう感覚が続いていました。なんせティーンエイジャーなんで(笑)。

――曲作りを始めたのは帰国後からですか。

Tomoko Nia:最初はだれかとコラボしようと思ったんですけれど、LAにいた時に何度かライブに行ったら、何でもひとりでやるミュージシャンが多かったんですよ。詞曲を作って歌うのはもちろん、トラックも全部ひとりで作っていたりして。だから彼らの音楽は100%自分の音楽なんです。私はorange pekoeやソロのNiaで自分らしい音楽をやってきたけれど、100%かというとそうではない。一馬や黒ちゃんの要素もたくさん入っているし、それがコラボの良さではあるんですが、私が個人でどういう音楽をやっているミュージシャンなのかを伝えるアイテムがなかった。じゃあひとりでやってみるかと思ったんです。

――orange pekoeやソロの1stではパートナーがいて、出来上がってきた曲に歌詞を乗せていたわけですが、そうではなくひとりで全部やろうとしたわけですね。

Tomoko Nia:メロディが先にあるとすごく制限があるというか。メロディの美しさを引き立てる歌詞を書きたいという思いもあるし。だから、歌詞を先に書いて後から曲を作ったら、歌詞がより自由になるのではと思いました。メロディに当てはめるということから解放されるのは大きかった。

――それまでは、自分で曲を作ろうという意識はなかったんですか。

Tomoko Nia:才能ないと思っていました(笑)。それに、一馬も黒ちゃんもいい曲を書くから、敢えて自分で書く必要はなかったし、歌詞と歌に集中する方がいいんだと思っていました。

――今回Tomoko Niaとして再スタートというか、新しい始まりとなりましたが、そこに至るまでは、自分ひとりで音楽を作るということの延長線上にコンセプトが見えたということでしょうか。

Tomoko Nia:自分は何が好きなのか、自分の歌や歌詞を最大限に活かすにはどうすればいいのか、自分の個性はどこにあるのかなどをひとりでめちゃくちゃ考えました。まだ途中経過ではあるんですが、まずはこんな感じですよ、というのが今回の作品ですね。

誰も入らない方が自分らしさを出せると思った

――実際の曲作りの手順を伺いたいのですが、最初はトラックから作るのでしょうか。

Tomoko Nia:コードが先かな。こんなムードの曲を作りたいなとコードを決めて、それから歌詞を書いて、コード上でアドリブするみたいな感じで歌詞を読んでいるとメロディになっていくみたいな。英語はしゃべっていることがすでに音楽的というか、グルーヴもあるし、メロディもあるから、それを自然に乗せるだけで、自然体な感じです。

――それは面白い作り方ですね。ということは、今回の『UCHI』は『NIA』と音楽的には共通するところはあるけれど、作り方はまったく別ですね。

Tomoko Nia:まったくの別物です。orange pekoeは藤本一馬とのコラボレーションで、『NIA』は黒田卓也とのコラボだったと思うけれど、今回はコラボなしのまったくのひとりで作りましたから。

――トラックも歌も、完全にひとりですか。

Tomoko Nia:そうです。ミックスとマスタリングはお願いしましたけれど、演奏も歌もすべて自分ひとり。ベースもがんばってたどたどしく弾きました(笑)。もっと上手な人に頼んでもよかったんですけれど、誰も入らない方が自分らしさを出せると思ったから。プリンスやレニー・クラヴィッツの1stアルバムって、ひとりでやっているじゃないですか。密室で作っている感じでちょっといびつだけれど、音楽性がピュアに出ていていいなと思ってて。

――曲自体はたくさんある中から選んだのでしょうか。

Tomoko Nia:『UCHI』に収録した4曲は、世の中に出してもいいかなと思えた楽曲です。曲は他にもたくさんあるんですが、もうちょっと練ってから出したいと思っています。

――今回のプロジェクトで、音楽的にはどういったイメージがあったのでしょうか。

Tomoko Nia:ネオソウルのジャジーなコード感は、大きい影響源ですね。ただ、最近はアンビエントミュージックなんかも好きなので、そういった要素も入っていると思います。

――シンセサイザーの使い方などは、たしかにそうかもしれないです。今のR&Bの主流のひとつでもあるチル系のR&Bっぽい感じもありますよね。

Tomoko Nia:そうそう、その辺も好きですね。LAにいた時はアンビエントのイベントにもよく遊びに行っていたし、ニューヨークのロバート・グラスパーのようなネオソウルの再興的なジャズのライブもよく見に行きました。そういう好みも入っていると思います。あと、私は90年代キッズなので(笑)、そのあたりのテイストも自然と混ざっているかな。

――ちなみに、トラック作りの先輩であるorange pekoeの藤本さんから感想はありましたか。

Tomoko Nia:たまたま耳に挟んだときに「ええ感じやん」みたいなリアクションはありました(笑)。でもあまりがっつりは聴かせていないんですよ。Pro Toolsの使い方のことでちょっと質問させてもらったくらいかな。具体的に何か言われたら言われたでやっぱり気になるし、一馬と私は曲作りの手法も違いますから。

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